味覚に対する身体活動の影響をシステマティックレビュー
甘いものを食べたい――疲れた時にそう思った経験のある人は少なくないだろう。甘い物はからだや脳に素早くエネルギーを与えてくれるから、疲れた時は甘いものが欲しくなるのだと、よく言われる。しかし、話はそれほど単純ではなく、条件によっては身体活動で甘味の好みが低下することもあるようだ。身体活動と味覚に関する研究のシステマティックレビューの結果であり、塩味や酸味などに対する身体活動の影響も明らかにされている。
食欲や味覚が身体活動によりどのように変化するか
食欲は主に、エネルギーの恒常性維持と快楽的な要素に左右されると考えられる。超加工食品は口あたりがよく、砂糖や脂質、塩分が豊富という特徴があり、そのような食品をビュッフェスタイルで提供すると、低加工食品を提供した場合に比べて1日あたりの摂取量が平均500kcal増えるという研究もある。そして食事の嗜好は、エネルギー摂取量と相関し、肥満とも強く関連する。
これに対して身体活動は、エネルギーバランスを負に傾けるとともに、"食欲ホルモン"と呼ばれるグレリン濃度を低下されることが示されている。このような、身体活動が食事摂取量や食品選択に及ぼす影響の研究報告が増加しているが、明らかになっていないことが少なくない。
6件の文献データベースを使い、18件の報告を抽出
そこで著者らは、PRISMA(preferred reporting items for systematic reviews.システマティックレビューとメタ解析ための優先報告事項)に則して、これまでに報告された身体活動と味覚の関連に関する研究の文献レビューを行い、現時点のエビデンスを整理した。選択基準は、ヒトを対象とした味覚と身体活動の関連に関する研究で、英語またはフランス語で全文が公開されているものとし、PubMed、Embase、Cab Abstracts、Web of Scienceなど6種類の文献データベースから検索した。検索キーワードは、有酸素トレーニング、運動、身体活動、レジスタンストレーニング、スポーツなどで、味覚については、甘味、塩味、苦味、酸味、旨味の5種類を対象とした。
ヒットした8,638件の論文を2名の著者が、論文のタイトルやアブストラクトを基にスクリーニングした後、全文を検討した結果、最終的に18件の論文が抽出された。1件はケースコントロール研究で、それ以外は無作為化または非無作為化の対照研究だった。検討対象者数は12~900名で、合計1,602名であり、ほぼすべての研究が健常成人を対象としたものだった。
日本からの報告が5件、米国から4件、イスラエル2件で、その他、英国、中国、カナダ、ノルウェー、オランダ、アイルランド、ニュージーランドから各1件。運動介入はトレッドミルまたはエルゴメーターで行い、最大酸素摂取量や最大心拍数で負荷を評価しているものか多数を占めていた。
味覚への影響は条件により異なる
まず全体的な結果をまとめると、18件の研究のうち3件は味覚の強さ、感度、好みが身体活動により増加する傾向を報告していた。4件は好みが減少する傾向を報告していた。その他、身体活動の介入手法により異なる結果を報告した研究もみられた。
甘味への影響
甘味に関しては、身体活動によって甘味の強度が増すとする報告が3件、甘味の感度が増すとする報告が1件みられた。このうち甘味の感度が増すと報告した研究は日本からのもので、ハーフマラソンの前後でショ糖濃度の検出閾値が11.9±1.0mMから7.7±0.8mMに低下したという。
甘味への好みについては、急性の身体活動と慢性の身体活動で異なる傾向がみられた。急性の身体活動では甘みに対する好みが増し、慢性の身体活動では反対に甘味に対する好みが低下する傾向がみられた。また、日常の身体活動量が多い対象では、身体活動量が少ない対象に比べて、甘味の強いもの、または脂肪分の多いものに対する好みが低下する傾向が認められた。
これらの結果は、慢性的な身体活動による減量に関して、肯定的な結果をもたらすことを示唆するものと言える。
塩味への影響
塩味に関しては、身体活動によって塩味の強度が低下するとする報告が1件、塩味の感度が増すとする報告が1件みられた。また結果は身体活動の持続時間に依存する傾向もみられ、4件の報告は身体活動により塩味への好みが増すことを報告していた。報告した著者らは、身体活動に伴う汗の喪失によるものであると仮定していた。
甘味と比較した塩味の主要な相違点の一つは、嗜好に関して報告されたすべての研究で好みが増していた点だ。また日常の身体活動量が多い対象では、身体活動量が少ない対象に比べて、塩味への好みと受容性が高かった。
苦味、酸味、旨味への影響
苦味や酸味、旨味への影響を調査した報告は少なかった。酸味に対しては身体活動で強度が減弱するとする報告が2件、好みが増すとする報告が2件あり、苦味に関しては有意な影響を報告した研究はなかった。旨味に関しては1件の研究があり、身体活動により強度が増し、好みは低下するとしていた。
まとめると、身体活動は味の強さ、感度、好みに影響を及ぼし、結果や効果は条件や評価される味のタイプによって異なる。著者らは、医学・医療分野で現在、加齢や疾患に伴う味覚や嗅覚の変化・減弱に関する報告が増えていることから、「身体活動が味覚や嗅覚を強化するための有用なツールになり得るか否かを評価する研究が、今後重要になる可能性がある」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effect of Physical Exercise on Taste Perceptions: A Systematic Review」。〔Nutrients. 2020 Sep 9;12(9):E2741〕
原文はこちら(MDPI)