フィットネス選手のエネルギー摂取不足で、無月経や消化器症状が有意に増加
審美的要素の強いフィットネス競技会において、選手は引き締まった姿を強調し、その美的外観が審査員によって主観的に評価される。そのため選手はしばしば極端なダイエットを行ったり秩序の乱れた食生活を送り、エネルギー可用性が低下して健康障害のリスクが高まる。具体的には、絶食、食事のスキップ、嘔吐、下剤や利尿薬の使用、過度の運動などの行動がとられることがある。とくに女性はこのような問題を抱えていることが多く、その影響で骨塩密度低下や妊よう性の障害などの懸念が生じる。
このような懸念を背景に本研究が行われた。競技会シーズン中の女性フィットネスアスリートの身体的および精神的な状態を、競技会には参加しない対照群と比較。若年女性においてみられる身体・精神的問題がスポーツをする人特有のものなのか、一般的にみられるものなのかを検討した。
フィットネスアスリートと活動的な一般女性を比較
2017年の春と秋にノルウェーで開催された全国レベルのフィットネス競技会を通じて、18~40歳の研究参加者を募集した。フィットネスアスリート群の応募条件は、翌年も引き続き競技会への参加意思があること。対照群は、BMI17.5~30で日常的にレクリエーションスポーツを実践しているものの、競技力を求められるフィットネスやボディビルの経験はないこと、また妊娠中・妊娠予定がないこと。
フィットネスアスリート(FA)群に39名、対照群には36名が応募し、スクリーニングの結果、同順に25名、26名がこの研究に参加した。FA群の中には国際選手権出場者2名を含め、ノルウェーの国内選手権には全員が出場していた。内訳はビキニフィットネス21名(84%)、ボディーフィットネス3名(12%)、アスレチックフィットネス1名(4%)。
主な背景は以下のとおり。それぞれ、FA群、対照群の順に、年齢28.1±5.5歳、29.8±6.0歳、BMI22.5±2.1、23.2±2.9、体脂肪15.1±4.5kg、18.1±5.7kg、5年以上の運動経験64.0%、80.8%、現在の週5日以上の運動56.0%、30.8%、自己申告による摂食障害の既往34.6%、12.0%、自己申告による現在の摂食障害7.7%、4.0%、避妊薬の服用60.0%、69.2%。これらのうち統計的有意差があったのは体脂肪量のみだった(p=0.04)。自己申告による摂食障害の既往の群間差も大きいが、p値は0.06で有意水準には至らなかった。
評価項目は、骨密度(DXA法)、安静時代謝率、エネルギー可用性(LEAF質問票)、うつスコア(ベック質問票)、食事調査(平日3日と週末1日の計4日にわたりサプリメントを含むすべて)などで、ベースライン登録時(競技に向けての減量開始前)と、競技の2週間前、および競技1カ月後の計3回計測した。ベースラインの測定は、個人の減量期間の長さに応じて競技の3~4カ月前に行われた。FA群のうち13名は1競技のみ、7名は14日間に2種の競技、2名は21~56日間に3種の競技に出場した。なお、この研究は介入を伴わず、FA群は個人のルーティーンに沿い、対照群は個人の好みに従って食事・運動を行った。
競技前の計測値を中心に有意差
結果について、経時的な変化やFA群と対照群で群間差が認められた評価項目を中心にみていこう。
FA群で無月経の頻度に経時的変化
FA群のうち避妊薬を使用していない者の無月経の頻度は、ベースライン時に8%で、競技2週間前~1カ月後には24%で有意に増加していた。一方、対照群はベースライン時が12%で経時的な変化はなかった。
FA群でエネルギー可用性が低下し、消化器症状が増加
FA群では競技2週間前において、エネルギー可用性がベースライン時から有意に低下した。ただし競技1カ月後には有意でなくなっていた。対照群との比較ではいずれのタイミングでも有意差はなかった。ただし、FA群で避妊薬を使用している者では、競技2週間前の消化器症状がベースライン時より有意に増加し、対照群との比較でも有意な群間差がみられた。
炭水化物摂取量は全般的に少ない
FA群では競技2週間前の摂取エネルギー量がベースライン時より有意に低下しており、対照群との群間差も有意だった。競技1カ月後は有意差が消失していた。ただし、両群ともに炭水化物摂取量が推奨量を大きく下回っていた。蛋白質摂取量は推奨の上限範囲内だった。
安静時代謝率と心拍数も経時的に変化
FA群では競技2週間前の安静時代謝率と心拍数がベースライン時より有意に低下し、心拍数については対照群との群間差も有意だった。競技1カ月後は有意差が消失していた。
体組成の変化
対照群の体重、除脂肪体重、脂肪量は観察期間を通じて有意な変化がなかったのに対し、FA群では競技2週間前に体重と除脂肪量がベースライン時から有意に減少、除脂肪体重が有意に増加し、いずれも対照群との有意差が生じていた。さらに競技1カ月後においても、脂肪量は前値に回復しておらず、ベースライン時との比較および対照群との比較において有意に低値だった。
炭水化物は少ないながらも成績上位者は多めに摂っていた
FA群を競技成績が優秀だった者(参加カテゴリーの上位5位以内に入った者)と、それ以外の者に2分し関連する因子を検討した。その結果、競技会出場経験が多いこと(2.2±2.2 vs 0回)、競技2週間前の脂肪量が少ないこと(7.7±1.3 vs 11.7±2.7kg.脂肪/体重比では14.2±2.0 vs 20.1±4.1%)と並んで、炭水化物摂取量が多いこと(2.7±1.0 vs 1.4±0.9g/kg)が、有意な因子として抽出された。
無月経等は、アスリートおよびスリムな体型を好む一般女性で懸念される
これら一連の結果のまとめてとして著者らは、「スポーツ選手の減量に関する推奨事項は順守されていたにもかかわらず、フィットネスアスリートでは低エネルギー可用性に関連する健康障害を避け切れていなかった。幸いにも減量の影響は競技会参加後に回復していたが、減量期間中の無月経と消化器症状の増加は、数シーズンにわたり繰り返し競技を継続するアスリートに対し、長期的な健康への影響が懸念される。この懸念は、スリムで引き締まった外観という身体的な理想に固執している女性にも当てはまる」と結論を述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Physical health and symptoms of relative energy deficiency in female fitness athletes」。〔Scand J Med Sci Sports. 2020 Jan;30(1):135-147〕