ケトン体産生食・糖質制限食による腸内細菌への影響 文献的考察からのメッセージ
近年、腸内細菌叢と健康・疾患との関連が次々と示され、多くの領域でトピックとなっている。その一方で、肥満や糖尿病などの疾患治療のための糖質制限食やスポーツパフォーマンス向上のためのケトン体産生食の応用が広がりを見せつつある。しかしケトン体産生食あるいは糖質制限に伴うケトン体の上昇が腸内細菌叢に及ぼす影響は明らかになっていない。本論文は、この両者の関連についての文献的考察の報告。
PubMedおよびGoogle Scholarを用い、「腸内微生物叢」、「ケトン生成食」、「ケトン生成」、「脂肪」といったキーワードで関連論文を収集。対象は2015~2019年までに発表されたオンラインで入手可能な英語論文のうち、著者がCOI(conflict of interest.利益相反)がないことを宣言しているもの。ヒトを対象とした無作為化比較試験、症例対照研究に加え、動物実験等によるin vivo(生体内)またはin vitro(生体外)での報告も加えた。
最終的に9件の論文が検討対象として抽出された。本論文では検討結果について、まず収集された報告の概要を紹介した後、VLCKD(very low carbohydrate ketogenic diet.超低糖質ケトン体産生食)を行っている状況下での腸内細菌叢への影響を、各栄養素・食品との関連を考察している。以下はその抜粋。
脂肪摂取
一価不飽和脂肪酸が豊富な食事は腸内細菌叢に悪影響を及ぼし細菌の豊かさを低下させたが、多価不飽和脂肪酸が豊富な食事は豊かさと多様性を変えない。脂肪酸はその種類により異なる効果を誘発する。例えば飽和脂肪酸(パーム油など)は多価不飽和脂肪酸(オリーブ油など)とは対照的に、マウスのより高い肝トリグリセリド含量を誘発した。VLCKDを行う時は脂肪の供給源とその品質を細心に考慮する必要がある。
人工甘味料
VLCKD実施状況では人工甘味料が腸内微生物叢と腸粘膜の構造と機能を障害するとの報告がある。人工甘味料には静菌効果があるとの報告もある。一方で最近、人口甘味料として広く用いられているステビアは、インスリンとグルコースレベルを低下させ、カロリー摂取量が少ないにもかかわらず食後に満足感と満腹感が得られたとの報告もある。FDA(米食品医薬品局)は「一般に安全」と見なしている。
プレ/プロバイオティクス
VLCKD実施状況下での発酵食品の有用性に関しては、VLCKD中に適度に摂取することになる食物繊維と必須微量栄養素の影響も関連する。プレバイオティクス/プロバイオティクスのサプリメントだけでなく、発酵食品も腸内細菌叢の多様性と腸の健康指標を改善する傾向が認められる。なお、十分なケトン血症を維持するにあたっては、発酵食品・飲料により血糖値およびインスリン値が大きく変化しないことの確認に留意すべき。
蛋白質
腸内細菌叢に対する蛋白質のさまざまな影響については十分な配慮が求められる。特にスポーツ領域においては、VLCKD実施状況で蛋白質の摂取が除脂肪体重の維持を左右する。蛋白質の種類(動物性か植物性かの違い)によって腸内細菌叢の豊かさに対し異なる影響が現れる。VLCKD実施中は植物性蛋白質を供給源とすることが腸内微生物叢の観点からより有益と考えられる。
以上の考察に続く結論の中で著者らは「ヒトおよび動物対象の研究から、細菌の構造と腸の生物学的機能の再形成に対する肯定的な影響を示すものと、多様性の低下や炎症誘発性細菌の量の増加といった否定的な影響が報告されており、大多数の集団を対象とした見解の一般化は制限される。腸内細菌叢は非常に多様であり、その可塑性は個人の過去の食習慣に依存する可能性もある」と述べた上で、まとめとしてVLCKD実施中に腸の健康を維持するために以下の推奨事項を掲げている。
テイクホームメッセージ:VLCKD(超低糖質ケトン体産生食)実施状況下での推奨
- ホエー蛋白(乳清蛋白)および植物性蛋白質の使用
- 動物性蛋白質の摂取を減らす
- 発酵食品と発酵飲料(ヨーグルト、ミルクケフィア、キムチ、発酵野菜)を考慮する
- 適切なプレバイオティクスとプロバイオティクスを用いる(必要性に応じて)
- ω-6脂肪酸を減らしω-3脂肪酸を増やす
- 不飽和脂肪酸の正確な量と品質を考慮する
- 人工甘味料と加工食品を控える
- 必要に応じて、腸内細菌叢の豊かさと生物学的多様性を検査する
文献情報
原題のタイトルは、「Ketogenic Diet and Microbiota: Friends or Enemies?」。〔Genes (Basel). 2019 Jul 15;10(7)〕