乱れた食行動のある未成年アスリートの栄養リスクを文献レビューで総括する
アスリートの乱れた食行動や摂食障害のリスクについて報告した論文のうち、研究対象が20歳未満(Adolescent)のものを抽出し、考察を加えたレビュー論文が「Children」に掲載された。ギリシャのアテネ大学の研究者らによる論文。
Adolescentの栄養の重要性
人生において多くのハードルが立ちはだかる時期が何回かある。Adolescent(思春期から成人するまで)もその一つであり、この時期は二次成長期にあたり、栄養にとっても困難の多い時期と言え、かつ、その後の生涯にわたる食習慣の確立のために重要な時期だ。さらにアスリートの場合は、身体活動のためのエネルギー摂取も必要になる。
このように、人生のほかの時期と比べ高い栄養要求にもかかわらず、この年齢のアスリートはしばしば自分の体重や体型を気にして不適切な栄養戦略をとろうとする。結果的に競技パフォーマンスだけでなく身体の成長に影響が生じたり、潜在的には後年の疾患発症につながる素因が形成されてしまう。DSM-5(米国精神医学会の精神疾患の診断分類5版)の診断基準を満たす摂食障害に該当せずとも、そのリスクのある状態にある場合は少なくない。
これまでに、アスリートの乱れた食行動(disordered eating;DE)や摂食障害(eating disorder;ED)のリスクに関する研究は数多く発表されてきた。ただしそれらは成人(主として大学生)の女性アスリートに焦点を当てたものが多く、adolescentのアスリートにおける摂食行動の乱れを研究した報告のレビューは数少ない。
文献検索でヒットしたのは463報で、34報を抽出
本論文の著者らは、PubMed/MEDLINEのほか、米国心理学会のPsycInfo、およびGoogle Scholarという3件の文献データベースを用いて研究報告を検索した。検索対象には、原著論文のほかにレビュー論文、システマティックレビュー、メタ解析も含めた。検索に用いたキーワードは、思春期アスリート、高校性アスリート、栄養リスク、栄養失調、栄養不足、低エネルギー可用性(low energy availability;LEA)、脱水、乱れた食行動、摂食障害、女性アスリートトライアド。
世界保健機関(World Health Organization;WHO)の定義に則して、「adolescent」は10~19歳と定義し、この条件に適う対象での研究を適格とした。具体的には、20歳以上の成人アスリートのみを対象とした研究や対象の年齢を明記していない研究は除外した。いくつかの研究は成人と未成年が混在していたが、その場合、未成年での検討結果のみを採用した。
競技レベルに関しては、エリートまたは非エリートレベルで、組織化された団体に所属し活動しているアスリートでの研究を対象とし、レクリエーションアスリートを対象とした研究は除外した。また、英語以外で執筆されている論文、全文が公開されていない論文も除外した。発表時期は制限しなかった。
検索でヒットした論文は463報だった。アブストラクトのスクリーニングと全文精査を経て、34報の研究報告が適格と判断された。
これらのうち、28報は原著論文で、4報はレビューであり、2報は臨床報告だった。大半の論文(19報)は、女性アスリートトライアドや骨塩密度との関連を調べ、15報はLEAについて議論し、3報は摂食障害のあるアスリートの栄養不足を調べ、5報は摂食障害と脱水症、電解質異常に焦点を当てていた。
摂食行動と栄養素の欠乏、骨密度、脱水等との関連
本論文ではこれら34報から、「LEA」「主要栄養素と微量栄養素の欠乏」「低骨密度」「脱水」という4つのトピックについて考察している。以下にその一部を抜粋する。
主要栄養素と微量栄養素の欠乏
乱れた食行動のあるadolescentアスリートの栄養素摂取量を調べた研究は非常に限られている。主要栄養素に関して、2013年には摂食行動が乱れたadolescentアスリート、タンパク質とカルシウムの摂取量が少なく、さらに70%のアスリートの炭水化物摂取量が推奨量を下回っているとの報告があった。また2021年には、意図的に食事摂取量を制限した女子adolescentアスリートは通常の食事量を摂取していたadolescentアスリートよりも炭水化物摂取量が少ないと報告されている。
微量栄養素に関しては、21人の女子フィギュアスケート選手対象の研究から、摂食行動のスクリーニングツールであるEating Attitudes Test 26(EAT26)のスコアが高いことは、微量栄養素摂取量の低下と関連していることが報告されている。
低骨密度
Adolescentに該当する年齢は骨量の増加スピードが最大であり、最大骨量のほぼ90%が18歳までに達成される。さらに女子では初経前後の2年間で最大骨量の25%が形成される。
アスリートの骨塩密度の不均衡に関する科学的エビデンスは豊富であり、adolescentアスリートの骨塩密度低値は、乱れた食行動(摂取エネルギー量全体と特定の栄養素の摂取量が少ないことなど)と直接的な相関がある。また、女子に関しては、利用可能エネルギーの不足(LEA)や月経不順とも密接に関連している。
脱水
体重階級カテゴリーのある競技のアスリートは、体重を減らすために脱水のテクニックを使用することがある。用いられるテクニックは、水分摂取制限、嘔吐、利尿剤や下剤の服用、スチームバス、サウナ、発汗スーツなどだ。テコンドーやレスリング、ボクシングなどを行っているアスリートの最大67%が、これらによる脱水を減量戦略として採用していると報告されている。ただし、そのような研究報告の多くは、成人アスリートを対象としたものだ。
一方、2,532人の高校レスリング選手を対象とする調査では2%が下剤、ダイエットピル、または利尿剤の使用を報告していたと報告されている。4,746人のadolescentアスリートを対象とした研究では、体重に関連しない競技のアスリートと比較して、体重に関連する競技を行っている男性は、下剤や利尿剤の使用、嘔吐を行っていた割合が高かった。
運動中に適切な体液バランスを維持することは、体温調節や心血管系イベントのリスク抑止のために必須であり、またスポーツパフォーマンスの発揮にも不可欠。成人では体重の2%の脱水が、持久力と作業能力の低下に関連してくる。ただしadolescentアスリートでは、脱水のレベルとその影響の関連は不明。
残念ながら、乱れた食行動をとるadolescentアスリートは、脱水を来すような不適切な体重管理テクニックを多用する傾向があるようだ。
文献情報
原題のタイトルは、「Nutritional Risks among Adolescent Athletes with Disordered Eating」。〔Children (Basel). 2021 Aug 21;8(8):715〕
原文はこちら(MDPI)