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アスリートのエネルギー消費量は計測法により25%の違い 画一的な食事計画は適さない

アスリートの日々の消費エネルギー量は、計測方法により結果が25%もの差が生じることがポーランドから報告された。仮にアスリートのエネルギー消費量を一つの方法で算出し、それに見合った食事計画を立て画一的に適用すると、誤った結果につながる恐れがあると論文の著者らは述べている。

アスリートのエネルギー消費量は計測法により25%の違い 画一的な食事計画は適さない

研究の背景

アスリートの食事は、健康と最善の身体機能および体力を維持するための前提条件。適切に計画された食事はしばしばパフォーマンスを決定し、最終的にスポーツの成功または失敗につながる。毎日のエネルギー摂取量が不十分であるか、またはエネルギー消費量が過剰であると、アスリートの体重、体組成、機能に悪影響を及ぼし、パフォーマンスを損なう可能性がある。

反対に消費するよりも過剰なエネルギーを摂取しエネルギーバランスがプラスになると、余分なエネルギーが脂肪組織に変わり、体重が増加し、やはり運動能力とパフォーマンスを損なう可能性がある。過剰なエネルギー摂取は、栄養素の需要が満たされていることと同一ではない。エネルギーが豊富であっても、ミネラルやビタミンあるいは蛋白質が少ない場合、栄養不足が発生することもある。

栄養不足はアスリートの体の成長や機能を妨げ、体重減少と筋肉量・力の低下を引き起こし、パフォーマンスを低下させ、怪我のリスクを高める可能性がある。食欲と満腹感に基づいた食事摂取は、人の栄養状態や栄養要件を満たすための信頼できる指標ではない。つまり、アスリートのエネルギーバランスを管理し、適切に栄養が補給されていることを確認する必要がある。

そのような食事計画を効果的に立てるには、アスリートのエネルギー消費量を見積もった上で、実際に必要なエネルギー量を判断することが理想的である。アスリートのエネルギー消費に関する推奨基準は既に存在するが、それらの推奨は想定する対象の条件次第で範囲が非常に広く設定されており、個々のアスリートに当てはめてエネルギー量を正確に計算する際、判断が一筋縄にいかない。

そこで本論文の著者らは、さまざまなスポーツを代表するエリートアスリートの実際のエネルギー消費量を計測し、アスリートに推奨されるエネルギー摂取推奨値との差異の有無の検討を試みた。

研究対象とエネルギー消費量の計測方法

この研究は、ポーランドの代表として国際大会出場経験があるなど、同国のエリートアスリート30名(20~34歳、女性・男性15名ずつ)を対象に行われた。競技種目によって全体を以下の4グループに分けて検討した。女性の有酸素持久力アスリート(クロスカントリースキー、障害物競走、マウンテンバイクなど、7名)、女性のスピード強度アスリート(バレーボール、ダウンヒルスキー、中距離ランニング、スポーツクライミング、テニスなど、8名)、男性の有酸素持久力アスリート(ボート、競歩、クロスカントリースキー、バイアスロン、マウンテンバイクなど、7名)、男性のスピード強度アスリート(中距離ランニング、フェンシング、ハンドボール、バレーボールなど、8名)。

エネルギー消費量の測定方法としては、アスリート自身が7日間にわたって、日常生活、仕事、スポーツ等にあてた時間とその身体活動の強度を記録し、それを基に推計する手法(アンケート法)と、米国ActiTrainer社の3軸加速度センサー(加速度計)を用いる手法の計2つの方法で計測した。加速度計は製品マニュアルに従い股関節の位置に装着し、個人の性別、年齢、身長、体重を入力して用いた。

加速度計によるエネルギー消費量はアンケート法より25%以上少ない

エネルギー消費量は、アンケート法では3,536.1±619.9kcal、加速度計による測定値は2,632.2±497.93kcalで、後者は前者より25.6%少なかった。前記の4グループごとにみると、女性の有酸素持久力アスリートではアンケート法で3,042.6±389.17kcal、加速度計で2,230.9±209.06kcal(後者が-26.7%)、女性のスピード強度アスリートでは同順に3,255.7±359.22kcal、2,346.3±355.17kcal(-27.9%)、男性の有酸素持久力アスリートでは3,778.0±657.69kcal、2,983.3±545.10kcal(-21.0%)、男性のスピード強度アスリート4,036.7±532.93kcal、2,970.4±345.41kcal(-26.4%)。

以上の結果を反映して、アンケート法で計測したエネルギー消費量は、米国スポーツ医学会が定義する身体活動量(physical activity level;PAL)のPAL2.2(かなり活動的なレベル)をほとんどのアスリートが満たしている一方で、加速度計の測定値ではほとんどのアスリートがPAL1.75(適度に活動的とされるレベルの下限)を下回った。

検討から得られた5つのポイント

その他の検討結果もあわせて、著者らは本研究の結論を以下の5点にまとめている。

  1. 加速度計の測定では、アンケート法と比較してアスリートの1日のエネルギー消費量の値が低くなる。このことから、実際のエネルギー消費量を正しく見積もる必要性が示唆される。
  2. 曜日によって同じアスリートのエネルギー消費量が大きく異なるため、エネルギーバランスを考える際に注意が必要かもしれない。
  3. アスリートのエネルギー消費量は、スポーツ競技の影響は少なかった。これはスポーツ競技の違いがエネルギー消費量の強力な決定要因ではないことを意味している。
  4. 男性アスリートは女性アスリートよりエネルギー消費量が多い。ただし、体重や体組成で調整後の相対的なエネルギー消費量の差は小さいか、有意でない。
  5. アスリートの実際のエネルギー要件は、文献で推奨されているエネルギー摂取基準とは大きく異なる場合がある。アスリートの食事計画を立てるための唯一の判断材料として文献的な基準を使用すると、エネルギーバランスの乱れにつながる可能性がある。

文献情報

原題のタイトルは、「Analysis of Daily Energy Expenditure of Elite Athletes in Relation to their Sport, the Measurement Method and Energy Requirement Norms」。〔J Hum Kinet. 2019 Nov 30;70:81-92〕

原文はこちら(Sciendo)

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