チームスポーツのパフォーマンスをタンパク質サプリメントで向上できるか?
サッカー、バスケットボール、ラグビーなどのチームスポーツは、ランニング、スプリント、ジャンプ、方向転換、停止などさまざまなアクションで構成され、試合後には急性炎症反応とパフォーマンス低下がもたらされ、ホメオスタシス(生体恒常性)回復に時間を要する。しかし、試合や練習のスケジュールが立て込んでいると、ホメオスタシスが回復しない状態で次の試合に参加することになり、それが長期にわたるパフォーマンスの低下につながることが報告されている。
このリスクに対応する栄養的な介入手段として、タンパク質サプリメントへの期待が大きく、米国ではスポーツサプリメントの70%、年間50億ドルの市場が形成されているという。タンパク質サプリには、運動誘発性筋障害の抑制、骨格筋修復やグリコーゲン再合成の促進などの作用があるとされるが、実際にチームスポーツのパフォーマンス回復に効果があるかは明確でない。本論文の著者らは文献の系統的レビューによって、この疑問に関する現時点でのエビデンスを収集した。
PubMedを用いて「運動誘発性筋障害」「タンパク質」「運動誘発性炎症」などのキーワードにより2018年までの発表論文を検索。2人の独立した査読者が論文を選択し、意見の相違がある場合は第三の独立した査読者と検討して結論を得た。スクリーニングされた69件の研究から、最終的に10件の研究が的確と判断され分析対象となった。
被験者の合計は150名で、平均年齢は22.8歳、平均BMIは24.02。10件中5件の研究でVO2maxが記されていて、その平均は55.8 mL/kg/分。また5件の研究には食事摂取量の記載があり、1日の平均は炭水化物340.0±61.8g、タンパク質108.0±13.1g、脂質78±15.4g、総摂取エネルギー量は2,387.7±218.4kclだった。なお、10件中9件では介入にタンパク質と炭水化物の混合サプリが使われていた。よって本検討は純粋なタンパク質サプリではなく、タンパク質ベースのサプリについて検討した結果と解釈できる。
タンパク質ベースサプリの効果は、急性運動または長期間トレーニング後のクレアチンキナーゼの上昇抑制として、対象となった全研究の40%で報告されていた。ミオグロビン上昇の抑制も30%の研究で報告されていた。
その一方で、遅発性筋肉痛の発症やパフォーマンスの変化については報告が一致していなかった。トレーニングや試合後の運動誘発性筋障害や遅発性筋肉痛を調査した研究では、スポーツの種類、タンパク質の摂取量、介入期間、被験者の競技レベルなどに差があり、明らかな傾向はつかめなかった。結果として、タンパク質ベースサプリがパフォーマンスの回復に資するとの明確な根拠は得られなかった。
以上をまとめると、一部の研究で観察されたクレアチンキナーゼの上昇抑制作用は、ミオグロビンの上昇抑制作用の報告と完全には一致せず、参加者のトレーニングレベルやスポーツの特性、摂取タンパク質量など多くの要因が絡み合い、チームスポーツのパフォーマンス回復への影響は最小限にとどまると考えられた。
著者らは、「このトピックは明らかにさらなる探求を必要としており、タンパク質摂取によって誘発される筋タンパク質代謝回転の変化が筋肉機能の回復に影響を与えることができるかどうかについて研究が求められる」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Protein-Based Supplementation to Enhance Recovery in Team Sports: What is the Evidence?」。〔J Sports Sci Med. 2019 Aug 1;18(3):523-536〕