アミノ酸「シスチン/テアニン」は運動ストレス軽減だけでなく外科手術後の早期回復にも有用
運動トレーニングのストレスの軽減のために利用されている、シスチンとテアニンというアミノ酸の組み合せは、外科手術後の早期回復を促す目的においても有用性が高いことが近年注目され始めている。また、抗がん剤の副作用抑制目的での使用なども試みられている。それらのエビデンスを総括した、仙台オープン病院の土屋誉氏、味の素株式会社の栗原重一氏によるレビュー論文が、「Nutrients」に掲載された。その要旨を紹介する。
イントロダクション:手術に伴うストレス軽減対策の重要性とその方法
運動トレーニングによる筋損傷や、感染、熱傷、手術などのストレスがかかると、身体にはそれに対する防御反応として炎症が生じる。その状態は臨床的には、発熱、C反応性タンパク(CRP)や白血球数の増加、リンパ球減少などの変化として現れる。炎症反応そのものは組織の修復に必要な過程ではあるが、炎症の程度が強すぎたり持続時間が長すぎる場合は、炎症そのものがストレスとなり身体に対してダメージを与えてしまう。
手術侵襲のストレスは術後2~4日続き、その後、ターニングポイントを経て、同化フェーズに入るとされる。術後のストレス期には組織修復等のためのエネルギー需要が亢進し、それを満たすため体タンパク質の異化が進む。そのため術後の栄養管理として、エネルギー供給を高めに設定することが多い。この戦略は体タンパク同化フェーズであれば、投与された栄養素が吸収され活用されるため有効だ。しかしストレス期には栄養素が十分に活用されずに、過剰投与により急性代謝障害を招くこともある。
このような周術期のストレスを軽減するための方策は現在、主として二つあり、その一つは手術侵襲をできるだけ少なくすることだ。具体的には適応があれば内視鏡下で施行することにより、炎症反応が抑制されて入院期間が短縮する。もう一つの対策は栄養管理による術後回復力強化(enhanced recovery after surgery;ERAS)であり、具体的には術前絶食期間の短縮、術後早期の経口摂取開始による腸管の利用などが図られ、それによって手術部位感染や呼吸器合併症リスクが低下し入院期間が短縮する。
このように外科手術に伴うストレスを可及的に抑制する試みが続けられている。今回紹介する論文では、その試みの一環としてシスチンとテアニンの機能性に着目し、これまでの知見がまとめられている。
シスチン/テアニンに関する既報文献
シスチンとテアニンは、体内で最も強力な抗酸化物質の一つである「グルタチオン」の基質であり、サプリメントとして経口摂取が可能。グルタチオンは抗酸化作用とともに免疫調整作用も有するが、ストレスや炎症によって減少することが報告されている。これに対して、シスチンとテアニンの摂取によりグルタチオン合成を刺激することで、ストレスや炎症に対する防御反応の強化が可能と考えられる。
スポーツアスリートでの検討
シスチンとテアニンの有用性は、トレーニング等によって一般生活者よりも強いストレスがかかっているアスリートを対象とする研究の報告が多い。
例えば、トレーニングキャンプに参加する16人の大学長距離ランナーを2群に分け、キャンプの7日前からシスチン700mg/テアニン280mg(C/T群)、またはプラセボを摂取してもらった結果、C/T群は運動負荷後の顆粒球数の増加幅がプラセボ群より有意に小さく、リンパ球数の減少幅は有意に小さかったという。また、15人のボディビルダーを対象とする研究からは、2週間のトレーニングでプラセボ摂取では、NK細胞活性がトレーニング前の69.2%に低下したのに対し、C/T群は101.7%だったと報告されている。15人のランナーを対象とする研究からは、C/T群でCRPの上昇が抑制されることが確認された。
これらの結果は、シスチン/テアニンが実際にストレスによる免疫能の低下や過剰な炎症を抑制することを示している。
周術期患者での検討
医学・医療の領域では、前述のように周術期に生じるストレスや炎症への対策として、シスチン/テアニンを用いた報告がなされている。
その報告によれば、胃がん治療のため胃切除術を受ける33人を2群に分け、術前5日から術後5日にかけて10日間、シスチン700mg/テアニン280mg(C/T群)、またはプラセボを投与した結果、術後のインターロイキン-6とCRPや体温はC/T群のほうが有意に低く、リンパ球数や顆粒球数の変化にも有意差が認められたと報告されている。またC/T群では安静時の消費エネルギー量の増加を抑制するという、ERASと同様の効果も認められたとのことだ。
これらのエビデンスを基に、本論文の著者らの施設では既に、消化管手術を受ける患者のクリニカルパスにシスチン/テアニンを10日間投与することが組み込まれているという。
がん化学療法中の患者での検討
また、周術期のストレス・炎症抑制のほかに、抗がん剤の副作用抑制のためにシスチン/テアニンを用いる試みが始まっている。
例えば、術後補助化学療法としてのS-1による治療完遂率が、シスチン/テアニン投与による副作用の発現抑制に伴い有意に上昇したという報告や大腸がんに対する術後補助化学療法としてオキサリプラチンを含むmFOLFOX6療法を受けた患者の末梢神経障害が、シスチン/テアニン投与により有意に抑制されたという報告がある。また、カペシタビンによる手足症候群に対する有効性も報告されている。その他、動物実験からは、抗がん剤による下痢の抑制、放射線照射による小腸粘膜の傷害の抑制など、シスチン/テアニンの多くの可能性が示されている。
結論と展望:シスチン/テアニンが術後合併症を抑制し、入院期間を短縮する可能性
手術後には、内分泌系、神経系、免疫系を中心とした代謝変化が起こり、消費エネルギー量が増大しタンパクの異化が亢進する。回復期に移行すると代謝は正常に戻るが、それまでの期間はストレスと炎症への対応が欠かせない。そのために、手術自体のストレスの軽減が最も重要な要素であり、それに加えて周術期の栄養管理がポイントとなる。
本レビューで考察されたシスチン/テアニンのヒトでの摂取(投与)量は、それぞれ700mg、280mgであり、高いコンプライアンスが得られ、安全性も高い。この特性は、周術期の栄養管理において、代謝状態の早期回復に応用できる。それによって、術後合併症の抑制と入院期間の短縮につながる可能性が考えられる。
文献情報
原題のタイトルは、「Cystine and Theanine as Stress-Reducing Amino Acids—Perioperative Use for Early Recovery after Surgical Stress」。〔Nutrients. 2021 Dec 28;14(1):129〕
原文はこちら(MDPI)