重量挙げ五輪金メダリストの腸由来プロバイオティクスがマウスの体組成を改善し運動能を向上
オリンピックの女子重量挙げ金メダリストの腸から分離されたプロバイオティクス菌株をマウスの飼料に添加して飼育したところ、体組成が改善し運動パフォーマンスが向上したというデータが発表された。著者らは、「将来的にはヒトでの検証も行うべきだ」と述べている。台湾の研究者らの報告。
16種類の菌株を144匹のマウスの飼料に添加して飼育
この研究には、ヒトの腸から分離された13種類のプロバイオティクス菌株と、食品に含まれる3種類のプロバイオティクス菌株、計16種類のプロバイオティクス菌株を、マウスの飼料に添加し、体組成や運動パフォーマンスに違いが生じるか否かを調査するというもの。13種類のヒト由来プロバイオティクス菌株のうち、4種類はオリンピックの女子重量挙げ金メダリストの腸から分離されたもので、他の4種類は健康な成人の腸から分離されたもの、2種類は健康な乳児の腸から分離されたもの、3種類は健康なヒトの上部消化管から分離されたもの。食品から分離された3種類はすべて発酵食品由来で、うち一つは日本の味噌由来、他の一つはキムチ由来。
実験に用いられたマウスは144匹で、ベースライン時6週齢、体重は約31gであり、有意差はなかった。2週間の順応期間の後、無作為に8匹ずつの18群に群分けし、1群は低脂肪食とし、他の17群は高脂肪食としたうえで、高脂肪食群のうちの1群は高脂肪食のみ、他の16群は前記の16種類のプロバイオティクス菌株のいずれかを飼料に添加した。添加量は既報研究に基づき4.1×109Colony Forming Unit(CFU)/kgとした。
各条件で飼育開始から4週間経過した後、以下の検討を行った。29日目に前肢の握力の評価、33日目に水泳テストによる乳酸やクレアチンキナーゼ(CK)などの評価、35日目に持久力の評価。10週飼育後に体脂肪や血清脂質などを測定後、すべてを屠殺し筋肉と肝臓のグリコーゲンレベルなどを評価した。
プロバイオティクス菌株の添加で、前肢握力、持久力、体組成などに有意差
では、4週間各条件で飼育した後の運動パフォーマンスや体組成の検討結果をみていこう。なお、前肢の握力と持久力は高脂肪食群が最低であり、体重と体脂肪量は高脂肪食群が最高であったことから、論文ではいずれも高脂肪食群との差の有意性を検討している。
前肢の握力
前肢の握力に関しては、高脂肪食群に対して他の17群はすべて有意に優れていた(すべてp<0.001)。さらに、プロバイオティクス菌株を添加されていた16群のうち10群は、低脂肪食群に比較しても有意に優れていた(p<0.05)。
加えて、その10群のうち3群は低脂肪食群との群間差のp値が0.001未満だった。その3群のうち2群は、五輪金メダリスト由来の4種類の菌株のうち2種類の菌株を添加されていた群だった。五輪金メダリスト由来の他の2種類の菌株が添加されていた群は、いずれも低脂肪食群との有意差が認められた10群に入っていた。
持久力
持久力に関しては、前述のように高脂肪食群が最低だったが、低脂肪食群も高脂肪食群と有意さがなかった。さらに、キムチ由来のプロバイオティクス菌株を添加されていた群も有意差がなかった。他のプロバイオティクス菌株を添加されていた15群は、高脂肪食群より持久力が有意に優れていた。
それら15群のうち、1群は高脂肪食群および低脂肪食群との群間差のp値が0.05未満、4群は高脂肪食群および低脂肪食群に対して0.01未満、3群は高脂肪食群に対して0.001未満で低脂肪食群に対して0.01未満、7群は高脂肪食群および低脂肪食群に対して0.001未満だった。
五輪金メダリスト由来の4種類のプロバイオティクス菌株のうち2群は、高脂肪食群および低脂肪食群に対してp値0.001未満の有意差のあった7群に含まれており、他の2群は高脂肪食群に対して0.001未満で低脂肪食群に対して0.01未満だった3群に含まれていた。
体重・体脂肪量
体重に関しては、高脂肪食群以外の17群すべてが、p値0.001未満の有意差をもって低値だった。なお、体重が最も少なかったのは、低脂肪食群だった。
体脂肪量に関してもやはり、高脂肪食群以外の17群すべてが高脂肪食群に対して有意に低値だった。プロバイオティクス菌株が添加された1群は群間差が0.05未満、他の1群は0.01未満で、他の15群は0.001未満だった。なお、体脂肪量が最も少なかったのは、体重と同様に低脂肪食群だった。
筋・肝グリコーゲン、乳酸レベルにも有意差
このほか、五輪金メダリスト由来のプロバイオティクス菌株が添加されていた4群のうち3群は、運動負荷後の組織グリコーゲン(肝臓および筋肉)レベルと筋毛細血管密度の増加が確認された。また、血中乳酸産生レベルの低下も認められた。
著者らは、「結論として、五輪重量挙げ金メダリストを含む健康なヒト由来のプロバイオティクス菌株は、減量と運動パフォーマンスの向上に極めて有効と考えられる。この研究結果の検証のため、将来的にはヒトでの介入試験が必要とされる」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Probiotic Strains Isolated from an Olympic Woman’s Weightlifting Gold Medalist Increase Weight Loss and Exercise Performance in a Mouse Model」。〔Nutrients. 2022 Mar 17;14(6):1270〕
原文はこちら(MDPI)