競技別にみた女性アスリートにおける月経異常の有病率 審美系や持久系以外で高い競技とは?
女性アスリートの月経異常の有病率を、競技別に割り出した研究結果が報告された。既に知られているように、審美系や持久系スポーツで高い有病率が観察されたが、それら以外に、バレーボールやサッカーなどのアスリートも、月経異常が少なくないことがわかったという。チェコの研究者らによる文献レビューによるもの。
審美系・持久系以外の競技アスリートの月経異常の実態を探る
女性アスリートでは月経異常の有病率が高く、とくに競技レベルが高いほどその傾向が強いことが報告されている。一般的には、体操、フィギュアスケート、バレエダンスなどの審美系競技、長距離などの体重が低いほうが有利とされることの多い持久系競技のアスリートの有病率が高いとされ、月経異常に関する研究も主としてそれらの競技アスリートを対象に行われてきている。一方で、それら以外の競技アスリートの月経異常の実態は十分に検討されていないことから、本論文の著者は、文献レビューによって月経異常の有病率を競技別に比較することを試みた。
文献検索の手順について
文献検索には、PubMedとWeb of Scienceが用いられ、2022年3月にまず1人の研究者が検索を実施。適格基準は、
- オリンピック競技大会に含まれている競技の女性のハイレベルのアスリートを対象としており、
- 遡及的または横断的研究であって、
- アスリートの月経異常の有病率を報告しているものであり、
- 2000年~2022年5月に発表されたもの。レクリエーションアスリートを対象とする研究や、英語以外の言語の論文、レビュー論文、全文を閲覧できないものなどは除外した。
一次検索で1,309報がヒットし、重複を削除後、1人の研究者がタイトルとアブストラクトに基づくスクリーニング。除外された報告について、別の研究者が除外の適切性を判断し、意見の不一致は3人目の研究者との議論により解決した。残った80報を2人の研究者が独立して精査。最終的に48報が解析対象とされた。
月経異常は審美系・持久系競技のアスリートのみの問題ではない
抽出された研究の多くは、ランナー(21件)、体操選手(14件)、陸上選手(6件)を対象に行われていた。競技レベルはエリートから大学生の範囲に広がっていた。
全体の33%で原発性無月経(初潮発来のないもの)が調査され、73%では二次性無月経(初潮発来後に無月経となったもの)が調査されており、69%は希発月経、23%ではその他の月経異常が調査されていた。
個々の研究での有病率の最大値は、新体操選手を対象とする研究で報告された原発性無月経が53.8%、二次性無月経が30.8%、希発月経が61%という数値だった。
これ以降、論文では、団体競技、タイムを競う競技、その他の個人競技というカテゴリーに分け、原発性無月経、二次性無月経、希発月経の有病率をまとめている。
団体競技
団体競技については15件の研究があった。
原発性無月経の有病率が最も高い競技はサッカーで報告されていた20%で、次いでソフトボールが15.75%、アイスホッケーの15%だった。二次性無月経はバレーボール選手20.55%(範囲11.1~30.0)、フィールドホッケー12.15%(同10.0~14.3)。希発月経はシンクロナイズドスイミング(アーティスティックスイミング)15.6%(13.0~18.2)、サッカー15%(10~20)、バレーボール11.1%などで高かった。
タイムを競う競技
タイムを競う競技については37件の研究があった。
原発性無月経の有病率が最も高い競技は水泳で報告されていた19%で、次いで中・長距離走が11.4%(1.1~20.0)、クロスカントリーの10.02%(3.20~19.17)だった。二次性無月経は自転車競技55.6%が最高値であり、短距離走23.2%(21.4~25.0)、クロスカントリー12.15%(5.3~23.1)、ボート競技17.17(0.5~55.0)が続いた。希発月経は中・長距離走24.48%(17.0~38.0)、水泳22.45%(9.5~38.9)、クロスカントリー19.87%(5.4~28.0)、ボート競技15.0%(13.3~16.7)などで高かった。
その他の個人競技
その他の個人競技については19件の研究があった。
原発性無月経の有病率が最も高い競技は新体操で報告されていた24.48%(0.0~53.8)、次いで体操が8.33%(0.0~16.65)だった。二次性無月経も新体操30.61%(7.8~50.0)や体操23.67%(14.00~33.33)で高く、テニス11.7%(9.1~14.3)、フィギュアスケート10.56%も高い値が報告されていた。希発月経についてはボクシングで54.6%という値の報告があり、次いで新体操が43.59%(13.5~61.1)、体操31.17%(29.00~33.00)、フィギュアスケート28.15%、テニス23.7%(4.5~42.9)、フェンシング20%などが報告されていた。
著者らは、検索対象が二つの文献データベースのみであるため過去の研究を全て網羅しきれていない可能性のあること、競技別に解析した場合に該当する研究が一つなど少数となり、実態の把握が困難なことなどを、本研究の限界点として挙げている。
そのうえで、「女性アスリートの月経異常の有病率は、0%から最大61%までの範囲に分布していた。全体的にこれまでに報告されている、体操や持久力を要する競技のアスリートでの有病率が高いことが確認された。ただし、バレーボールやサッカーなどのチームスポーツでも、かなり高い月経異常の有病率が認められた。われわれのレビューの結果は、月経異常のリスクが高い競技のコーチやメディカルスタッフによる、女性アスリートの月経状態のモニタリングの重要性を示唆している」と結論を述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「The Prevalence of Menstrual Cycle Disorders in Female Athletes from Different Sports Disciplines: A Rapid Review」。〔J Environ Res Public Health. 2022 Oct 31;19(21):14243〕
原文はこちら(MDPI)