食事と運動、がん死亡リスクに対してより強い影響を及ぼすのはどちら? 米国女性で検討
食事や運動の習慣が、がんリスクを抑制する可能性を示唆するデータは少なくない。では、食事によるリスク低下と運動によるリスク低下を比較した場合、どちらのほうがより大きな影響力があるのだろうか? 米国の女性を対象とする研究の結果が報告された。
健康的な食事・運動習慣は、がんに対する保護効果を有しているか?
がんは米国人女性の死因の第2位を占める。ちなみに日本では周知のように、がんは死因のトップだ。
非健康的な食習慣や身体活動量の少なさが疾患リスクを高めることは広く知られている。がんのリスクについても、複数の研究から食事と運動習慣との関連が示されている。非健康的な食習慣と身体活動量が少ないことは、ともに肥満と慢性炎症を引き起こし、C反応性タンパク質(C-reactive protein;CRP)やフィブリノーゲンが高いほどがんの罹患とがん死リスクが高いという関係が知られている。つまり、非健康的な食事・運動習慣が、がんリスクを高めることは明らかだ。
しかしその反対に、健康的な食習慣や身体活動量の多さが、がんリスクに対して保護効果をもっているかという視点での研究はあまり行われていない。この論文の著者らはそのような視点から以下の研究を行った。
米国国民健康栄養調査などのデータを解析
研究には、1988~94年の米国国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey;NHANES)と2015年までの死因統計(National Death Index;NDI)のデータを用い、両者をリンクさせて解析した。
NHANESの女性参加者は9,399人で、このうち9,176人がNDIのデータを有しており、かつ、食習慣や身体活動量が把握されていたのは8,664人だった。ここからさらに、がん既往者、炎症マーカー(CRPとフィブリノーゲン)のデータ欠落者、CRPが10mg/dL以上(慢性炎症ではなく感染症などによる急性炎症時に測定されたと考えられる)、その他、教育歴などの共変量が把握されていない人などを除外し、最終的な解析対象は3,590人とされた。
食習慣はHEIで評価、身体活動の多寡はガイドライン推奨量から判定
対象者の食習慣は、米国農務省が作成した健康食指数(Healthy Eating Index;HEI)で評価した。HEI 80点超を食習慣が「良好(good)」と定義すると、対象の22.2%が該当した。HEI 51~80点を「改善が必要(needs improvement)」とすると、69.1%が該当した。他の8.7%はHEI 51点未満であり食習慣が「不良(poor)」と判定された。
身体活動量については、米国疾病対策センター(Centers for Disease Control and Prevention;CDC)が作成した米国人のための身体活動ガイドラインに基づき評価した。ガイドラインの推奨を満たしている場合を「十分(met)」とすると、対象の35.1%が該当し、運動を行っているが推奨を満たしていない「不十分(not met)」は44.4%だった。他の20.5%は運動を行っていない「非活動的(inactive)」と判定された。
炎症マーカーは食事の質とは関連がなく、身体活動量とは有意な負の相関
解析対象者3,590人は、年齢が中央値57歳(範囲40~89)で、BMIは70.5%が30未満、63.3%が既婚またはパートナーと同居しており、53.8%が非喫煙者、25.5%が前喫煙者、20.7%が現喫煙者であり、併存疾患数は中央値2(範囲1~9)だった。8割は主観的健康感が「良好」と申告し、2割は「不良」と申告した。
CRPは平均0.51mg/dL(範囲0.21~8.9)、フィブリノーゲンは平均308mg/dL(同26~957)だった。HEIスコアとCRP(p=0.45)、およびフィブリノゲン(p=0.11)との間に有意な関連はなく、この点を著者らは「注目すべきこと」と述べている。一方、身体活動レベルの低さはCRP、フィブリノーゲンと逆相関していた。具体的には、CRPは非活動的な群は0.66mg/dL、不十分な群は0.49mg/dL、十分な群は0.44mg/dLであり、フィブリノーゲンは同順に334mg/dL、305mg/dL、297mg/dLだった(両者ともにp<0.001)。
食習慣が良好な群はがん死リスクが有意に低い
2015年末までがん死の発生を追跡。その結果、食習慣が良好で身体活動量が十分な群は、食習慣が不良で非活動的な群に比べて、がん特異的生存率(がん死せずに生存している確率)が有意に高かった(p=0.01)。全生存率については有意水準に至らなかったが、やはり食習慣が良好で身体活動量が十分な群は高い傾向がみられた(p=0.09)。
がん死リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、人種、教育、収入、婚姻状況、BMI、喫煙状況、慢性疾患、炎症マーカー、主観的健康観)を共変量として調整した多変量解析の結果、がん死リスクに影響を及ぼす因子として、収入、喫煙状況、婚姻状況などとともに、食習慣が抽出された。具体的なハザード比は以下のとおり。
収入
貧困対所得比率(Poverty-income ratio;PIR)2.0未満の低所得群を基準として、PIR2.0~4.0未満の中所得群ではHR0.69(95%CI;0.48~0.99)、PIR4.0以上の高所得群ではHR0.64(同0.42~0.97)であり、いずれも有意にがん死リスクが低かった。
婚姻状況
独身群を基準とすると、婚姻またはパートナーと同居群はHR1.46(1.04~2.06)であり、がん死リスクが有意に高かった。
食習慣
HEI 51~80点の「改善が必要」群を基準とすると、HEI 80点超の「良好」群はHR0.70(0.51~0.98)で、有意にがん死リスクが低かった。HEI 51点未満の「不良」群はHR1.49ながら95%信頼区間は0.73~3.03であり、がん死リスクとの有意な関連はなかった。
身体活動量
非活動的な群を基準としたハザード比は、ガイドラインの推奨を満たしている「十分」な群がHR0.87、「不十分」な群はHR1.15だったが、ともに95%信頼区間が1を跨いでいてがん死リスクとの有意な関連がなかった。
その他
BMI、人種、教育歴、主観的健康観は、がん死リスクとの有意な関連がなかった。なお、BMIについては30未満に比べて30以上でHRが1.48だったが、p値は0.06と、わずかに非有意だった。食習慣の良さは炎症レベルとは関連がないが、がん死リスクの低さと関連
以上をまとめると、食習慣はがんリスクに関与する慢性炎症とは関連がなく、身体活動量が多いことは慢性炎症レベルの低さと関連があった。しかしその一方で、がん死リスクは食習慣が良好の場合に低く、身体活動量とは関連がなかった。
論文の結論は、「健康的な食事は、肥満、炎症、その他の共変量を調整した後でも、女性のがん死亡率の低下と関連していた。女性のがん死亡率を低下させるうえで、食事は身体活動よりも、強力な役割を果たす可能性がある」とまとめられている。
文献情報
原題のタイトルは、「The Role of Diet Compared to Physical Activity on Women's Cancer Mortality: Results From the Third National Health and Nutrition Examination Survey」。〔Front Public Health. 2022 Aug 1;10:853636〕
原文はこちら(Frontiers Media)