食事療法にはお金がかかる? 7種類の食事スタイルをシミュレーションしてコストを比較 オーストラリア
7種類の食事スタイルを、コストの面から比較した研究結果がオーストラリアから報告された。最も安価な方法でも同国の平均的な食費の支出よりも、週に100ドル以上高くなるという。また、同国政府のガイドラインに則した食生活の場合、平均収入の24.4%を食費にあてることになるとのことだ。ただし、この値は、他の食事スタイルに比較し高いものではないという。
「ガイドラインに則した食事は高コスト」の根拠は乏しい
健康的な食生活のために、世界の多くの国がそれぞれの国の文化や国民に好発する疾患、食習慣、食料生産などを考慮したうえで、食事ガイドラインを策定している。それにもかかわらず、食習慣の乱れが発症に関与する生活習慣病が減らない理由の一つとして、ガイドラインに則した食生活にはコストがかかり、社会経済的弱者は遵守が困難だから、という理由が語られることがある。ただし、本論文の著者によると、そのような主張はしばしば主観的なものであって、エビデンスは少ないという。そして、従来、食事療法の評価の際に、コスト面が考慮されることはめったになかったとのことだ。
そこで本論文の著者らは、オーストラリアで一般的に行われている複数の食事スタイルのコストをシミュレーションして比較した。
Googleトレンドデータなどから7種類の食事スタイルを特定
Googleトレンドデータなどを用いて、オーストラリアで人気が高いと考えられる、減量のための食事スタイルを5種類特定。それに、同国政府発行のガイドラインに基づく食事療法、および地中海食を加え、計7種類の食事スタイルのコストをシミュレーションした。
オーストラリアで人気の食事スタイルとして特定された5種類の食事は、以下のとおり。
ケトジェニック食
高脂肪、低~中程度のタンパク質、および非常に低レベルの炭水化物を摂取し、栄養学的ケトーシスと呼ばれる状態にする。ケトジェニックダイエットはてんかんのための食事療法として確立されており、2型糖尿病や心血管疾患、および減量に対しても有用性が示されている。なお、ソーシャルメディアで脂質の供給源として喧伝される食品は、ココナッツオイル、バター、カカオバター、ギーなどであり、高コストであることが多い。
パレオ食(旧石器時代食)
主要栄養素の摂取量に関する特定の推奨事項はないが、タンパク質、炭水化物、脂質を27:31:45とするとの仮説が立てられている。パン、パスタ、米などの穀物由来製品を制限するため、低炭水化物ダイエットに含まれる。加工食品を制限し、新鮮な食材を食べることに焦点が置かれている。
断続的断食
一般には時間制限食として知られる。食事の時間枠があり、その後に絶食期間が続く。絶食により脂肪燃焼が亢進し減量に結び付くという理論が示されている。摂取エネルギー制限と組み合わせて実施されることもある。一般に、食べるべきものや避けるものは示されない。
8 Weeks to Wow(8WW)
トレーナーの下での運動療法も組み合わせた減量プログラム。食事に関しては、摂取すべきものと避けるべきものが明示されている。摂取すべきとされる食品には野菜とタンパク質が多く、乳製品、果物、パン、シリアルが少量含まれている。また、低炭水化物の代替品や、こんにゃくライス・麺、高タンパク質パンなどの一部には、特定のメーカーの製品が推奨されている。
Optifast
肥満者用に開発されたミールリプレイスメントプログラムで、肥満代謝改善手術の適応となるような患者に勧められる。ただし同国では、それ以外の一般の人が店頭で入手することが可能であり、栄養士等の管理下以外でも用いられている。中程度から高程度のタンパク質、中程度の炭水化物、低~中程度の脂質で、全体として低エネルギー。
週に100豪ドル以上出費がかさむという結果に
食材のコストは、同国の2大スーパーマーケットであるコールズとウールワースで店頭価格を調査し、基礎資料とした。シミュレーションは、1週間あたりの食材費、および、1週間あたりの食料品としてのコストを算出した。後者は、製品がパッケージになっていて、小分けでの購入ができないケースがあるためであり、実際の購入パターンにより近いシミュレーション。
論文中には両者の値が示されているが、ここでは後者の値のみを以下に記す。なお、括弧内の数値は同国の平均年収(2019年の税引前年収が1,659豪ドル)に対する、シミュレーションされた食費の割合。
ケトジェニック食475.90豪ドル(28.7%)、パレオ食435.00豪ドル(26.2%)、断続的断食475.90豪ドル(28.7%)、8 Weeks to Wow 345.30豪ドル(20.8%)、Optifast 624.90豪ドル(37.7%)、地中海食452.00豪ドル(27.2%)、オーストラリアガイドラインに則した食事404.40豪ドル(24.4%)。
社会経済的弱者は健康的な食生活が確かに困難
オーストラリアの人々が実際に食費にあてている金額は、平均237豪ドルだという。結果として、シミュレーションしたすべての食事スタイルで、実際の食費を上回る出費となり、最も安価なスタイルでも週に100豪ドル以上超過していた。一方、食事ガイドラインに則した食事が他の食事スタイルに比べて高くつくとは言えないことも明らかになった。
Optifastを除いていずれのシミュレーションでも、収入の3割以内に食費は抑えられることがわかった。ただし、食費が収入の25%を超えると、食料不安につながる可能性があるという。
以上より論文の結論は、「低所得者など社会経済的な弱者にとって、減量のために健康的な食事スタイルを長期間続けることは困難かもしれない」と述べられている。ただし、食事療法から逸脱した食事スタイルによって、実際の食費が余計にかかっているケースもあると考えられるとのことだ。
文献情報
原題のタイトルは、「Developing and implementing a new methodology to test the affordability of currently popular weight loss diet meal plans and healthy eating principles」。〔BMC Public Health. 2022 Jan 6;22(1):23〕
原文はこちら(Springer Nature)