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持久系アスリートのタンパク質摂取推奨量、従来法での推計は過小評価の可能性

主要栄養素の1つであるタンパク質をアスリートがどれぐらい摂取するべきかというテーマは、スポーツ栄養において古くから検討されているテーマである。この点に関し、トロント大学と味の素株式会社によって行われた、新たな考え方を示唆する共同研究の報告を2報紹介する。

持久系アスリートのタンパク質摂取推奨量 従来法での推計は過小評価の可能性

これまでのスポーツ栄養研究から、アスリートは運動をしない人に比べてタンパク質をより多く摂取することが推奨されてきた。例えば米国スポーツ医学会 (ACSM)の2016年の共同声明では、1.2~2.0g/kgのタンパク質を摂取するよう推奨している。ただ、この推奨値は主として窒素出納法を用いた研究結果を基に定められており、窒素出納法は原理的にタンパク質必要量を過小評価する可能性を指摘する意見もある。

またアスリートのタンパク質摂取量は、運動パフォーマンスやトレーニング効果を最大化するために必要な量であるべきで、窒素出納法で算出される「体組成を維持するために必要なタンパク質量」が、運動パフォーマンスやトレーニング効果の最大化に最適な値と同一であるかは明らかではない。

このような背景から研究グループでは、近年開発された指標アミノ酸酸化法を用いて、持久系アスリートのタンパク質必要量を再評価し、さらに、同法を用いて求めたタンパク質量を摂取することによるパフォーマンスへの影響を、以下の手法により検討した。

実験①:20km走る日の必要タンパク質量の検討

男性持久系アスリート6名(平均年齢28±4歳、 VO2peak 60.3±6.7 mL/kg/分)を対象に、実験室内にて20kmのトレッドミル走を実施した。その後、卵タンパク質組成(1-13C フェニルアラニン1.20 mg/kgを含有)のアミノ酸を含む食事を摂取させ、13CO2の排泄速度から、タンパク質必要量、および、タンパク質摂取推奨量を測定した。

その結果、20kmを走った日の平均タンパク質必要量は1.65g/kg/日であった。タンパク質摂取推奨量については、対象集団の約98%が必要量を満たす摂取量である信頼区間95%の上限値とすると、1.83g/kg/日であることを見出した。

これは、先行研究において窒素出納量によって求められた値に比べ、30~50%程度高い値であり、持久系アスリートのタンパク質摂取推奨量がこれまで過小評価されていた可能性が示された。

実験②:パフォーマンス向上の至適摂取量の検討

男性持久系アスリート10名(平均年齢32±8歳、 VO2peak 65.9±7.9 mL/kg/分)を対象とし、4日間の持久トレーニング期間中に3種類の用量設定でタンパク質食を摂取させ、その摂取量の違いによる運動パフォーマンスへの影響を検討した。タンパク質摂取量は、低用量条件(0.93g/kg/日)、中用量条件(1.2 g/kg/日。前述のACSM共同声明の下限値)、高用量条件(1.83g/kg/日。指標アミノ酸化法で求められたタンパク質必要量)とした。

4日間の持久トレーニングの前と後で5kmのタイムを比較すると、タンパク質摂取量の違いが影響する傾向がみられ(p=0.06)、低用量または中用量条件よりも高用量条件においてタイムが改善される可能性が示唆された(効果量0.57 vs 低用量、0.26 vs 中用量)。

この結果は、指標アミノ酸酸化法で算出したタンパク質摂取推奨量の方が、窒素出納法で算出した値に比べて、パフォーマンス改善に適している可能性を示したものと言える。持久系アスリートにおいては、ACSM推奨範囲(1.2~2.0g/kg/日)の高めの値を目標に摂取することで、運動パフォーマンスを維持できるとも考えられる。

以上より、従来用いられてきた窒素出納法による推奨量は、アスリートのタンパク質摂取推奨量を過小評価している可能性があり、運動パフォーマンスや体組成変化などを指標としたさらなる検証の必要性が示唆される。

文献情報

実験①

原文のタイトル「Protein Requirements Are Elevated in Endurance Athletes after Exercise as Determined by the Indicator Amino Acid Oxidation Method」 PLoS ONE 11(6): e0157406.
原文はこちら(PLoS One)

実験②

原文のタイトル「The Effect of Dietary Protein on Protein Metabolism and Performance in Endurance-trained Males.」 Med Sci Sports Exerc. 2019 Feb;51(2):352-360. doi: 10.1249/MSS.0000000000001791.
原文はこちら(Med Sci Sports Exerc)

ACSMの2016年の共同声明の原文はこちら

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