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女性アスリートの健康とパフォーマンスのオーバービュー 怪我や性的暴力なども含めた総括

女性アスリートを取り巻く諸問題に関する米国の研究者によるレビュー論文が発表された。女性アスリートの怪我の予防やパフォーマンス向上、および、女性チームドクターの役割などについて論じられている。一部を抜粋して要旨を紹介する。

女性アスリートの健康とパフォーマンスのオーバービュー 怪我や性的暴力なども含めた総括

女性アスリートは急増したが、女性のメディカルスタッフはいまだ少ない

2016年のリオデジャネイロオリンピックでは、1万1,444人のアスリートの45%が女性で占められ、その比率は過去最高だった。実際、競技スポーツに参加する女性の数は、指数関数的に増加してきている。しかし1896年に開催された初の近代オリンピックでは、女性の参加が許可されていなかった。当時、女性は優しく受動的な存在であり、虚弱であるほど美しく望ましいと考える、一般的な風潮があった。また、激しい運動は女性の生殖能力を損なうという誤解も、女性のスポーツへの参加を拒んでいた。ただし、いったん女性が世界のスポーツの舞台への参加が許可されると、女性アスリートは徐々にそれまでの神話の誤りを暴き、障壁を打ち破ってきた。

さらに米国では、1972年に男女の機会均等を定めた「Title IX(タイトル・ナイン)」と呼ばれる法律が制定されると、この流れがより加速した。現在、米国の大学生アスリートの43.7%を女性で占めている。しかし、女性アスリートをサポートするメディカルスタッフには、いまだ女性が少ない。チームドクターに占める女性の割合は12.7%にすぎないと報告されている。最も女性ドクターの割合が高い、女子バスケットボールでも31.3%だ。アスリートの怪我予防やパフォーマンス向上などに関するエビデンスが、男性アスリート対象の研究から発信されたものが主体であるという問題はしばしば指摘されるが、本論文の著者らはこのように、サポートスタッフの性差の問題についても言及している。

怪我の予防

膝の怪我

女性は男性よりも体脂肪が多く筋肉量は少ない。この性差はさまざまな影響を生み出すが、その一つとして前十字靭帯断裂のリスクを高める。とくに男性アスリートと異なり、非接触メカニズムによる前十字靭帯断裂が多いことが報告されている。また、膝蓋大腿痛症候群も女性アスリートの膝の酷使に伴い発生しやすい。

骨ストレス

月経異常、エネルギー可用性の低下、および骨塩量の性差等を背景として、女性アスリートは疲労骨折のリスクが高いことはよく知られている。危険因子のスクリーニングに基づき予防的な介入が求められる。漸増抵抗トレーニング(progressive resistance training)の有用性が報告されている。

性的暴力

この論文では、「性的暴力」をセクシャルハラスメントと性的虐待(同意が得られていない性的行為)の両方が含まれると定義している。

すべてのアスリートは性的暴力のリスクにさらされており、そのリスクは過小評価されている疑いがある。また、早期に専門性が確立される傾向のある競技、思春期前後に集中的な指導が行われるアスリートでリスクがより高いことが報告されている。低年齢であることや指導者への依存度が高いことは、いずれもリスクを生みやすい環境である可能性があるのではないか。

女性アスリートは男性アスリートと比較して、性的暴力を受けやすいのではないかと考えられる。スポーツにおける性的暴力に対する懸念に対して最近、国際オリンピック委員会や米国スポーツ医学協会がコンセンサスステートメントを発表した。性的暴力を撲滅する最初のステップは、関係者の問題意識を高めることにある。

具体的には、アスリートと異性のサポートスタッフが同じ部屋に二人だけになることや、大会参加時の宿泊施設の部屋を共有すること、練習後にアスリートを自宅に立ち寄らせることなどは絶対にすべきでない。

パフォーマンスの最適化

月経周期の影響

エストロゲンは筋力を高め、その喪失は筋力低下につながる。また、エストロゲンとプロゲステロンはともに、脂肪、タンパク質、炭水化物の代謝に影響を与える。ただしそれがパフォーマンスにどの程度影響を与えるのかは明確でない。

月経周期とパフォーマンスの関連性を指摘した研究が複数あるが、反対にそれを否定する結果も報告されている。メタ解析の結果は、非常にわずかな効果量が示された。その論文の著者らは、大多数の女性アスリートにとって顕著な関連はないが、一部のアスリートは月経周期によりパフォーマンスに重要な差が生じるのではないかと結論している。

乳房サイズのパフォーマンスへの影響

乳房のサイズが大きくなると、女性の身体活動量は低下する。17%の女性が、乳房が身体活動の障壁であると報告している。この背景には、乳房サイズにあった適切なスポーツブラがないこと、乳房の動きに対する羞恥などがスポーツへの障壁であることを示している。

正しくフィットするスポーツブラは、運動に関連する乳房の痛みを軽減し、首や背中の痛みのリスクを軽減する。しかし、胸の動きを抑制するスポーツブラは不快であることが多く、高性能のスポーツブラが必ずしも本人にとって最適のスポーツブラとは言えない。最近、スポーツブラを選ぶときに考慮すべきリストが公開された。その報告では、生地や形状、大きさなどのポイントとともに、スポーツドクターが女性アスリートとスポーツブラについて語り合うことの必要性を強調している。

論文ではこのほかに、妊娠中や産後の女性アスリートの諸問題への対応、女性アスリートのサポートスタッフの性差の問題など、幅広い視点から考察が加えられている。とくに結論では女性のスポーツドクターの少なさに触れ、スポーツ医学におけるジェンダー平等を推進する必要性を指摘している。

文献情報

原題のタイトルは、「Optimizing Health and Athletic Performance for Women」。〔Curr Rev Musculoskelet Med. 2022 Feb;15(1):10-20.〕
原文はこちら(Springer Nature)

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