時間制限食の効果を持久系アスリートで調査 脂肪量が減少するもパフォーマンスに変化なし
持久系アスリートでの時間制限食の有用性を検討した研究結果が報告された。4週間の介入で脂肪量が有意に減少し、運動負荷に伴う乳酸や二酸化炭素排出量(VCO2)が有意に低下したという。一方、パフォーマンスへの影響はみられなかったとのことだ。
時間制限食で持久系アスリートのパフォーマンスが向上するか?
体重が軽いことがスポーツパフォーマンスに有利と考えられる競技アスリートでは、減量のために低炭水化物ダイエットや絶食が試みられることがある。ただし、そのような方法はエネルギー源であるグリコーゲンの減少を招くため、とくに持久系アスリートの場合、減量によるパフォーマンス向上効果が相殺されてしまい、かえってマイナスになる可能性も考えられる。
これに対して時間制限食は、エネルギー量や炭水化物摂取量を極端に減らすことなく、体重や体組成に好影響がもたらされる可能性がある。時間制限食において摂食を絶つ時間枠は、通常10時間以上で長い場合は21時間にも及ぶ。アスリートの間では一般的に、16時間絶食し残りの8時間を摂取時間枠とすることが多い。ただしこの方法が持久系アスリートにどのような影響を及ぼすかは十分に検討されていない。
本論文の著者らは、16時間絶食する時間制限食が、日常的にトレーニングを行っている持久系アスリートの脂肪量を減少させ、エネルギー基質の変化が生じ、パフォーマンスにプラスの効果を及ぼすとの仮説を立て、以下の検討を行った。
時間制限食と通常食を各4週間続けるクロスオーバー法で検討
この研究は、対象者全員に時間制限食を行う条件と通常の方法で食事をとる条件の両条件を試行する、無作為化クロスオーバー法で検討された。
カリフォルニア大学デービス校にて、チラシやランニングイベントでの告知を通じて、日常的にトレーニングを行っている21~36歳の男性ランナー27名が募集された。このうち、研究参加の取り下げやドロップアウトにより、最終的なサンプル数は15名となり、無作為に2群に分けられ8名が最初に時間制限食を行う群、他の7名が最初に通常食を摂取する群に割り当てられた。
なお、被験者は少なくとも3年間以上のトレーニング歴があり、過去1年以内に5km以上の競技会に出場しており、32km/週以上の走行を続けていることが適格条件として設定されており、大半のランナーは10km走のトレーニングを行っていた。除外基準は、代謝や心臓・呼吸機能に影響を及ぼし得る薬剤やサプリメントを服用・摂取している場合、持久力アスリートに推奨される主要栄養素の摂取量(炭水化物3~12g/kg/日、タンパク質1.2~2.0g/kg/日、脂質20%以上)から20%を超えた食事を摂取している場合、過去3カ月間に疾患や怪我の既往がある場合など。
各食事条件は4週間継続し、2週間以上のウォッシュアウト期間の後、条件を変えて4週間継続。各条件の4週間の介入が終了後に、インクリメンタルテスト(増分テスト)、10kmトレッドミルタイムトライアル行い、結果を比較した。
体組成の変化に条件間の有意差
被験者のベースラインデータは、平均年齢28.7±5.2歳、身長177.7±6.6cm、体重73.5±8.6kg、除脂肪体重57.6±7.6kg、脂肪量12.0±4.5kg、体脂肪率16.5±5.6%、VO2peak55.5±5.7mL/kg/分、トレーニング歴7.8±6.0年、平均走行距離53.0±24.1km/週。
食事に関する評価指標のうち、両条件で有意差があったのは摂取時間枠のみで、摂取エネルギー量、主要栄養素摂取量に有意差はなく、またトレーニング量は時間制限食条件のほうがやや長かったが有意差はなかった。
具体的には、通常食条件 vs 時間制限食条件の順に、以下のとおり。
通常食条件 vs 時間制限食条件 | 有意差 | |
---|---|---|
摂取エネルギー量 (kcal/日) | 2,513±367 vs 2,421±478 | p=0.41 |
炭水化物摂取量 (g/kg/日) | 3.9±1.2 vs 3.7±1.2 | p=0.19 |
タンパク質摂取量 (g/kg/日) | 1.6±0.4 vs 1.6±0.4 | p=0.72 |
脂質摂取量 (g/日) | 97.5±24.5 vs 96.8±33.0 | p=0.91 |
走行距離 (km/週) | 39.3±14.2 vs 43.0±20.4 | p=0.18 |
食事摂取枠 (時間) | 11.8±0.6 vs 7.6±0.4 | p<0.01 |
介入後の脂肪量と体脂肪率は時間制限食条件が有意に低値
介入による体組成の変化を条件間で比較すると、体重と除脂肪体重は有意差がなかったが、脂肪量と体脂肪率は時間制限食条件のほうが低値であり、条件間に有意差が認められた。
具体的には、脂肪量は通常食条件後では0.85%増加していたのに対して、時間制限食条件後には6.5%減少していた(p=0.05)。体脂肪率は同順に、0.62%増加、5.9%低下だった(p=0.04)。
インクリメンタルテストでは、乳酸値とVCO2に有意差
運動強度を60%VO2peakから90%VO2peakへと段階的に強めていくインクリメンタルテスト(増分テスト)の結果は、乳酸値と二酸化炭素排出量(VCO2)に、食事条件の違いによる影響が認められた。具体的には、通常食条件では介入前後で有意な変化がなかったのに対して、時間制限食条件では介入後に、運動強度を強めた時の乳酸値(p=0.02)やVCO2(p=0.03)の上昇幅が抑制されていた。
測定したその他の指標である、心拍数や呼吸交換比(respiratory exchange ratio;RER)、自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)、脂質酸化率、炭水化物酸化率などには、条件間の有意差はみられなかった。
また、10kmトレッドミルタイムトライアルの記録、心拍数、RPEにも、有意差はみられなかった。
以上より、摂取エネルギー量と主要栄養素の摂取量を維持しつつ、摂取時間枠を1日8時間に限定する時間制限食を4週間続けることによって、持久系アスリートの脂肪量が減り、除脂肪体重は維持されることが明らかになった。また時間制限食によって、運動負荷に伴うVCO2と乳酸値の上昇が抑制された。ただしこれは、10kmのタイムトライアルのパフォーマンス向上効果にはつながらなかった。
著者らは、「時間制限食は、パフォーマンスを低下させることなく、ランニング効率を最大化しようとするランナーに、好ましい体組成の変化を引き起こす」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Four Weeks of 16/8 Time Restrictive Feeding in Endurance Trained Male Runners Decreases Fat Mass, without Affecting Exercise Performance」。〔Nutrients. 2021 Aug 25;13(9):2941〕
原文はこちら(MDPI)