菜食主義で栄養素を十分摂取できるのか? 信頼できるエビデンスは? 子どもへの適用は?
成長・発育過程にある子どもが菜食主義で栄養素を十分摂取可能かという疑問を、システマティックレビューで検討した結果が報告された。論文の著者らは、これまでのこの領域の研究では「菜食主義」の定義が統一されておらず、信頼のおけるエビデンスはほとんど存在していないと述べている。
菜食主義はエビデンスのないまま実践者が増加している
菜食主義の人気が長年にわたって徐々に高まってきている。例えば米国の国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey;NHANES)では、一般人口の2.3%が菜食主義であると報告されている。英国では過去半世紀にわたり劇的な増加かみられ、1940年代には人口の0.2%であったものが、2000年には3~7%になったと推計されている。
成人が菜食主義であるということは、同居する子どももその影響を受けている可能性が高い。実際、ドイツで行われた2003~06年の調査で、14~17歳の男子の2.1%、女子の6.1%が菜食主義であることがわかった。子ども、とくに乳幼児では、栄養素の不足が成長と神経発達に悪影響を及ぼすことの懸念が大きい。成人後の疾患リスクに影響を及ぼす可能性があるが、十分に確認されていない。
菜食主義は一般的に「健康的な食生活」だと理解されている。しかし、そのエビデンスはあるのだろうか? 栄養素の不足または欠乏のリスクはないのだろうか?
今回紹介する論文の著者らによると、これまでのところ、菜食主義に関するこのような疑問の答は得られていないという。第一、菜食主義の定義が幅広く、例えば肉食をしないことが魚も排除するとは限らず、結果解釈が制限される研究が多く、さらに対照群のない観察研究が多いとのことだ。
システマティックレビューでエビデンスを探索
以上を背景として著者らは、既報文献のシステマティックレビューにより、菜食主義が子どもの成長や神経発達、発育にリスクとならないか、また、肥満のリスクまたは保護因子となるかを主題として検討した。その他に、ビタミンなどの微量栄養素の欠乏、感染症、後年の2型糖尿病や高血圧のリスクとならないかも検討した。
より具体的な臨床的クエスチョンは、「健康な乳児の食事として、動物性食品を完全に、または部分的に含まない食事は、バランスのとれた雑食の乳児と比較して、有意に異なる栄養学的発達・成長をもたらすか?」、「(そのような食事は)有意に異なる精神運動発達をもたらすか?」、「非感染性疾患(Non-Communicable Diseases;NCD.肥満・過体重、高血圧、糖尿病)を発症するリスクが異なるか?」、「ビタミンやその他の微量栄養素欠乏症を発症するリスクが異なるか?」、「感染症の発症およびそれに関連するアウトカムが異なるか?」。
文献検索では、無作為化/非無作為化比較試験、先進国で実施された交絡因子を考慮可能な観察研究、動物性食品を全く含まない/少量のみ含む食事(ビーガン/ベジタリアン)と雑食を比較可能、追跡期間12カ月以上などの条件を満たすものを検索した。除外基準は、対照群のない研究、対照群が非健康的とされる食事パターンである研究、菜食主義の内容が明確に定義づけされていない報告、追跡期間が12カ月に満たない研究など。
明確なエビデンスを得られないという結果
では結果だが、まず一つ目の臨床上の疑問である、「健康な乳児の食事として、動物性食品を完全に、または部分的に含まない食事は、バランスのとれた雑食の乳児と比較して、有意に異なる栄養学的発達・成長をもたらすか?」に関する報告としては、4件の観察研究を基にしたガイドラインなどが見つかった。しかし、そのガイドラインで取り上げている研究のエビデンスの質はいずれも低く、設定された疑問に答えられるものでなかった。
二つ目の疑問である、「そのような菜食主義は、有意に異なる精神運動発達をもたらすか?」に関する報告も症例報告が多く、それらの大半は菜食主義の負の影響を報告していた。エビデンスの高い研究は抽出されなかった。
その他の臨床上の疑問についても、ほぼ同様の結果だった。
全体として、サプリメントの補給をせずにベジタリアンやビーガンの食事パターンが子どもの身体的および神経認知的発達に及ぼす影響を評価した介入研究は、報告されていなかった。倫理的な理由から、そのような介入は承認されないためと考えられる。その一方、ベジタリアンやビーガンの食事パターンによる個々の栄養素の不足の影響の症例報告は、数多く認められた。
子どもに菜食主義は推奨できない
以上を基に論文の結論は以下のようにまとめられている。
菜食主義者(ベジタリアン)や完全菜食主義者(ビーガン)の食事は、子どもの正常な神経精神運動の発達には不十分であると推測される。とくに、ビタミンB12、DHA、および鉄の欠乏は、神経系にダメージを与え、時には非可逆的となる可能性がある。この懸念は、多数の症例報告が示している。よって、ベジタリアン/ビーガンの女性の妊娠計画中や受胎前後には、サプリメントによる補給が必要とされる。
現在のエビデンスに基づくと、ベジタリアンおよびビーガンの食事は、成人後の非感染性疾患(NCD)および感染性疾患に対する予防効果はなく、地中海食などの健康的な雑食の食事パターンと比較すると、子どもの神経心理学的発達および成長に有意に異なる結果をもたらす可能性がある。また、生後6カ月から2~3歳の乳幼児の感染症に対する保護効果を示すデータはない。
結果として、成長と神経発達に対するビタミンと微量栄養素の欠乏によって引き起こされる深刻な副作用の可能性があるため、子どもに対してベジタリアンやビーガンの食事パターンを推奨することはできない。
文献情報
原題のタイトルは、「Do Vegetarian Diets Provide Adequate Nutrient Intake during Complementary Feeding? A Systematic Review」。〔Nutrients. 2022 Aug 31;14(17):3591〕
原文はこちら(MDPI)