団体競技アスリートの睡眠改善に対する栄養介入の可能性をナラティブレビューで探る
睡眠がアスリートのパフォーマンスを左右するとの報告が増えている。睡眠を改善にはいくつかの介入が提案されており、栄養もその一つとして重視されている。ただし、実際にアスリートに対する栄養介入による睡眠時間や睡眠の質への影響を検討した研究はまだ少ない。こうしたなか、それらの研究結果を文献検索で収集し分析と考察を加えたナラティブレビューが報告された。オーストラリアのキャンベラ大学スポーツ運動研究所のグーループによる論文。最後にまとめられている「実用的なアプリケーション」は、現時点のエビデンスに基づく実質的な推奨と言えそうだ。
栄養による睡眠への影響を検討した研究を可及的に収集
団体競技に参加するアスリートは、チームで定められたトレーニングスケジュールや、早朝または夕方以降の競技会参加、遠征のための移動、または筋肉痛などの影響で、睡眠障害や睡眠不足を経験することがある。栄養は、スポーツパフォーマンスの向上と回復に重要な役割を果たしており、さらに睡眠の質と量を改善する可能性も注目されている。ただし、システマティックレビューやメタ解析が可能なほどに、研究が報告されているわけではない。
本論文の研究者らはナラティブレビューにより、睡眠の質と量を高めるために利用できる栄養戦略と、その戦略のチームスポーツアスリートへの適用可能性を検討した。
文献検索の手法について
ナラティブレビューは2020年3月から11月に、PubMed、Scopus、CINAHL、EMBASE、SPORTDiscus、およびGoogle Scholarという6件の文献データベースを用いて実施された。各データベースに収載されている最も古い文献から2020年11月までに公開されたものを対象とし、栄養と睡眠およびアスリートまたはチームスポーツなどのキーワードを使用。
この領域の研究が少ないことが予測されたことから、選択基準を広く設定し、無作為化比較試験や観察研究のみでなく、ケーススタディー、症例報告なども収集した。一方、検討対象者に、脳震盪患者、その他の睡眠とは無関係の障害のある者、シフトワーカーを含む研究報告、および動物研究は除外した。抽出された報告についてはそれらの参考文献をチェックし、この領域の報告が網羅されていることを確認した。
ヒトを対象とする栄養介入の睡眠時間と睡眠の質に対する有効性を検証した報告は多くなく、睡眠不足との関連が10報、健康状態との関連が6報だった。アスリートを対象としたものはさらに限られていたが、4報確認された。
栄養素別に検討した結果は…
本論文では、文献検索の結果に基づき、炭水化物、タンパク質、タルトチェリージュース、およびその他の介入という4つのカテゴリーで分けて検討している。以下はその要旨。
炭水化物
抽出された研究報告の多く(3件)は、睡眠前の高グリセミックインデックス(GI)炭水化物摂取の影響を検討していた。全体として、高GI食品の摂取量が多いと、総睡眠時間(total sleep time;TST)の増加(7.9~62.4分)と、睡眠効率(sleep efficiency;SE.総就床時間に占めるTSTの割合)の上昇(0.4~8.1%)が認められ、入眠潜時(sleep onset latency;SOL)が減少(5.6~18.9分)する傾向がみられた。
一方、別の1件は低炭水化物食の影響を検討しており、TSTの増加(22.7分)、SEの上昇(3.3%)、およびSOLの減少(5.6分)が報告されていた。
タンパク質
2件の研究がタンパク質摂取の影響を検討していた。両方とも介入に、乳清タンパク質単離αラクトアルブミン(20〜40g)を使用していた。
健康な一般集団を対象とした研究では、睡眠前のα-ラクトアルブミン摂取により、TSTが55分増加し、SEが7%上昇すると報告し、一方、少数(n=6)のサイクリスト対象の研究では、α-ラクトアルブミン摂取は睡眠関連パラメーターに影響を与えていなかった。
タルトチェリージュース
タルトチェリージュースを利用した介入は2件行われており、研究全体でTSTの増加(29~39分)が報告されていた。さらにSE(2.7~3.7%)とSOL(3.6~9.1分)のわずかな上昇と、中途覚醒時間(wake time after sleep onset;WASO)のわずかな減少(16.8分)も示された。なお、タルトチェリージュースの研究はすべて、一般的な集団コホート(睡眠障害のある群とない群の双方)で実施されていた。
その他の介入
上記のほかに、γ-アミノ酪酸(gamma-aminobutyric acid;GABA)、キウイフルーツ、ビート根ジュース、グリシン、L-セリンについて、何らかの睡眠関連パラメーターの変化が期待し得ることを示唆する報告が存在した。
実用的なアプリケーション
論文では、「睡眠日誌の活用、電子機器の回避、涼しく暗い静かな部屋での睡眠などの適切な睡眠衛生習慣の実施に加え、アスリートの睡眠改善に栄養介入が有用」としたうえで、「栄養介入における食品摂取のタイミングや摂取量はさらなる研究が必要だが、既報から戦略を導き出すことができる」とし、以下のようにまとめている。
- 食物繊維、全粒穀物、果物、野菜が豊富な食事を摂る
- 就寝時間の2~4時間前に高GI炭水化物の食事を摂取する
- 睡眠が損なわれる可能性がある場合(例えば夜間の競技)、タルトチェリージュース濃縮物を日常生活にとり入れる(起床後と夕食前に30mL)
- 就寝の2時間前に、α-ラクトアルブミンが豊富なホエイプロテイン、トリプトファンが豊富なプロテインを20~40g摂取する
- 就寝1時間前にキウイフルーツを摂取する
- 就寝前に3gのグリシンを摂取すると、睡眠の質と時間が改善する可能性がある。
- 手首装着のアクチグラフなどのデバイスや、睡眠の質を評価する質問票を使用し、日中の眠気を定量化する
- カフェイン、アルコール、水分の過剰摂取を控える
アスリートの睡眠を支える栄養士の役割
また論文の末尾では栄養士の役割について触れている。具体的に、「アスリートの睡眠改善には、個人の家庭環境、トレーニング環境、ホームまたはアウェイの違い、遠征など、直面するさまざまな状況を考慮し、高品質の栄養摂取を維持することが求められ、栄養士は栄養と睡眠の対策の優先順位を考慮し、プレーヤーやコーチ、およびチームスタッフと緊密に協力してアスリートを教育する必要がある」と記されている。
文献情報
原題のタイトルは、「Nutritional Interventions to Improve Sleep in Team-Sport Athletes: A Narrative Review」。〔Nutrients. 2021 May 10;13(5):1586〕
原文はこちら(MDPI)