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アスリートのリカバリー(疲労回復)や睡眠の実態を、複数の評価スケールで検討

アスリートの疲労回復のための睡眠の重要性を示唆する研究結果が報告された。多くのアスリートは睡眠時間が足りていたとしても睡眠の質が良いとは言えず、日中に眠気を感じている頻度が低くないという。また、サプリメントの摂取と睡眠の質などとの間に有意な相関がみられることもわかった。

アスリートのリカバリーや睡眠の実態を、複数の評価スケールで検討

複数の評価スケールでQOLや睡眠時間・質などを把握

この研究は、睡眠の時間や質およびQOLを評価するためのさまざまなスケールを駆使して関連を検討するという手法で行われた。

対象は、アイルランドと英国のエリートアスリート115名(男性74名、女性41名)と、サブエリートアスリート223名(男性129名、女性94名)の計338名。このうちエリートアスリートは、アイルランドと英国のスポーツ関連公的機関を通じて直接募集され、サブエリートは研究者のネットワークやソーシャルメディア(SNS)を通じて募集された。18歳未満、トレーニング時間が週400分未満、および睡眠障害の既往者は除外した。

対象者の主な特徴は、年齢24.94±5.93歳(エリート23.44±4.91歳、サブエリート25.71±6.27歳)、体重72.95±13.26kg、身長175.60±9.70cm、トレーニング量675.12±306.59分/週(エリート801.35±338.81分/週、サブエリート610.02±266.90分/週)で、エリート群のほうが年齢が低く、トレーニング量が多いという有意な群間差があった。参加している競技は、ゲーリックゲームズ89名、陸上64名、サッカー31名、ボート29名、ラグビー20名などで、エリート群とサブエリート群で有意差はなかった。

調査はオンラインにより行われた。用いられた評価指標は以下のとおり。

EuroQoL(EQ-5D-5L)
可動性、セルフケア、痛み、うつ/不安など五つの健康状態の自己報告スコア。それぞれ、5点のリッカートスコア(0点は問題なし、5点は重大な問題)でスコアリングする。
ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)
睡眠の質の自己報告スコア。重み付けされた7つの要素(主観的な睡眠の質、睡眠潜時、睡眠時間、睡眠効率、睡眠障害、睡眠薬の使用、日中の機能障害)を0~3点で評価する。合計21点で、点数が高いほど睡眠の質が良くないことを表す。本研究では5点以上を「睡眠の質が悪い」と定義した。
エプワース眠気尺度(ESS)
日中の眠気の自己報告スコア。日中の8つの設定条件での眠気をリッカートスコアで評価する(0点は居眠りすることはない、4点は居眠りする可能性が高い)。スコアを合計した上で総合ESSスコア(0~24点)を算出。スコアが高いほど眠気が強いことを示す。
アスリートのストレスと回復アンケート(RESTQ-Sport)
アスリートのストレスと回復(リカバリー)レベルを52項目で評価する自己報告スコア。ストレスについては、一般的ストレス、感情的ストレス、社会的ストレス、葛藤/圧力、倦怠感、エネルギー不足、身体的不満という7項目、リカバリーについては、成功、社会的回復、身体的回復、一般的な幸福、睡眠の質という5項目をスコア化する。ストレススケールのスコアが高いことは高レベルのストレス状態であることを示し、リカバリースケールのスコアが高いことは回復が良好であることを示す。
アスリートの朝/夕方アンケート(AMES)
アスリートのクロノタイプ(朝型か夜型か)や、好ましい競技やトレーニングの時間を自己識別する4項目の質問票。
睡眠日誌(CSD-C)
上記の指標のほか、睡眠日誌をもとに、総就床時間、総睡眠時間、入眠後の覚醒や時間、睡眠効率などを評価した。
その他
また、トレーニングまたは競技日と休息日のサプリメントおよびアルコールの摂取量についてもアンケート項目として追加した。

睡眠効率などの指標にエリート群とサブエリート群で有意差

では、それぞれの評価指標の回答について、エリート群とサブエリート群で比較しながらみていく。

EuroQoL(EQ-5D-5L)

一般的な健康状態はエリート群がサブエリート群よりわずかに高かったが、有意差はなかった(83.05±13.6 vs 81.05±12.57,p=0.172)。より詳細にみると、可動性および通常の活動(仕事、勉強、トレーニング、家事、家族または余暇活動)については19%が、軽度から重度の問題を報告した。セルフケアに関する問題があるとする回答は2.9%とわずかだった。一方、痛みに関しては50%が軽度また中等度の痛みを訴えた。不安/うつは34%に認められた。

ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)

習慣的な睡眠効率は、エリート群のほうが有意に高いという群間差が認められた(88.62±8.84 vs 86.55±9.09%,p=0.046)。

その他の評価項目については、有意差はなかった。ただし、多数のアスリート(64%)が、睡眠の質が悪い(総合スコアが5点以上)と判定された。睡眠の質が悪いに該当する人のその理由として、30分以内に眠れない、夜または早朝に目覚める、トイレのために目覚める、ベッドで暑すぎると感じる、などが挙げられた。

また、一般的な作業に対する集中力が欠如する感覚が週1回ある割合は、エリート群の44%とサブエリート群の41%で報告された。睡眠薬の習慣的な使用は、エリート群5%、サブエリート群7%と、多くはなかった。

なお、総睡眠時間は、エリート群7.58±1.06時間、サブエリート群7.35±1.05時間だった。

エプワース眠気尺度(ESS)

エリート群の22%、サブエリート群の21%が、臨床的に有意な日中の過度の眠気(ESS合計スコア10点以上)を報告した。群間に有意差はなかった。

アスリートのストレスと回復アンケート(RESTQ-Sport)

ストレスに関しては、エリート群とサブエリート群に有意差はなかったが、回復(リカバリー)に関してはエリート群のスコアが高値であり、群間に有意差が存在した(3.22±0.90 vs 2.91±0.90,p<0.001)。

アスリートの朝/夕方アンケート(AMES)

クロノタイプ(朝型か夜型か)や、トレーニングの時間帯の好み、疲れやすい時間帯などに、有意な群間差はなかった。それにもかかわらず、競技を行う時間帯の好みとして午後の時間帯を選択した人の割合がエリート群で高く、有意差がみられた(77% vs 60%,p=0.015)。

睡眠日誌(CSD-C)

日常的な総就床時間、入眠潜時、中途覚醒時間には統計的に有意な群間差はなかったが、トレーニングや競技日の総睡眠時間はエリート群のほうが有意に短かく(8.01±1.3 vs 8.2±1.38時間,p=0.049)、休息日の中途覚醒回数はサブエリート群のほうが有意に多かった(1.03±1.17 vs 1.52±2.44回,p=0.012)。

両群のアスリートの多く(エリート群の70%、サブエリート群の67%)は、一晩につき1~5回の覚醒がみられた。中途覚醒の理由として、怪我(4%)、子ども(3%)、不安(6%)、エネルギー制限の影響(2%)やトイレのための覚醒(6%)などが挙げられた。

サプリメントの使用と睡眠に、わずかながら有意な関連

サプリメントとアルコールの使用に関して、有意な群間差はなかった。使用される頻度の高いサプリメントは、ホエイプロテイン、カフェイン、クレアチン、マルチビタミン、魚油、プロバイオティクス、ビタミンDなどだった。

サプリメントの使用と睡眠や回復に関する指標(RESTQ-Sportスコア)との間に、以下のわずかな有意な関連が認められた。睡眠の質はスピアマン順位相関係数(rS)=-0.167(p=0.002)、睡眠習慣の乱れrS=0.119(p=0.029)、倦怠感rS=0.137(p=0.012)、体調rS=-0.114(p=0.036)、自己効力感rS=-0.108(p=0.048)。

本研究は横断研究のため因果関係は不明だが、著者らはカフェインの摂取による睡眠等への影響を考察している。

以上一連の結果のまとめとして、「アスリートの大半は睡眠時間は十分であるものの、睡眠の質に関しては改善の余地が大きく、日中の過度の眠気が報告された。全般的に身体的回復が十分でなく、ストレスレベルの高さが認められる。アスリート、とくにエリートアスリートが行っている高レベルのトレーニングと競技の負荷を考慮すると、彼らの睡眠と回復を促進する戦略を探らなければならない」との結論が述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「The Sleep and Recovery Practices of Athletes」。〔Nutrients. 2021 Apr 17;13(4):1330〕
原文はこちら(MDPI)

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