女性アスリートのパフォーマンス向上のための、β-アラニン、カフェイン、硝酸塩のエビデンス
代表的なエルゴジェニックエイドのうち、β-アラニン、カフェイン、硝酸塩という三つについて、現時点での女性アスリートのパフォーマンス向上に関するエビデンスをまとめた、米国の研究者によるレビュー論文が報告された。要旨を抜粋して紹介する。
サプリのエビデンスの多くは男性アスリート対象研究から得られたもの
女性と男性の性差に留意した医療「性差医療」が広がり、「女性は小さな男性ではない」との共通理解が定着している。他方、医師の処方箋を要さない栄養補助食品(サプリメント)に関しては、性差があまり留意されていない。サプリメントの利用率はアスリートにおいて一般人口より高く、かつ、アスリートのサプリ利用にはパフォーマンス向上という明確な意図があるにもかかわらず、そのエビデンスは主として男性で検討されたものである。
女性と男性との間にはさまざまな差異があるが、アスリートの年齢での最も顕著な差は月経周期にともなうホルモンレベルの変動と言える。性ホルモンが代謝に影響を与えることは十分に明らかになっており、サプリ摂取の影響も月経周期により異なると考えられる。ただし、その点の研究も十分でない。
本論文の著者によると、β-アラニン、カフェイン、硝酸塩という三つのサプリは、女性アスリート対象の研究に基づく確固たるエビデンスが不足したまま、最も広く普及しているエルゴジェニックエイドの代表だという。そして、現行のサプリ摂取に関するガイドラインは、その推奨量に体重が考慮されていることはあるものの、女性と男性を区別しておらず、あたかも性別による違いはないとの前提で策定されているかのようだとしている。
このような現状を背景として著者らは、文献レビューによって、女性アスリートでのβ-アラニン、カフェイン、硝酸塩のパフォーマンスの影響について、とくに月経周期に留意しながら現在のエビデンスを確認する作業を行った。
2000年以降の研究報告から34件を抽出して分析
文献検索には、PubMed、SPORT Discus、Scopus、Google Scholarという四つのデータベースが用いられた。「女性」「アスリート」「スポーツ」および当該サプリの名称をキーワードとして設定し、2000年以降2021年3月までに報告された、無作為化比較対照試験(randomized controlled trial;RCT)を検索。研究参加者の平均年齢が40歳を超過している研究は、閉経期によるホルモン動態や加齢変化による生理学的変化が結果に影響を及ぼしている可能性があるため除外した。また、女性と男性の双方を対象とする研究のうち、性別による層別化解析を行っていない研究も除外した。
全体で34件の研究が特定され、レビューの対象となった。論文ではこれ以降、三つのサプリについて、抽出された研究報告の概略を述べた後、包括的な考察を述べている。ここではその考察の部分を紹介するが、女性アスリートでの強力なエビデンスを確認できなかったことが論旨のベースとなっている。ただし、検索で抽出された研究の多くはサンプルサイズが大きくないことから、解析結果が非有意であることが直ちにそのサプリが無効であることを表すものではないとの注意も記されている。
β-アラニン
β-アラニンは、本研究の対象とした三つのサプリの中で、女性のスポーツパフォーマンスに関するエビデンスが最も少なく、見つかった研究は9件だったという。
女性におけるβ-アラニンの研究は、スポーツトレーニングの生理学的適応に直接的な相加効果を有していない可能性があることを示唆しているが、緩衝作用によって自覚的運動強度(Rate of Perceived Exertion;RPE)の低下に役立ち、長時間の運動セッションやトレーニングの強化を可能にすると結論づけられている。
カフェイン
カフェインは、世界で最も人気のあるエルゴジェニックエイドの一つとして、今回の検討対象の三つのサプリの中で最も研究されているが、女性を対象に行われたカフェインの研究では、性別固有の影響と推奨すべき摂取量についてのコンセンサスは確認できなかった。
研究結果は一貫性を欠くものの、女性アスリートの嫌気性・有酸素パフォーマンスの向上、痛みの軽減などを報告したエビデンスは存在している。カフェインの有効性は、性別だけでなく、生理的応答の個人差の影響が存在している可能性があり、一部の人は他の人よりも強く反応するだけでなく、体重を考慮した特定の用量のみが有効である可能性もある。
硝酸塩
食事性硝酸塩の影響を女性で調査した研究は10件であり、結果に一貫性はみられない。硝酸塩の女性アスリートのパフォーマンスに対する有効性は、コンセンサスがほとんど得られていない。ただし、いくつかの特定のスキルについては、明確な有用性が示されているものもある。
月経周期とサプリ摂取
今回の研究で分析対象とした34件はすべて女性を含む研究だったが、月経周期を考慮した研究は10件のみだった(β-アラニンで1件、カフェインで7件、硝酸塩で2件)。また、それら10件の研究は、月経周期のどの段階で試験をしたかという点での一貫性がなく、黄体期や卵胞期に行われたり、避妊対策の有無が考慮されていないものも含まれていた。
このように、女性アスリートでのサプリ摂取の影響に関する研究では、月経周期への考慮という視点が欠如しているものが多いことに加え、男性アスリート対象研究とはいくつかの明白なギャップが存在すると著者らは述べている。その一つはサンプルサイズであり、今回検討対象とした研究のサンプル数の平均は16にすぎないとのことだ。このように少数の研究では、有意差の検出が困難になると著者は指摘している。
論文の結論には、女性アスリート対象研究の充実を訴求し、将来的には女性のためのサプリ推奨量を提示したガイドラインの策定が求められると述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Dietary Supplements for Athletic Performance in Women: Beta-Alanine, Caffeine, and Nitrate」。〔Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2022 Feb 23;1-13〕
原文はこちら(Human Kinetics)