BMI低値と摂取エネルギー不足は、女子大学生アスリート疲労骨折の独立したリスク因子 早大
日本人女子大学生アスリートの3割が疲労骨折の既往があることや、BMI低値と摂取エネルギー量の少なさが疲労骨折に独立して関連していることが明らかになった。早稲田大学スポーツ科学学術院の田口素子氏らが、全国18大学の女子アスリートを対象に行った研究の結果であり、このほど「Journal of the American College of Nutrition」に論文が掲載された。
日本人の女子大学生アスリートを対象とした、初の大規模研究
体重が軽いことが、短期的にはパフォーマンスの発揮に有利なことのあるスポーツ競技に参加するアスリートの一部は、低体重を維持するために身体活動量にみあった食事をとっていないことがある。そのような場合、一時的にはパフォーマンス向上を達成できたとしても、怪我や疾患などのリスク上昇を招き、長期的には競技生活にマイナスになるばかりでなく、リタイア後の健康にも影響を及ぼす。さらに女性の場合はエネルギー不足を起因とする月経異常や骨量減少による疲労骨折のリスクが顕著に高まり、いわゆる「女性アスリートの三主徴(female athlete triad;FAT)」として、複合的な健康障害につながる。
女性アスリートの中でもとくに女子大学生は、他の年齢層とは異なるストレス因子が存在し、食生活がより乱れやすい時期にあると考えられる。しかし、女子大学生アスリートの食事摂取状況と月経異常、疲労骨折の発生状況に関して欧米からは報告されているが、日本国内での大規模な研究報告は数少ない。欧米と日本では食習慣が大きく異なるため、海外発のデータが日本人女子大学生にも援用できるとは言えない。
女子大学生アスリート、約600人を調査
このような背景のもとで行われた田口氏らの研究は、調査対象が国内の女子大学生アスリート589人に及ぶ。本研究について著者らは、「日本の女子大学生アスリートを対象に、習慣的な食事摂取量および疲労骨折の既往と、その関連因子を特定した初の大規模研究」と位置付けている。
疲労骨折や無月経の既往者がともに約3割
この研究には、国内競技連盟(National Federations;NF)のスタッフと大学コーチを通じて、日本国内の女性アスリートに対し、手紙、ポスター、口コミなどにより参加が呼びかけられた。1,615人に調査票が配布され、回答は923人から寄せられた。このうち大学生アスリート589人のデータを解析対象とした。後述するように、幅広い種目の競技アスリートから回答が得られた。なお、大学生アスリート以外からの回答もあったが、大学生とはライフスタイルが異なると考えられるため、解析対象には含めなかった。
調査項目は、人口統計学的情報(年齢、身長、体重、競技歴など)、26項目からなる摂食態度調査(Eating Attitudes Test;EAT-26)、食事摂取頻度調査票(Food Frequency Questionnaire;FFQ)による現在の食事摂取状況、怪我や骨折の既往、初潮年齢および無月経の既往など。
解析対象者589人の主な特徴は、年齢が中央値20(四分位範囲19-20)歳、BMIは同20.8(19.5-22.2)、EAT-26スコアは同11(7-17)点、初潮発来からの経過年数は平均7.1±2.2年で、トレーニング頻度は6.0日/週だった。また、EAT-26スコア20点以上を「摂食障害のリスクあり」と判定すると、17%が該当した。
さらに、女子大学生アスリートの30%が疲労骨折を経験していることが明らかになった。無月経(月経が3カ月以上ない状態)の既往も28%と、3割近くを占めた。
各栄養素の摂取量を個別に評価すると、骨代謝に関連のあるカルシウムやビタミンDを含め、多くの栄養素の摂取量が「日本人の食事摂取基準」やアスリートのための摂取推奨量を下回っていることも明らかになった。
審美系アスリートは、低BMIで疲労骨折や摂食障害リスクが高い
次に、競技特性に基づき、解析対象全体を以下の4群に分けて比較検討した。
持久系(ボート競技、水泳、陸上中長距離、トライアスロン、サイクリングなど)86人、審美系(体操、新体操、アーティスティックスイミングなど)138人、球技系(サッカー、ラクロス、ソフトボール、ハンドボール、バスケットボール、卓球、テニス、ゴルフ、ホッケー、バレーボール、バドミントンなど)183人、パワー/テクニカル系(陸上短距離、フィールド競技、柔道、弓道、ウェイトリフティング、フェンシング、少林寺拳法、アーチェリー、セーリング、レスリングなど)182人。
上記の4群を比較すると、審美系アスリートでは他群と有意に異なる項目が複数みられた。
例えば審美系アスリートのBMIは中央値19.2であり、他群(21.1-21.5)に比較し有意に低値だった。また、年齢には有意差がないものの、初潮発来からの経過年数が平均5.1年と、他群(7.4-7.9年)より短かった。EAT-26スコアは中央値16点で他群(9-11点)より高く、摂食障害のリスクあり(スコア20点以上)に29%が該当していた。
さらに、疲労骨折の既往者率は39%であり、パワー/テクニカル系アスリート(23%)より有意に高かった。なお、持久系アスリートの疲労骨折既往者率は26%、球技系アスリートでは32%であり、他群との有意差はなかった。
BMI低値と摂取エネルギー量の少なさが、疲労骨折リスクに独立して関連
続いて、疲労骨折の既往の有無で2群に分け背景因子を比較。その結果、疲労骨折の既往を有する群は、BMI低値、初潮発来からの経過年数が短い、16歳以上での初潮発来が多い、無月経の既往者が多いといった有意差が認められた。
これらの有意差が認められた因子に、トレーニング頻度や摂取エネルギー量、カルシウムやビタミンの摂取量を加えて行った多変量解析の結果、BMI(OR 0.910〈95%CI;0.828-0.995〉,p=0.047)と、摂取エネルギー量(OR 0.999〈同0.999-0.999〉,p=0.039)の二つが、疲労骨折に有意に関連する因子として抽出された。
著者らは以上のまとめとして、「日本の女子大学生アスリートの多くが、推奨されているエネルギー量および栄養素量を満たすことができていなかった。摂取エネルギー量が少ないこととBMIが低いことが疲労骨折リスクと関連していたことから、適切なエネルギーを含む食事摂取が大切である。」と結論付けている。
文献情報
原題のタイトルは、「Habitual Dietary Status and Stress Fracture Risk Among Japanese Female Collegiate Athletes」。〔J Am Coll Nutr. 2021 Jun 14;1-8〕
原文はこちら(Informa UK Limited)