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車椅子マラソンランナーの高地トレーニングにおける栄養戦略ケーススタディー

パラリンピックメダリストである車椅子マラソンランナーの高地トレーニングに関する栄養戦略の事例報告が論文発表された。標高3,900mの高地でのキャンプ中の栄養介入と体重の推移が述べられており、先進的な事例報告として注目されている。

車椅子マラソンランナーの高地トレーニングにおける栄養戦略ケーススタディー

背景と方法

アスリートのバックグラウンド

このアスリートは、36歳のエリート車椅子マラソンランナーで、機能クラスはT52(車椅子を使用し、上肢の機能は正常もしくはほぼ正常だが指の曲げ伸ばしに制限があるカテゴリ)。

過去のパラリンピックにおいて銀メダルを獲得したことがあり、各種ロードイベントで106勝を達成している。身長1.76m、体重52.6±0.4kg。800mの記録は1分56秒、1500mは3分36秒、5000mは12分37秒で、これらは世界記録もしくは元世界記録。ハーフマラソンは50分28秒、マラソンは1時間42分05秒で世界4位。

既に10年以上にわたる高地トレーニングの経験がある。

トレーニングプロトコル

標高16mの平地トレーニングおよび3,900mのトレーニングの双方で、1週間あたり128kmの走行という同一の負荷を目標とした。

高地トレーニングはペルーの山岳地帯で行われ、最初の2日間は時差ぼけと頭痛等の急性高山病様症状の回復にあてた。その後、毎日2回のトレーニングセッションが組まれた。午前は20km、午後は16kmで、土曜日は20kmのワークアウトにあてた。日曜日は休息日とした。

高地トレーニングの第1~4週は、心拍変動レベルを指標とし、参照値に達した時点でセッションを終了した。月曜と木曜の午後のセッションはレジスタンストレーニングを含むメニューとした。

体重と栄養摂取状況の記録

トレーニング期間を通して、起床後に空腹時の基礎体重を計測した。摂食状況については食事記録システムを用い、朝食、昼食、夕食、捕食のすべてをアスリート被験者本人が記録した。

総摂取エネルギー量や炭水化物、蛋白質、脂肪摂取量は、スペイン科学技術省の栄養組成データベースに従い推計した。

栄養プログラム

食事のメニューは実施されたトレーニングに沿って組み立てられた。

炭水化物が豊富なスナックを利用することで3食のみよりエネルギー摂取量の最適化が可能との報告に基づき、食事に2種類の炭水化物スナックを加えた。蛋白質に関しては、除脂肪体重の減少を避けるために、2.4g/kgの最小摂取量を目標とした。脂肪に関しては、脂肪酸の動員を促進するため、最低1g/kgに設定した。

トレーニング量が多い日は、増加したエネルギー需要を満たすために、夕方午後5時30分にスナック摂取と休憩を挟んだ。

その他、筋蛋白質合成を高めるため、各セッションの直後にロイシン2.5g、イソロイシン1.5g、バリン1.5gを摂取した。また鉄レベルを維持するため硫酸第一鉄105mgを摂取した。なお、世界アンチドーピング機構(WADA)のコードに準拠するため、これらのサプリメントには禁止物質を含んでいない。

結果と考察

体重と摂取量の推移

高地トレーニングを成功させる主要な栄養学的目標の1つは、体重減少を最小限に抑えることとされる。本研究において体重は、高地トレーニング前52.6±0.4kg、高地トレーニング中50.7±0.5kgであり、有意に減少したが(p<0.001)、平地に戻ると52.1±0.5kgと前値に回復した。

摂取エネルギー量は、高地トレーニング前2,397±242kcal、高地順応期間2,899±670kcal、高地トレーニング中3,037±490kcalと有意に上昇し(p<0.01)、平地に戻ると2,411±137kcalと前値に回復した。炭水化物摂取量は、高地トレーニング前(7.1±1.2g/kg)や平地に戻った後(6.3±0.8kg)に比し、高地トレーニング中は有意に多かった(第1週から順に、9.6±2.1,9.9±1.2,9.6±1.2g/kg.p<0.001)。

研究のまとめと明らかになった点

高地トレーニングではエネルギー代謝率が上昇することが知られている。そのため本研究では、高地トレーニング前の体重を維持するために、平地トレーニング時と比較して体重1kgあたりの炭水化物および蛋白質摂取量を大幅に増加した。また、グリコーゲンの可用性を高めるために、トレーニングセッション3時間前に豊富な炭水化物食が摂取されていた。さらに消化器症状を避けるため、アスリートに対してシリアルから白パンのような繊維の少ない食物に変更することを勧めたが、手先の障害のためにパンのスライスやフルーツジャムを塗ることに支障があり、結局、シリアルを摂取することになった。

筋肉量の減少を抑制するため高蛋白食をとり入れ、ホエイおよびカゼイン蛋白質製品などが、2.4g/kgの最小要件を確実に達成するために利用された。個人的な好みによって、ランチではデリバリーによる肉食、ディナーでは魚介類が摂取されていた。

なお、論文中には、トレーニング各セッションの朝、昼、夜に摂取されたものが表形式で示されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Nutritional strategies in an elite wheelchair marathoner at 3900 m altitude: a case report」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2019 Nov 10;16(1):51〕

原文はこちら(Springer Nature)

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