栄養サプリメントの28%に意図しないドーピングのリスク 文献レビューの結果
世界で流通している栄養サプリメントの28%以上に、意図しないドーピングのリスクがあるとする論文が発表された。これまでの研究報告50報のレビューに基づく結果であり、3,132種類のサプリメントのうち、875種類にそのリスクがみつかったとのことだ。
意図しないドーピングの実態を文献レビューで考察した研究
ドーピングはスポーツにおける犯罪と見なされ、タイトルの喪失や競技参加の禁止、および社会的評価の急落といったペナルティーを科せられ、本人の健康への悪影響も懸念される。
このようなドーピング行為の撲滅のため、世界ドーピング防止機構(WADA)は禁止リストを定めており、それには医薬品と非医薬品が該当する。しかし、このリストに記載されていないものがすべて安全とは限らず、製品パッケージに記載されていない成分が含まれていたり、記載されていたしとても用量が異なっていたりすることがある。それを知らずに使用してドーピング検査で違反がみつかるという「意図しないドーピング」のリスクがゼロではない。医薬品であれば厳格なチェック体制のもとで流通しているが、サプリのチェック体制は世界的に医薬品と比べて格段にゆるやかであるため、このようなリスクのある状態が長年続いている。
さらに、意図しないドーピングのリスクを高めるもう一つの背景として、サプリを利用するアスリートの増加も指摘される。2000年のシドニー五輪では、アスリートの78%が試合前3日間にサプリを利用していたと報告されており、2004年のアテネでも75.7%と報告されている。他の報告では、エリートアスリートのサプリ利用率は69~94%の範囲とされている。
このような状況を背景として、本論文の著者らは、意図しないドーピングについてのこれまでの研究報告を対象とするレビューによって、その実態を考察した。
文献検索の手順について
文献検索には、PubMed、Google Scholar、Science Direct、Web of Scienceを用い、検索キーワードには、意図しないドーピング、不注意によるドーピング、栄養補助食品、禁止物質などを設定した。検索でヒットした文献の参考文献もスクリーニング対象に含めた。
採用基準は、査読システムのあるジャーナルに掲載された、ドーピングに関する研究報告であり、英語またはドイツ語で執筆されているもの。学会報告やレビュー、動物実験の報告などは除外した。
2名の研究者が独立してスクリーニングを行い、採否を検討。意見の不一致は3人目の研究者との協議により解決した。これらの工程は、システマティックレビューとメタ解析に関する優先報告項目(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-analyses;PRISMA)に準拠して行われた。最後の検索は2021年6月に実施された。
明記されていない成分で最も多いのは、肥満治療薬のシブトラミン
一次検索で3,535報がヒットし、スクリーニングと全文精査を経て、50報が抽出された。それらの論文が発表された時期は、1996~2021年だった。総計3,132種類のサプリについて言及されており、そのうち875種類から、製品ラベル等に明記されていない物質が検出されたことがわかった。
それら875種類のサプリのうち248種類(28.34%)には、日本の製薬企業が開発した肥満治療薬であるシブトラミン(国内では承認されていない)が含有されていた。続いて、テストステロンおよびその他の同化ステロイドホルモンが228種類(26.06%)、その他、1,3-ジメチルアミルアミン(DMAA)58種類(6.62%)、フルオキセチン192種類(21.37%)、ヒゲナミン15種類(1.71%)などが使われ、利尿薬や選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)もみつかったという。
この結果から、論文の著者は、「これまでに調査されてきたサプリのほぼ28%が、意図しないドーピングの潜在的なリスクを有することがわかった」と述べている。なお、レビュー対象となった研究報告では、サプリの入手にあたってそれぞれの研究の研究者らが店頭で購入したり、インターネットで入手していた。つまり、リスクのあるサプリを、世界中どこにいても、ほぼだれでも入手可能な状況にあった。
アスリートへの情報提供とチームでのリスク管理が必要
以上からの結論として著者は、以下のように述べている。
「アスリートのほぼ100%がサプリを使用している。これは、迅速な回復、優れたパフォーマンスといったメリットを得ようとする目的のためである。しかし、流通しているサプリには、シブトラミン、アナボリックステロイド、ヒゲナミン、1,3-ジメチルアミルアミンなどが、製品に明記されないまま含まれていることがあり、実際にサプリ利用という不注意に基づくドーピングリスクが報告されている。アスリートが意図しないドーピングの犠牲者になるこのような状況は、安全と言い切れないサプリが世界中で規制されずに流通している結果と言える。
ドーピングに関するアスリートの知識とその予防行動には、非常に強い関係があると我々は考えている。つまり、ドーピング防止の重要なポイントは、ドーピングに関する十分な情報を提供する適切な教育である。そしてもう一つの重要なポイントは、サプリの慎重な選択だ。アスリートとそのチームは、サプリに関する情報を収集し、リストされている化合物がWADA禁止リストに含まれていないことを確認する必要がある」。
文献情報
原題のタイトルは、「Dietary Supplements as Source of Unintentional Doping」。〔 Biomed Res Int. 2022 Apr 22;2022:8387271〕
原文はこちら(Hindawi)