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マラソンで腎機能低下? ボストンマラソンにおける腎バイオマーカーと水分補給状況の調査結果

マラソン走行中には大量の発汗と筋損傷の負荷が加わり、一時的に腎機能が低下する可能性があるが、それを急性腎障害のバイオマーカーを用いて検討した結果が報告された。参加者の平均完走タイムが速いことや「心臓破りの丘」で有名なボストンマラソンで行われた調査だ。腎バイオマーカーは、レース終了の24時間後に十分低下しておらず、スタート前の値との間に有意差が認められたとのことだ。

マラソンで腎機能低下? ボストンマラソンにおける腎バイオマーカーと水分補給状況の調査結果

マラソンに伴う一時的な腎機能低下のその後の影響を検討

マラソンの人気は世界的に高まっており、米国では2018年に述べ130万人がマラソンを完走し、2017年に30万人がウルトラマラソンを完走したという。マラソンランナーは基本的に健康な集団とみなされる一方、急性腎障害(acute kidney injury;AKI)の潜在的なリスクが指摘されている。

非アスリートに発生するAKIは、将来の慢性腎臓病(chronic kidney disease;CKD)のリスクを高める可能性がある。マラソンランナーでは、完走者の40~82%に一時的な腎機能低下を示唆する臨床所見がみられるとの報告はあるものの、24時間以内に解決する。ただし、腎障害バイオマーカーを用いた検討はこれまで十分に行われていない。

本論文の著者らは、好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(neutrophil gelatinase associated lipocalin;NGAL)というAKIのバイオマーカーを用いて、ボストンマラソン参加者を対象にこの点の検討を行った。検討に際しての仮説は、AKIバイオマーカーにはマラソン完走後24時間経過しても影響が残っているというものであり、また、そのような腎ストレスに関する性差の検討も目的とした。

なお、ボストンマラソンは完走者の平均タイムが短いことで知られており、また、スタートから10マイル(16km)ほど下り坂が続き、筋損傷を誘発しやすいことから、腎ストレスが他のマラソン大会よりも強い可能性があるという。

2019年のボストンマラソンランナーを対象に検討

2019年ボストンマラソンに参加登録されているすべてのアスリートに対し、事前に研究の説明とともに参加協力依頼が送付された。適格基準は、年齢が18~65歳で、過去12カ月以内にマラソンを4時間以内に完走していること。除外基準は、心血管疾患・呼吸器疾患・消化器疾患・代謝性疾患などの慢性疾患の既往、および体液電解質障害、腎機能に影響を及ぼし得る薬剤の使用など。協力同意者から上記に基づきスクリーニングし、かつ、完走24時間後のデータ収集セッションに参加できない場合を除外。最終的に78人のランナーが選択基準を満たした。

大会当日、参加者は、尿・血液採取のための研究エリアに集合した。ただし、この年はレース前に激しい雷雨があり、55人の尿サンプルのみが収集された。完走後には61人のランナー、完走24時間後には52人のランナーが尿・血液採取の研究エリアを訪れ、検体が採取された。

ゴール地点で測定された当日の気候は、レース開始時点で湿球黒球温度(wet bulb globe temperature;WBGT)が16.1℃、最高気温時点(13:43)ではWBGTは22.1℃、相対湿度(relative humidity;RH)51.2%、1日の平均RHは66.5%だった。

解析対象者63人(男性32人、女性31人)の主な特徴は以下のとおり。

年齢46±10歳(男性46±10歳、女性45±13歳)、体重65.4±10.8kg(同順に73.2±9.7、58.2±6.0kg)、記録3.78±0.55(3.00±0.45、4.10±0.52)。体重と記録に性別による有意差があった。

尿比重とNGALは24時間後も有意に高値

尿比重

尿比重は時間の影響を大きく受け、スタート前は、マラソン後および24時間後よりも有意に低値だった(p<0.001)。マラソン後とマラソン24時間後の尿比重は有意差がなかった(p=0.421)。尿比重1.020超の割合は、スタート前は17.5%であったのに対し、マラソン後は38.7%であり、24時間後は43.9%に上った。また、完走後と24時間後の値に性別による有意差が認められた。

スタート前完走後24時間後
対象全体1.012±0.0071.018±0.008*1.020±0.009*
男性1.013±0.0081.016±0.0071.024±0.009
女性1.011±0.0061.020±0.009**1.017±0.008**
*: p<0.001 vs スタート前。**: p<0.05 vs 男性

バイオマーカー

尿NGALは、マラソン後に有意に上昇し(p<0.001)、24時間も上昇したままだった(p<0.001)。

スタート前完走後24時間後
対象全体12.24±17.83ng/mL40.16±35.45ng/mL59.70±18.83ng/mL*
男性5.48±6.44ng/mL26.06±26.26ng/mL59.05±20.16ng/mL
女性17.91±22.09ng/mL40.16±35.45ng/mL60.19±18.17ng/mL
*: p<0.001 vs 完走後

その他のマーカー

尿クレアチニンは、マラソン完走後にスタート前より有意に高かったが(p<0.001)、24時間後はスタート前より有意に低かった(p<0.001)。血清シスタチンCは、測定時点による有意差はみられなった。血清クレアチニンは、完走後に比較し24時間後には有意に低下していた(p<0.001)。

マラソンに伴う腎ストレスのさらなる研究が求められる

これらの結果を基に著者らは、「事前の予測どおり、AKIのバイオマーカーはマラソン直後に上昇し、少なくとも24時間、その状態が持続していた。また、マラソンから24時間以内に効果的に脱水を補正できなかったランナーの存在が確認された」とまとめている。

また考察として、NGALの上昇は運動誘発性炎症に起因するものとみなされ、一方、シスタチンCは腎機能の変化を表しており、コースの前半で長い下り坂のランニングによる筋損傷が発生し、その後、気温の上昇に伴い脱水が進行し腎血流量が低下して、腎機能が低下したのではないか述べている。この年のボストンマラソンはスタート直前の雷雨により、一般参加者のスタートが例年より遅くなり、気温が高い中での走行となったことの影響も考えられるという。

結論には、「マラソン完走後にも続く腎ストレスが24時間続く可能性のあることがわかった。マラソンランナーの水分補給と性差に関する今後の研究が求められる」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Acute Kidney Injury Biomarkers and Hydration Outcomes at the Boston Marathon」。〔Front Physiol. 2022 Jan 3;12:813554〕
原文はこちら(Frontiers Media)

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