スマホ中毒の渇望感を有酸素運動で抑制可能 中国の大学生での無作為化比較試験
スマホ中毒とよばれる状態に対して、有酸素運動がその症状の抑制に有効であるとする研究結果が報告された。中国の大学生を対象に行われた無作為化比較試験により、有意差が示された。
薬物、タバコ、アルコール、そしてスマホ
スマホの登場は人々の生活を劇的に変えたと言ってよいだろう。情報の閲覧・検索はもちろんのこと、対人コミュニケーション、ショッピング、即時決済など、利便性は今も年々向上している。しかしその一方で、手元にスマホがないと不安になったり、スマホ利用の欲求を抑えられないといった、いわゆる「スマホ依存症」または「スマホ中毒」と呼ばれる人の増加が世界的な問題になっている。
近年、モバイル電話への依存(mobile phone dependency;MPD)やモバイル電話中毒(mobile phone addiction;MPA)が最も重要な行動依存症になるとの予測があり、既にその有病率は28.3%に上っているとの報告もある。スマホ依存症はその個人の生活や社会活動に多くの影響を及ぼし得るが、学生の場合は学業が疎かになるという問題も生じる。
一方、運動が身体的・精神的健康の維持・向上効果を有することに関しては膨大なエビデンスが存在する。薬物やタバコ、アルコールの依存状態の治療法として、有酸素運動が用いられることがあり、その効果も複数報告されている。このことから、スマホ依存症に対しても運動が有効な可能性がある。今回紹介する研究は、その可能性を検証したもの。
30分の有酸素運動でスマホへの渇望を抑制可能か?
研究参加者は中国の大学生(18~22歳)から募集された。適格条件は、後述するスクリーニングによりスマホ依存症と判定され、疾患や障害を有しておらず、30分間の中~高強度運動を行う体力があること。男子学生と女子学生それぞれ30人、計60人が採用され、性別が均等になるよう調整したうえで無作為に2群に分け、1群を運動介入群、1群を対照群とした。なお、研究参加者にはインセンティブとして50元(約1,000円)を手渡した。
スマホ依存症の判定法などについて
スマホ依存症の判定には、大学生対象モバイル電話中毒傾向尺度(mobile phone addiction tendency scale for college students;MPATS)という指標を用いた。これは、例えば「直接顔を合わせて会話するよりもモバイル電話を好む」などの16項目の質問に対して、5点のリッカートスコアで回答し、合計16~80点で評価するもの。既報論文に基づきスコア57点以上をスマホ依存症として本研究の対象とした。
スマホ利用の渇望感については、1~10点のVAS(visual analog scale)で評価した。
このほか、日常の身体活動(physical activity rating scale-3;PARQ-3)を把握したほか、介入群については運動負荷時の自覚的運動強度(rating of perceived exertion;RPE)を評価した。
介入方法について
運動介入群に対しては、5分間のウォームアップ、30分間の中強度のトレッドミル運動、5分間のクールダウンからなる、急性有酸素運動を計40分かけて行った。トレッドミルの負荷は、〔207-0.7×年齢〕で算出した推計最大心拍数の45~68%とした。トレッドミル走行中はバックミュージックを流した。
一方、対照群に対しては、運動負荷をかけずに40分間、単にバックミュージックを聞くだけとした。
これらは午前8時30分~11時30分の間に行われ、実験室内の温度は約25度、湿度は50~60%に保った。
スマホ利用渇望感の評価方法
上記に続いて、さまざまなスマホ本体やディスプレーの壁紙、ゲーム、映画などの画像や映像、着信音の音声、アプリケーションなど10種類のデータをランダムに被験者に見聞きしてもらい、スマホ使用の動機付けを行った。その直後に、先述のように1~10ポイントのVASにより使用に対する渇望感を評価した。
急性有酸素運動でスマホ渇望感が抑制される
結果について、まず研究参加者の各群の特徴を比較すると、年齢、身長、体重、BMI、身体活動量に有意差は認められなかった。また、MPATSで評価したモバイル電話依存レベルは、介入群が61.23±5.14、対照群が60.60±3.62であり、やはり有意差はなかった。
介入群の自覚的運動強度(RPE)は12.63±0.93であり、参加者がトレッドミル運動を続けるのがやや困難と感じたことを意味し、中強度の有酸素運動が行われたことが確認された。運動負荷中の心拍数は145.77±5.69/分で、対照群は72.63±3.26/分だった(p<0.001)。
さて、本研究の主題であるスマホ利用への渇望感だが、VASスコアは介入群が3.77±1.36、対照群が6.12±1.39であり、介入群のほうが有意に低値だった(p<0.001)。
著者らは本研究に、急性効果のみを検討しており日常的な有酸素運動の効果は不明なこと、中国の大学生のみでの検討であり他の集団への外挿可能性が不明なこと、心理・行動学的な評価が十分でないことなどの限界点があるとしたうえで、「30分の中強度有酸素運動は、スマホ依存度の高い大学生の渇望感を効率よく抑制できる」と結論している。
文献情報
原題のタイトルは、「The Influence of Acute Aerobic Exercise on Craving Degree for University Students with Mobile Phone Dependency: A Randomized Controlled Trial」。〔Int J Environ Res Public Health. 2022 Jul 23;19(15):8983〕
原文はこちら(MDPI)