サプリについての知識・考え方・アスリートへの推奨を、栄養・医療・指導者等の専門職別に比較した研究
サプリメント(nutritional supplements)に関する専門知識や、その専門知識に対する自己評価、および、各種のサプリをアスリートに勧めるか否かといった質問への回答を、スポーツ栄養士、コーチ、スポーツドクター、トレーナー、スポーツ科学者、理学療法士、マネージャー、メンタルコーチなどの専門職スタッフの職種別に比較した研究結果が報告された。オリンピック選手とのかかわりの有無により知識レベルに違いがあることや、サプリに対する知識が最も豊富なスタッフとして認識されているのはスポーツ栄養士であることなどが明らかになった。オランダからの報告。
スポーツ栄養の情報をどのくらい正しく伝えられているか?
アスリートの栄養やサプリに関する知識は十分でないとする研究がしばしば報告される。トップアスリートであれば、スポーツ栄養士をはじめとする高度な専門知識・技術を持ったスタッフのアドバイスを受けることができるが、それ以外の大半のアスリートはスポーツ栄養士へのアクセス可能な機会が限られているか、もしくはそのような機会が全くない。
多くの場合、アスリート本人が入手した情報に基づいて判断していたり、コーチや仲間などの身近な人からの情報に頼っていると考えられる。身近な人からの情報は、不十分な知識や個人的な経験に基づいた、必ずしも適切とは言えない内容のこともある。その結果、成績を十分に伸ばしきれなかったり、最も深刻なケースでは、意図しないドーピング違反のリスクが生じる。米国からは、ドーピング違反の約9%がサプリ使用によるものと報告されている。
このような状況を背景として、本論文の著者らは、オランダのスポーツ・医療専門職者のスポーツ栄養やサプリに関する知識、その知識の豊富さの自己認識、個々のサプリに対する考え方、アスリートにそれらサプリをどの程度推奨するかを調査して、職種による比較を行った。
オリンピアンとの関係を有するスタッフや、スポーツ栄養士は知識が豊富
この調査は2013~15年にWebアンケートとして実施された。オランダで開催されたスポーツ関連の会議やワークショップの参加者に回答を呼びかけ、年齢が18歳以上で、スポーツ・健康の専門家であると自己認識している人から回答を得た。アンケートの内容は、スポーツ栄養やドーピング関連の知識を問うもの、それらの知識レベルの自己認識、スポーツ栄養に最も詳しいと思う職種、個々のサプリの推奨度などで、すべての質問への回答には30~45分要する内容だった。
解析対象者の特徴
387人が回答し、そのうちすべての質問に答えた320人を解析対象とした。320人のうち45%はオリンピック選手とのかかわりを有していた。オリンピアンとかかわりのあるスタッフは、そうでないスタッフに比べて最高学位レベルが有意に高かった。
職種はスポーツ栄養士が18%であり、コーチ13%、スポーツドクター12%、マッサージ師10%、理学療法士8%、スポーツ科学者5%のほか、マネージャー、メンタルコーチ、筋トレコーチなど。
論文では、この後おもに、オリンピアンとの関係の有無、および、スポーツ栄養士とその他のスタッフで二分し、回答の傾向を比較検討している。
サプリに対する知識の高さ
サプリに対する知識は、オリンピアンと関係のあるスタッフ、およびスポーツ栄養士は有意に高い傾向にあった。
例えば、「汚染されている(ドーピングリスクのある)サプリは、少なからず影響があることもあるが、影響がまったくないこともある」、「世界アンチドーピング機構(World Anti-Doping Agency;WADA)のドーピングリストに記載されている成分を知っているか?」、「NZVT(Nederlands Zekerheidssysteem Voedingssupplementen in de Topsport)制度(オランダでのアスリート対象サプリの安全基準)を知っているか?」、「NZVTリストに収載されている製品は、有効性についてはテストされていない」などの質問に、「はい」と回答した割合は、オリンピアンと関係のあるスタッフ、およびスポーツ栄養士で高かった。
全体的に、オリンピアンと関係のあるスタッフの回答は、スポーツ栄養士の回答と非常によく一致したものだった。
栄養やサプリについて最も信頼されているのは栄養士
スポーツ栄養の知識が最も豊富だと思う職種としては、栄養士が80%の支持を集め断然トップだった。サプリの知識が最も豊富だと思う職種も栄養士が74%の支持を集め、2位はスポーツドクターの10%だった。
一方、自分自身の知識レベルを5段階のリッカートスコアで評価してもらい、人数との積で上位から20%以内に該当する採点をした回答者の割合をみると、一般的な栄養に関する知識について、栄養士は94%と高い値となったのに続き、スポーツ科学者(83%)やコーチ(70%)なども高く評価していた。ただし、スポーツ栄養に関する知識については、栄養士は82%と高く自己評価していたが、その他のスタッフは60%台以下であり(筋トレコーチは100%だが回答者が2人のみ)、サプリに関する知識も栄養士が62%でその他は50%以下だった。
エルゴジェニック効果があると思うサプリ、アスリートに推奨するサプリ
続いて、さまざまなサプリについて、エルゴジェック効果があると思うか否か、アスリートに勧めるか否かが質問された。その結果、多くのサプリについて、栄養士はエルゴジェニック効果があるとし、かつアスリートに勧めるとする割合が、栄養士以外のスタッフよりも有意に高かった。
エルゴジェニック効果があると思うか否か
栄養士とその他のスタッフとの間で、エルゴジェニック効果があると思うとの回答率に有意差が見られたサプリは以下のとおり。
ビタミンD、回復のためのドリンク、炭水化物やタンパク質を含む電解質飲料、エナジーバー・ジェル、クレアチン、カフェイン、プロバイオティクス、硝酸塩、β-アラニン、重炭酸ナトリウムは、栄養士のほうが「エルゴジェニック効果がある」とする回答が有意に多かった。
一方、マグネシウムと中鎖脂肪酸は栄養士以外のスタッフのほうが「効果がある」とする回答が有意に多かった。
アスリートに勧めるか否か
栄養士とその他のスタッフとの間で、アスリートに勧めるとの回答率に有意差が見られたサプリは以下のとおり。
マルチビタミン、魚油、ビタミンD、鉄、ビタミンC、ビタミンB群、ビタミンB12、回復のためのドリンク、炭水化物やタンパク質を含む電解質飲料、エナジーバー・ジェル、プロテインドリンク・バー、クレアチン、カフェイン、プロバイオティクス、硝酸塩、β-アラニンは、栄養士のほうが「アスリートに勧める」とする回答が有意に多かった。
栄養士以外のスタッフのほうが、「アスリートに勧める」とする回答が有意に多いサプリはなかった。
サプリの安全性にかかわる情報がアスリートに確実に届くために
まとめると、スポーツ栄養士は他のスポーツ健康の専門家から、栄養の絶対的な専門家と見なされていた。オリンピアンとかかわりのあるスタッフは、サプリなどに対してスポーツ栄養士に近い知識と態度がみられた。一方、それ以外のスタッフの知識や態度は、必ずしも現在のコンセンサスに準拠するものではなかった。
これらを基に著者らは、以下の2点を提言している。
すなわち、(1) スポーツ健康の専門家の栄養やサプリに関する知識は十分高いとは言えず、適切で安全な情報がアスリートに確実に伝えられるように、知識レベルを高める必要があり、(2) 安全なサプリ使用と、より良いアスリートの指導を促進するために、学際的な協力を強化する必要がある。
文献情報
原題のタイトルは、「How Sports Health Professionals Perceive and Prescribe Nutritional Supplements to Olympic and Non-Olympic Athletes」。〔Int J Environ Res Public Health. 2022 Sep 30;19(19):12477〕
原文はこちら(MDPI)