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肥満は誰の責任? 女性では環境や幼少期の被虐体験の関連も 日本人対象の調査結果

肥満は「生活習慣改善のための個人の努力不足の結果である」と捉えられがちだが、成人女性の肥満には、経済的状況や教育といった社会環境などのほか、幼少期の経験、とくに被虐体験と関係することが明らかになった。神戸大学の研究グループが行ったアンケート調査の結果であり、「PLOS ONE」に論文掲載されるとともに同大学のサイトにニュースリリースが掲載された。

肥満は誰の責任? 女性では環境や幼少期の被虐体験の関連も 日本人対象の調査結果

研究グループでは、「日本人での幼少期の被虐待体験と成人後の肥満との関連は、今回初めて明らかとなった事実。虐待防止の取り組みの推進などの子どもの福祉の増進は、成人の肥満の予防にもつながる可能性がある」と述べている。

研究の背景:日本の社会環境で日本人の肥満関連因子を探る

肥満は過食・運動不足といった生活習慣と深く関連があるが、社会的な因子も肥満に影響することが、主として海外から報告されてきている。しかし日本発のそのような調査研究はまだ少ない。海外とは人種/民族の差や文化の差があるため、日本国内の調査に基づいた肥満と社会的背景の関連の解明が求められていた。社会的因子と肥満との関連が明らかとなれば、肥満の予防や対策の推進に大きく寄与すると考えられる。

研究の内容:神戸市の成人2万に対するアンケート

神戸市では、市民の健康状況を把握するため2018年に20歳以上65歳未満の市民2万人を対象に生活状況や健康課題に関するアンケート調査を行った。このアンケート調査の有効回答のうちデータ利用許可を得た5,425件の結果をもとに、肥満がどのような個人の生活背景と関連するかを検討した。なお、この調査対象における肥満の割合は、日本全体の傾向と同様に、女性(10.6%)より男性(27.2%)で高かった。

肥満と関連する社会生活背景について検討したところ、女性では、肥満者と正常体重者の間で、雇用状況、世帯の経済的状況、学歴、中学高校時代のクラブ活動、15歳の時の経済的な状況、子ども時代の逆境経験といった項目で差が認められた。さらに、肥満の成立に影響すると予測されるのは、婚姻状態、世帯の経済的状況、学歴、子ども時代の逆境経験だった(図1)。

一方、男性では調査したいずれの項目でも統計学的な差がみられなかった(図2)。

図1 成人女性の肥満に関連する因子のリスク比

成人女性の肥満に関連する因子のリスク比

グラフ内の項目すべてに統計学的な差が認められた
:高収入(年収600万円以上)、低収入(年収200万円未満)
(出典:神戸大学)

図2 成人男性の肥満に関連する因子のリスク比

成人女性の肥満に関連する因子のリスク比

すべての項目で統計学的な差は認められなかった
:高収入(年収600万円以上)、低収入(年収200万円未満)
(出典:神戸大学)

女性の肥満と有意な関連がみられた項目のうち「子ども時代の逆境」(図1の一番右)の具体的な内容を詳しく分析した結果、親からの身体的暴力、食事や衣服を適切に与えられないこと、親からの侮辱や暴言によって心が傷ついたことなど、両親からの被虐体験が有意な因子として抽出された (表1)。

表1  「子ども時代の逆境」の肥満リスク比の詳細
経験なし:経験あり 統計学的差
両親に起こった不幸な出来事※1 1:1.24 なし
両親からの虐待※2 1:1.59 あり
経済的困窮 1:1.24 なし
女性の肥満の有無で、子どもの頃の「両親からの虐待」に統計学的な差が認められた
※1:死、離婚、精神疾患、父親の母親に対する暴力
※2:両親の暴力による怪我、食事や衣服を適切に与えられない、両親からの侮辱や言葉で心が傷ついた
(出典:神戸大学)

今回の研究で、肥満自体は男性に多いものの、女性では肥満の発症に個人の生活背景が深くかかわっていることが明らかになった。とくに、子ども時代の被虐体験が成人女性の肥満と関連することが示されたのは、国内の調査では初めてという。

なお、海外では子ども時代の被虐経験(肉体的、精神的、性的虐待、ネグレクト)が成人後の肥満だけでなく、喫煙習慣の増加など全般的な不健康状態につながることが報告されている。虐待を経験すると、脂肪や糖質の多い口あたりの良い食べ物に対する依存が起きやすくなったり、ストレスを受けたときに過食に走りやすくなったりすると考えられている。

この研究の意義と今後の展開

先進国においては、女性は収入や学歴などの社会・経済的な状況が肥満と関連すると報告されていた。今回の研究で、日本の代表的な都市の一つである神戸でも、女性の肥満は社会経済的な背景と関連することがわかった。

肥満は従来、食べ過ぎや運動不足が主な原因であって、その根底には個人の努力の不足や意志の弱さがあるという視点で捉えられがちだ。しかし、女性においては個人の置かれた社会的背景も肥満の成り立ちに関連していることが示され、肥満対策において、社会的な観点からの介入も重要なことが明らかとなった。

日本では児童の虐待相談件数が増加している。児童虐待に対する取り組みの強化などを通じて、児童福祉の増進を図ることは、肥満の予防にもつながる可能性が示された。

なお、研究グループでは、今回示されたような女性の肥満と社会的背景との有意な関連が生じる理由について、「体重に関する感じ方には男女で差があり、女性は男性に比べ、やせていることを美しさや健康に結びつけやすい傾向がある。美しさや健康の追求には社会経済的な余裕が必要であるため、社会経済的要因は女性の肥満により強く影響を与える可能性がある。また小児期の生育環境は、社会経済的要因とは別に、ホルモン分泌などの体の変化(生体機能変化)を通じて、肥満しやすい状況を生む可能性がある。このような変化の実態は明らかではないが、その影響が男女間で異なることもあり得ると考えられる」と述べている。

関連情報

肥満は自分だけの責任ではない 子供時代の経験や環境も影響(神戸大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Sex difference in the association of obesity with personal or social background among urban residents in Japan」。〔PLoS One. 2020 Nov 25;15(11):e0242105〕
原文はこちら(PLOS ONE)

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