男性エリートアスリートの安静時消費エネルギー量を予測する新しい方程式の提案
男性エリートアスリートの安静時消費エネルギー量を予測する、新しい方程式をイタリアの研究者らが開発し、その検証により高い予測能が示されたとする論文が、国際スポーツ栄養学会(International Society of Sports Nutrition;ISSN)の「Journal of the International Society of Sports Nutrition」に掲載された。
アスリートに特化したREE予測式の開発
スポーツパフォーマンスの向上には適切な体組成の維持が必要であり、それには細緻な食事計画が求められ、エネルギー需要を正確に推定するうえで安静時消費エネルギー量(resting energy expenditure;REE)の予測が重要となる。REEは正常体重の健康な成人では総消費エネルギー量の60~70%だが、アスリートではこの値を変動させるパラメーターが多い。
一般成人においては、年齢、身長、体重などの比較的容易に入手できるパラメーターからの予測式が用いられている一方、アスリート対象に開発された予測式はより煩雑ではあるが決定的なものは開発されていない。本研究では、既に広く用いられている生体インピーダンス法による体組成関連のパラメーターも利用して、アスリートに特化した高精度のREE予測式の開発を試みた。
7種の競技に参加する男性エリートアスリート126人のデータを利用
この研究には、7種類の競技に参加する18~40歳の男性エリートアスリート126人が組み込まれた。適格条件は24時間/週以上のトレーニングを実施していて、代謝内分泌疾患に罹患しておらず、エネルギー代謝に影響を与える薬剤を服用していないこと。
対象者の年齢は26.9±9.1歳、体重は71.3±10.9kg、BMI22.8±2.7だった。無作為に2群に分けられ、1群の75人のデータは予測式の開発に用いられ、51人のデータは開発された予測式の検証に用いられた。
7種の競技の内訳は、水球19%、自転車17.5%、ランニング競技16.7%、空手13.5%、バレエダンス11.9%、ボクシング8.7%など。水球選手のBMIが最も高く(25.9±1.8)、ランニング競技が最も低かった(20.6±1.2)。
間接熱量測定法で計測された安静時消費エネルギー量(REE)は、水球選手(2,195±244kg/日)が最も高く、バレエダンサー(1,567±107kg/日)が最も低かった。体脂肪測定における位相角(phase angle;PhA)はボクサーが最も高く8.57±0.65度だった。
既存の8種類の予測式の精度検証
REEの新しい予測式の開発に際して、まず、既存の8種類(一般成人対象の5種類とアスリート対象の3種類)の予測式の精度が検証された。その結果、間接熱量測定法で計測された安静時消費エネルギー量(REE)と予測式で計算された結果の相違はいずれも小さかった。
具体的には、一般成人対象の5種類の予測式のバイアスは、最も少ないものから多いものの順に、-82±146kcal/日(-3.9%)、-93±142kcal/日(-4.4%)、-92±140kcal/日(-4.49%)、-141±156kcal/日(-7.0%)、-222±140kcal/日(-11.3%)だった。これらは間接熱量測定法で計測された値との差は小さいものの、すべて有意差が存在した。
アスリート対象の3種類の予測式は、最も少ないものから順に、21±173kcal/日(2%)、-41±153kcal/日(-1.4%)、60±152kcal/日(4%)であり、すべてバイアスが5%以内であって、最も精度の高い予測式は間接熱量測定法で計測された値との有意差がなかった。
新予測式の開発と精度検証
間接熱量測定法で計測されたREEは、年齢(r=-0.124,p=0.290)との相関がないことを除いて、それ以外の人体パラメーターおよび生体インピーダンス法で測定したパラメーターとの有意な相関が認められた。とくに体重は間接熱量測定法で計測されたREEとの相関が強く(r=0.768,p<0.001)、続いてBMI(r=0.623,p<0.001)、生体インピーダンス指数(r=0.606,p<0.001)も強い相関があり、身長や位相角(PhA)も有意な相関が認められた。
重回帰分析を用いて、間接熱量測定法で計測されたREEの予測式を、人体パラメーターのみを用い、生体インピーダンス指数と位相角(PhA)を用いない「パータンA」と、人体パラメーターに加え生体インピーダンス指数とPhAを用いる「パターンB」という、2パターンの予測式を作成した(予測計算式は論文参照)。
パターンBでの予測値の9割以上が実測値の±5%以内
続いて、これらの開発された予測式の精度検証を行った。
その結果、パターンAでは間接熱量測定法で計測されたREEに対して-17±134kcal/日(-0.3%)であり有意差がないレベルであり、パターンBも-20±124kcal/日(-0.6%)でやはり有意差がなかった。
なお、予測式の計算結果が実測値の±5%以内に収まる確立は、パターンAは82.4%、パターンBは92.2%だった。
著者らはこれらの新規予測式の開発を通して、「エリートアスリートでは、生体インピーダンス法での体脂肪測定における位相角(PhA)が、安静時消費エネルギー量の重要な予測因子であることがわかった」とし、「PhAを予測式に取り込むことで予測能が向上した」と結論で述べている。
また、開発された新予測式について、「一般成人でも非常に優れた精度を示したが、アスリート対象の予測精度は既存の予測式と比較し著しく高かった」としている。ただし、本研究での解析対象が男性のみであり、7種類のみの競技アスリートであって、サンプル数も十分とは言えない。著者らも「安静時消費エネルギー量の予測因子としてPhAを使用するには、さまざまな競技種目、トレーニングレベルでのさらなる検討が必要」と記している。
文献情報
原題のタイトルは、「Resting energy expenditure in elite athletes: development of new predictive equations based on anthropometric variables and bioelectrical impedance analysis derived phase angle」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2021 Oct 26;18(1):68〕
原文はこちら(Springer Nature)