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アスリートの甲状腺機能と栄養状態

「アスリートの甲状腺機能と栄養状態」というタイトルの総説が、米国スポーツ医学会の「Current sports medicine reports」誌に掲載された。

アスリートの甲状腺機能と栄養状態

甲状腺疾患は女性に多く、アスリートにも少なくないと考えられる。甲状腺疾患は自己免疫疾患ではあるが、その病勢にはエネルギー摂取不足やヨウ素、セレン、鉄、ビタミンD欠乏などの栄養要因が影響する。また激しい運動は甲状腺ホルモンの一過性変化と関連していたり、甲状腺関連障害がアスリートのパフォーマンスに影響を与える可能性がある。しかしこれらの重要性は十分認識されているとは言えない。

このような現状を背景に書かれた本論文は、甲状腺機能と病理、スクリーニング、臨床一般、スポーツと甲状腺機能および食事の関連をレビューしている。主に栄養に関連する項目を抜粋し、以下に要約を紹介する。

アスリートの甲状腺疾患の有病率

アスリートにおける甲状腺疾患の有病率が一般集団のそれと異なるかどうかに関する情報はほとんどない。しかし、過去40年間で報告されたいくつかの研究から、激しい運動が甲状腺機能低下症を誘発する可能性が示されている。

最近の研究の1つは、45分間の集中的なインターバルトレーニングにより運動後12時間で、末梢でのT4(thyroxine.サイロキシン)からT3(Triiodo thyronine.トリヨードサイロニン)への変換が障害され、通常のランニング後には明らかではなかったrT3(reverse T3)の上昇が見られた。また過去に6カ月間以上の無月経を経験している女性アスリートでは、現在無月経か否かにかかわらずFT3(遊離トリヨードサイロニン)およびFT4(遊離サイロキシン)値が有意に減少することが示された。

1,222人の女性ランナーを対象にした調査では、12.2%が甲状腺機能低下症と診断されている。診断されるリスクは、10歳になる以前にランニングを始めていたアスリートで3倍高かった。この研究における有病率は一般集団の有病率よりも高いが、その理由として、ランナーの甲状腺機能低下症状に対する認識が鋭敏であること、および/または、アスリートを診察する専門医の診断閾値が低いことを反映している可能性が考えられる。

このほか、T3は短期間の体重変化に敏感であり、摂食障害のあるアスリートの栄養リハビリテーションの進捗をモニタリングする上で有用との考え方もある。ただし、アスリートの甲状腺疾患の有病率と、パフォーマンスへの影響を明らかにするためには、さらなる研究が求められる。

栄養状態と甲状腺機能

ヨウ素

ヨウ素欠乏症は世界で一般的な栄養欠乏症だが、米国で公衆衛生上の懸念があるとはほとんど考えられていない。とは言え実際にヨウ素欠乏症のリスクがある人は存在する可能性がある。

リスクが高いと考えられるのは、魚介類および/または乳製品を避けている人、ヨウ素添加塩を使用していない人、ベジタリアンなどだ。ヨウ素は、ヨウ素が豊富な土壌で栽培された農産物にもわずかに含まれているが、主要な供給源は、魚介類、海藻、乳製品である。

鉄欠乏症も世界で一般的な栄養欠乏症である。そして女性と持久力アスリートで明らかに頻度が高いことが知られている。アスリートにおける鉄欠乏は、エネルギー摂取不足および/または鉄分の豊富な食物の低摂取に起因することが一般的だが、急性炎症やヘプシジンの応答によっても影響を受ける可能性があり、さらに消化管出血、大量発汗、血管内溶血、高地トレーニング、血尿、女性アスリートでは月経が関連する。

鉄が欠乏すると筋肉機能が損なわれることは知られているが、それにとどまらず、甲状腺ペルオキシダーゼ活性を減弱させ、TSH(thyroid stimulating hormone.甲状腺刺激ホルモン)増加、T4、T3低下につながる可能性がある。

セレン

大多数の米国人は十分なセレンを摂取している。栄養補助食品を使用している場合はRDA(recommended dietary allowance.推奨量)の200%を超えることがある。

セレン摂取量は一般に男性で多く、女性で少ない。また土壌濃度との関連があり、米国とカナダでは異なり、米国内でも中西部および西部の居住者は南部および北東部よりも高い値が報告されている。しかし、食物の流通により低セレン地域に住む人も十分な量のセレンを得ている。このような状況にあるにもかかわらず、個々のアスリートでは低セレン状態になることがある。

セレンは甲状腺機能にとって重要であり、身体組織を酸化ストレスから保護する内因性抗酸化グルタチオンペルオキシダーゼの一部として機能する。一方で高レベルのセレンは、デヨージナーゼ活性を低下させることで、甲状腺ホルモンに有害な影響を与える可能性もある。

ビタミンD

ビタミンDの不足や欠乏は、アスリートでは屋内トレーニング時間の長い集団でよくみられる。ビタミンDは筋骨格における役割とは別に、炎症および免疫調節の重要な調節因子として認識され、その欠乏は自己免疫内分泌障害の危険因子となり得る。

絶 食

疾患や絶食が長引くと、安静時代謝の抑制により遊離および総T4およびT3濃度が低下する。

今後の研究の充実が望まれる

甲状腺疾患を発症しているアスリートが潜在的に存在する可能性があり、一部は栄養因子によって引き起こされていることもあり得る。運動が必ずしも甲状腺の問題を引き起こすわけではないが、激しい運動は甲状腺ホルモンの一時的な変化と関連し得る。

アスリートの甲状腺疾患の有病率、および運動トレーニングや競技、回復等との関連の評価のため、今後の研究が必要とされる。

文献情報

原題のタイトルは、「Thyroid Function and Nutrient Status in the Athlete」。〔Curr Sports Med Rep. 2020 Feb;19(2):84-94〕

原文はこちら(American College of Sports Medicine)

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