【東京栄養サミット2021】「東京栄養宣言」発令、日本栄養士会が「世界の栄養不良を撲滅する」と宣言
12月7~8日、「東京栄養サミット2021」が開催された。公益社団法人日本栄養士会も、公式サイドイベントとして「ニッポンの栄養100年を、世界へ 世界の栄養課題の撲滅に向けて、いま、日本栄養士会が果たすこと」を開催。中村丁次会長が、世界の栄養不良の撲滅に向けた、日本栄養士会のコミットメントを発表した。
岸田首相をはじめ、各国・団体・企業がコミットメントを発表
栄養サミットは、2012年のロンドンオリンピック・パラリンピックの際、地球規模で栄養課題に取り組もうとの機運の高まりを背景として、「成長のための栄養(Nutrition for Growth:N4G)」イニシアチブが開始されたのが始まり。2016年のリオデジャネイロオリンピック・パラリンピックでも開催され、今回、東京2020にあわせて東京で開催された。
この2日間で、世界の栄養不良を撲滅するため、岸田文雄首相をはじめ各国の代表、国際団体、企業などが、これからの具体的な行動を示したコミットメントを次々に発表している。岸田首相は、我が国の栄養関連の取り組みを述べたうえで、今後3年間で3,000億円、28億ドル以上の栄養に関する支援を行い、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成等に貢献していくことを表明した。
東京栄養宣言(グローバルな成長のための栄養に関する東京コンパクト)
2日間にわたる発表と議論の成果をとりまとめ、「東京栄養宣言(グローバルな成長のための栄養に関する東京コンパクト)」が発出された。要旨は以下のとおり。
『世界中の誰もが健康で生産的な生活を送るためには良好な栄養が必要であり、誰一人として取り残されてはならない。栄養は個人の健康と福祉の基礎であるとともに、持続可能な開発と経済成長の基盤である。良好な栄養への投資は、人々の健康を改善し、一人ひとりの可能性および生産性を伸ばし、国の経済発展を支える機会となる。
多くの国は現在、低栄養、過体重および肥満が混在する、少なくとも2種類の栄養不良の「二重負荷」に苦しんでいる。また、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響により公平性が一層の課題となっており、東京栄養サミットの開催は時宜を得たものである。
我々は、世界保健総会の世界栄養目標2025、国連「栄養のための行動の10年」、および持続可能な開発目標(SDGs)達成に対する我々のコミットメントを再確認する。我々は、SDGsアジェンダの一部として2030年までにあらゆる形態の栄養不良を終わらせるために、健康、食、強靱性、説明責任、財源の5つのテーマ別分野にわたって栄養に関するさらなる行動を取ることにコミットする。』(仮訳からの抜粋・要約)なお、5つのテーマ別分野とは、
- 健康:栄養のユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)への統合
- 食:健康的な食事の推進と持続可能な食料システムの構築
- 強靱性:脆弱な状況や紛争下における栄養不良に対する効果的な取組
- 説明責任:データに基づく説明責任の促進
- 財政:栄養の財政への新たな投資の動員
であり、東京栄養宣言ではこれらについて、さらに詳細に目標や方向性が述べられている。
日本栄養士会のコミットメント
前述のように、公益社団法人日本栄養士会も中村会長がコミットメントを発表した。その内容は、「持続可能な栄養改善基盤構築のための食・栄養の専門職の養成と配置」と題し、「アジアを中心とした1カ国以上において、栄養教育の礎となる学校給食への取り組みをスタートラインとして、管理栄養士・栄養士等の教育養成、さらに栄養士制度の創設や持続可能な栄養改善基盤の構築を支援する」「すでに栄養士を養成し配置している国1カ国以上に対しては、人材のスキルアップの支援などを通じて栄養改善を促進する」という2項目を掲げている。
これに関連し中村会長は、「日本は、明治政府が欧米から栄養学を導入し、国策として栄養改善に取り組んだ。そしてその一環として管理栄養士・栄養士を養成し、全国への配置を通じて、低栄養、過栄養、栄養不良の二重負荷に対処してきた。健康的で持続可能な食事の推進や健康長寿国家の建設に、管理栄養士・栄養士が大きく貢献した」と述べ、この経験を活かし、『東京栄養サミット2021』の理念に従い、上記の他国支援2項目を実践していくことを表明した。
日本栄養士会 中村丁次会長による宣言
誰一人取り残すことなく、すべての人々が健康の増進、疾病の予防、治療、さらに機能回復のサービスを享受できる社会の創造に、栄養改善は不可欠です。また、栄養は、SDGs全体を底辺から支える役割を担っています。このような栄養改善の実践的リーダーが、管理栄養士・栄養士です。
日本人は、近代化が進み、栄養学が導入される以前は、多くの栄養欠病症に悩まされていました。第二次世界大戦時による飢餓状態の中で、日本の栄養士は誕生しました。栄養士は、行政機関、福祉施設、学校、病院等で栄養の指導を行い、全ての国民が普段の生活の中で健康な食事と栄養教育にアクセスできる社会の創造に貢献してきたのです。日本栄養士会は、政府と連携し、管理栄養士・栄養士の育成と質の向上を図り、国民の栄養改善に貢献してきました。
この経験を活かして国際的な栄養改善に貢献すべく、東京栄養サミット2021においてコミットメントを発表します。
2030年を目標に、アジアを中心とした国に、管理栄養士・栄養士等の教育、養成、さらに栄養士制度の創設や、持続可能な栄養改善の基盤を構築することを支援します。既に栄養士制度が存在する国には、研修、留学等による人材のスキルアップを支援して、世界の栄養不良の撲滅に貢献します。
栄養の力で、人々を健康に幸せにしましょう。
ありがとうございました。
コミットメント実現の第一歩としてラオスで支援活動
大谷翔平選手や鈴木誠也選手を支える管理栄養士も登壇
具体的な行動の第一歩として、日本栄養士会は人民民主主義共和国の栄養改善プロジェクト支援を決定したことも発表した。2022年から8年間を通して、ラオスでの情報収集と人材交流に始まり、戦後日本の栄養改善の柱であった学校給食制度の創設を推進し、さらに栄養士の養成、就業支援も進めていくという。
なお、東京栄養サミットのテーマ別セッションでは、同会の斎藤トシ子副会長が「日本の栄養政策の推進と、管理栄養士・栄養士の職能団体の役割」というテーマで講演。日本栄養士会の歴史とともに、5,000名近い管理栄養士・栄養士が参画し全国356カ所に展開している「栄養ケアステーション」や、東日本大震災を機に発足した「災害支援チーム(JDA-DAT)」など、特色のある活動を紹介。「100年の歴史の中で培ってきた知見や経験を生かし、諸外国の栄養改善にも貢献していく」と発表。
また、プロ野球、大リーグエンゼルス・大谷翔平選手や広島東洋カープ・鈴木誠也選手の栄養面でのサポートを務める管理栄養士・大前恵氏も登壇し、管理栄養士・栄養士の仕事の紹介として、トップアスリートの栄養意識に関するプレゼンテーションを行った。「対象者の目標達成のために栄養面でできることを考え、必要な情報提供を行うことが管理栄養士・栄養士の仕事」と紹介した。
なお、次回の栄養サミットは、2024年にフランスで開催される予定。
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