持久系アスリートでは眠気とナトリウム摂取量が正相関し、睡眠効率とレースタイムも有意に関連
持久系および超持久系ランニングアスリートの睡眠と栄養に焦点を当てた研究結果が報告された。持久系アスリートでは眠気とナトリウム摂取量が正相関することや、超持久系アスリートでは睡眠効率が良いほどレースタイムが短いという有意な関連があることなどが明らかになったという。
睡眠や栄養の影響は持久系と超持久系で異なるのか?
アスリートにとって栄養が重要であることは明らかであり、持久系競技、とくに超持久系競技では競技時間が長時間に及ぶことや競技中の消化器症状との関連から、栄養戦略がより重要になる。それを背景に、超持久系アスリートの栄養に関するガイドラインも既に策定されている。
睡眠以外にも、睡眠不足が怪我のリスクを高めたり、グリコーゲン貯蔵の減少などを介してパフォーマンス低下につながる可能性が指摘されており、持久系スポーツに関してはその種の報告も少なくない。ただし、超持久系スポーツと睡眠との関連についてはまだ知見が限られている。今回紹介する論文の著者らはこれを背景として、持久系競技と超持久系競技の栄養と睡眠に焦点を当てた研究を行った。
睡眠や栄養の把握の方法
研究参加者は、ブラジルのアマチュアアスリート16人(40.22±10.22歳、男性7人、女性9人)。同国のマンチケイラ山系で開催された、10~20kmの耐久レースに7人、50~100kmの超耐久レースに9人が参加した。
参加者には大会前に、クロノタイプ(朝型か夜型か)、睡眠の質、日中の眠気に関するオンラインアンケートに回答してもらい、また、レース中の飲食に関しては、摂取時刻と摂取したもの、および重量(容量)を記録するとともに写真を撮影してもらった。
睡眠関連の評価指標は以下のとおり。
クロノタイプは、19の質問からなる朝型・夜型アンケート(morningness-eveningness questionnaire;MEQ)で評価。MEQのスコアの合計は16~86点の範囲で、スコアが低いほど夜型、高いほど朝型と判定する。
睡眠の質は、21の質問からなるピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburgh sleep quality index;PSQI)により評価。スコア4点未満を良好、5点以上を不良と判定した。
日中の眠気は、8の質問からなる質問票で評価した。各質問に対する回答は0~3点で選択され、合計スコアが6点以下は日中の眠気なし、7~9点は境界域、10~14点は軽度、15~20点は中等度、20点以上は重度の眠気があると判定した。
このほか、ふだんのトレーニング量や重視する栄養素などをアンケートから把握した。
持久系・超持久系ともに睡眠の質が低下しており、全員が炭水化物不足
まず、持久系と超持久系とで参加者の特徴を比較すると、年齢や競技歴には有意差がなかった。BMIは持久系より超持久系のほうが低値だった(24.37±3.39 vs 21.51±1.77、Hedge's g=1.04〈95%CI;0.04~2.04〉)。また、ふだんのトレーニングでの走行距離は超持久力系のほうが長かった(13.57 ± 12.45 vs 62.2 ± 52.23km/週、Hedge's g=1.14〈0.13~2.15〉)。
超持久系アスリートでは睡眠効率が良いとレース記録も良い
ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)で評価した睡眠の質は、持久系は6.14±2.74、超持久系は4.66±2.40であり、両群ともにカットオフ値より高く、睡眠の質の低下が示唆された。群間差は非有意だった。
日中の眠気は前記と同順に、10.14±3.90、9.55±4.16であり、超持久系では眠気ありの判定カットオフ値に近い値ではあったがカットオフ値以上であり、また持久系はより高かった。群間差は非有意だった。
クロノタイプや睡眠効率、入眠時間にも有意差はみられなかったが、睡眠効率に関しては超持久系アスリートでは、レースタイムとの有意な逆相関が認められた。つまり、睡眠効率が良いアスリートほど記録が良いことがわかった(r=-0.834、p=0.039)。持久系アスリートではこの関連は非有意だった。なお、睡眠効率とは、臥床時間に占める睡眠時間の割合であり、超持久系アスリートの平均は88±16%で、持久系アスリートは85±8.60%だった。
持久系アスリートではNa摂取量が多いほど日中の眠気が強い
栄養に関する捉え方のアンケートから、パフォーマンスのために最も重要な栄養素として、43.75%のアスリートが「単純糖質が豊富な食品」と回答し、続いて「複合糖質が豊富な食品」を挙げたアスリートが37.50%であり、「タンパク質と炭水化物が豊富な食品」を挙げたのは18.75%だった。「タンパク質の豊富な食品」や「脂質の豊富な食品」を挙げたアスリートはいなかった。
実際の摂取エネルギー量に関しては、すべてのアスリートが身体活動量から推計される必要量を下回っていた。既報文献に基づく推奨量(炭水化物8g/kg/日、脂質1.0g/kg/日)と比較すると、炭水化物はすべてのアスリートが不足しており、脂質に関しては57.14%が不足、35.72%が過剰であり、推奨値に近い摂取量は7.14%のアスリートのみだった。タンパク質に関しては、28.57%が不足、42.85%は過剰、28.60%が推奨に近い摂取量だった。
このほかに、ナトリウムに関して、持久系アスリートでは摂取量が多いほど日中の眠気が強いという有意な正の相関が認められた(r=0.862、p=0.027)。超持久系アスリートではこの関連は非有意だった。
結論として著者らは、「持久系・超持久系アスリートで、ともに不十分な栄養素摂取が観察された。また、日常の睡眠習慣がパフォーマンスや栄養素摂取と関連のあることも示された」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Sleep and nutritional profile of endurance and ultra-endurance running athletes」。〔Sleep Sci. 2022 Oct-Dec;15(4):441-447〕
原文はこちら(Brazilian Sleep Association)