ヨルダンのアスリート&コーチ約9割はスポーツ栄養学の理解度が低い 約3,600人の調査結果
ヨルダンのアスリートやコーチのスポーツ栄養学に関する知識調査が実施され、その結果が報告された。まず、アラビア語の調査質問票を作成し、その妥当性を検証したのち、約3,600人のアスリートとコーチが回答。結果は同国のスポーツ栄養学の知識が発展途上にあり、啓発の必要性を示すものとなった。
調査質問票の作成からスタート
アスリートやスタッフのスポーツ栄養学の知識調査にはさまざまな手法が用いられるが、国際間の比較を行うには標準化された調査方法を用いなければならない。既に国際的に使用されている質問票を、調査を実施する国の母国語に翻訳し、その翻訳の妥当性や評価の再現性を確認したうえで、使用が可能になる。本研究では、ヨルダンの公用語であるアラビア語の質問票を作成する工程からスタートした。
オーストラリアで開発された英語のスポーツ知識アンケート(abridged nutrition for sport knowledge questionnaire;ANSKQ)が翻訳され、5名の栄養学専門家パネルにより品質が評価されたのち、ヨルダン人の一般的な生活や食習慣にあわないものを削除するなどの改訂を加えた。作成された質問票を用いて、まず30人を対象にパイロットテストを試行。良好な妥当性と信頼性、再現性が確認された。
アスリートとコーチ、計3,636人の回答を解析
続いて実施された大規模な調査は、2020年10~12月に実施された。Facebook、WhatsApp、Twitter、Snapchat、Instagramなどのソーシャルメディアを通じて同国内の50のスポーツセンターに回答を依頼する招待状を送信。回答者の適格基準は、18~60歳の健康なアスリートまたはコーチとした。アスリートの定義は、「スポーツパフォーマンスを向上させるためにトレーニングを継続し、組織化された競技会に参加している人」とした。一方、除外基準は、慢性疾患のある人、前記の対象年齢以外の人、アスリートやコーチではない人。
3,705人が調査に回答し、69人は除外基準に該当したため、3,636人の回答が解析された。回答者の9割以上(91.4%)はアスリートで、その他はコーチであり、半数以上(68%)が女性で、BMIは基準範囲内が59.6%だった。国籍はヨルダンが64%であり、80.8%は学士以上の学位を有していた。
スポーツの頻度は週に1~2回が最多で47.6%を占め、高強度スポーツをしている人が47.9%を占めた。また、ほぼ半数(52.2%)がサプリメントを利用していると回答した。
大半(82.4%)の回答者はスポーツ栄養に関するトレーニングコースを受講しておらず、約4分の3(75.2%)は栄養相談も受けていなかった。
全体の88.3%はスポーツ栄養の知識が貧弱
スポーツ栄養学の知識のスコアの平均は、アスリートが35.19%、コーチは51.92%であり、コーチのほうが有意に高かった。その他の属性別に比較し有意差のみられた因子をみると、若年よりも高年、BMI低値、教育歴の長さ、トレーニング歴の長さ、トレーニング頻度の高さ、栄養トレーニングの受講歴のあること、非喫煙者などが、スコアの高いことと関連していた。
アスリートの9割、コーチの6割はスポーツ栄養の知識が貧弱
既報に基づき、スポーツ栄養学の知識のスコアが50%未満を「貧弱」と定義すると、全体の88.3%がこれに該当。スコア50~65%の「標準的」には7.5%、スコア66~75%の「良好」には1.0%、スコア75%超の「優秀」には3.2%が該当した。
この結果をアスリートとコーチに分けてみると、アスリートの90.9%、コーチの60.7%が「貧弱」に該当した。ただしコーチでは25.9%と4人に1人は「優秀」に該当した。アスリートで「優秀」に該当するのは1.1%だった。
BMIや教育歴などが独立してスポーツ栄養学の知識のスコアに関連
多変量ロジスティック回帰分析により交絡因子を調整後、スポーツ栄養学の知識のスコアに独立して関連することとして、以下の因子が抽出された。
まず、コーチはアスリートに比較し「良好」や「優秀」である可能性が9~35倍高かった(良好OR9.35〈95%CI;4.13~21.16〉,優秀OR35.05〈19.82~61.99〉)。また、BMIが30以上の群に比較しそれ未満の群は「標準的」である可能性が2~3倍高かった(BMI18.5未満OR2.92〈1.17~7.32〉,BMI18.5~24.9OR2.05〈1.15~3.64〉,BMI25.0~29.9OR1.84〈1.02~3.31〉)。
反対に、教育歴が大学院以上に比較して高校以下では「標準的」である可能性が半分程度に低かった(OR0.52〈0.29~0.93〉)。また、トレーニング頻度が週5回以上に比べて1~2回の場合も「標準的」である可能性が6割程度に低かった(OR0.58〈0.38~0.87〉)。さらに、栄養トレーニングの受講歴のある人に比較してない人は、「良好」や「優秀」である可能性が50分の1~100分の1程度と極めて低かった(良好OR0.02〈0.01~0.06〉,優秀OR0.01〈0.004~0.02〉)。
栄養関連の情報源はSNSが主流だが、アスリートの4割弱は栄養士と回答
栄養関連の情報源としては、コーチは主にソーシャルメディア(49.2%)を利用していた。そのほかに、自分以外のコーチが31.0%、科学的エビデンス31.0%、栄養士29.7%がほぼ同等に選択されていた。
アスリートではソーシャルメディアの利用率がより高く、約3分の2(61.8%)が利用していると回答した。続いて栄養士が多く38.1%が選択し、コーチ30.6%、友人25.3%、科学的エビデンス24.4%と続いた。
栄養士に相談するだけでは知識は向上しない?
以上の結果から、著者らは以下のような考察を加えている。
第一に、アスリートのスポーツ栄養学の知識の平均スコアが35.2%であった点について、海外からの報告よりも低いとしている。例えばアイルランドのゲーリックフットボール選手では40.2%、英国のスカッシュ選手では56.7%との報告があるという。なお、ヨルダン国内では本研究が初めての研究であるため、比較できる同国内のデータはない。他方、コーチに関しては51.9%と、海外のアスリートに匹敵する知識を有していることが示された。
比較的低い知識スコアは、本研究の回答者の多く(アスリートの62%とコーチの50%)が、情報源としてソーシャルメディアを利用していたことに起因すると考えられるという。回答者の多くが高等教育を受けているにもかかわらず(80.8%が学士以上)、科学的エビデンスにあたって知識を得ている人は、コーチ31%、アスリート24%と限られていた。
また、回答者のうちわずか25%だけが栄養相談を受けたことを報告していることも理由の一つである可能性が考えられたが、この点は多変量ロジスティック回帰分析で有意な因子として抽出されなかった。著者らは、同様の結果は他の研究でも示されていることから、栄養士に質問をして答を得るだけでは、知識の向上につながらない可能性があると述べている。
結論は、「ヨルダンのアスリートはスポーツ栄養学に関する知識が貧弱と言える。栄養トレーニングの機会を増やすことで、恩恵がもたらされるのではないか」とまとめられている。
文献情報
原題のタイトルは、「General and sports nutrition knowledge among Jordanian adult coaches and athletes: A cross-sectional survey」。〔PLoS One. 2021 Nov 18;16(11):e0258123〕
原文はこちら(PLOS)