競技人口が拡大する持久力スポーツにおける栄養関連の有害事象 文献レビューの結果
近年、持久力・超持久力スポーツの競技人口が急速に増加している。これらの競技は、アスリートにとって非常にチャレンジングなものだ。そのため、医学的・栄養学的問題を発症するリスクが高い。このような状況を背景に、持久力・超持久力スポーツにおける栄養関連の有害事象の発生率を、文献レビューにより調査した結果が報告された。
著者らはPubMedを用い、「持久力・超持久力競技およびスポーツで発生するさまざまな栄養関連の有害事象の発生率は?」との疑問に対する構造化検索を実行。ヒットした871件の論文を、2名の独立した研究者が選択した。
選択基準は、ヒトを対象とするコホート研究、ケーススタディ、または臨床試験で、英語またはスペイン語により、2008~19年に発行された論文。持久力・超持久力の競技イベント数は過去10年間で大幅に増加してきており、かつスポーツ栄養分野も科学的に進歩していることを反映するため、最新の情報を得られるように制限した。レビュー論文、ヒト対象でない研究、アスリートに関連しない研究、持久力・超持久力スポーツに属さない競技を対象とした研究は除外した。適格か除外か判断が困難な場合は2名の研究者の合意により採否を決定した。
33件の論文を抽出
その結果、最終的に33件の論文が抽出された。内訳は、コホート研究が18件、ケーススタディが11件、無作為化臨床試験が4件。
レビューに含まれる検討対象アスリート数の合計は2万3,344人で、国別では米国が最も多く12件、以下、英国5件、フランス4件、ブラジルとチェコが各2件、ドイツ、オーストラリア、オランダ、アイルランド、ノルウェー、ポルトガル、南アフリカ、スイスが各1件。競技種目は、ウルトラマラソンとマラソンが各8件、サイクリング6件のほか、トライアスロン、水泳、ハーフマラソンなど。
報告された有害事象の発生率は、脱水症が最多
有害事象の報告は、消化器症状に焦点を当てたものが7件、熱中症が7件、低体温症が3件、運動関連低ナトリウム血症が13件、脱水症が5件。
有害事象の発生率をみると、脱水症が最も高く1,918人中の392人(20.4%)に出現していた。続いて運動関連低ナトリウム血症が2,829人中290人(10.3%)、消化器症状が1万3,852人中1,302人(9.4%)、低体温症が202人中13人(6.4%)だった。
この結果から、著者らは以下の結論をまとめている。
- 持久力・超持久力スポーツで、発生率が最も高い有害事象は脱水症で、次いで運動関連低ナトリウム血症であり、ほかに消化器症状、低体温症の問題が存在する。
- これらの有害事象は、スポーツパフォーマンスに影響するだけでなく、競技参加者の健康にも影響を及ぼし、その発生の兆候が現れた場合、アスリートはその競技を棄権するサインとしてとらえる必要がある。
- 運動関連低ナトリウム血症の発生とその影響の大きさを考慮し、水分と電解質の消費に関する個別戦略に基づいて、持久力・超持久力アスリートのための栄養情報と教育を普及させ、発生率を最小限に抑える必要がある。
- 脱水症は運動関連低ナトリウム血症の発生にも関連がある。持久力・超持久力アスリートは、競技大会の気象条件への事前の順応と、適切な水・電解質バランスの双方が、脱水症のリスクを減らし、同時に運動関連低ナトリウム血症のリスクも減らすことを理解しておく必要がある。
- 以前に摂取したことのない製品・サプリメントの使用は、副作用のリスクが不明であるため、推奨されない。
- アスリートの熱中症予防には、競技が行われる条件に順応する事前のプロトコルが必要。
- 発生率は高いとは言えないが、水泳や寒冷環境で行われる競技に参加するアスリートは体温に注意を払い、低体温症の発症を防ぐことが重要。
文献情報
原題のタイトルは、「Nutrition-Related Adverse Outcomes in Endurance Sports Competitions: A Review of Incidence and Practical Recommendations」。〔Int J Environ Res Public Health. 2020 Jun 8;17(11):E4082〕
原文はこちら(MDPI)