軽量化 vs. 重量化、男性サイクリストに有利なのはどっち?半年間の無作為化試験の結果
軽量化がパフォーマンス向上になるのか、ならないのか?
アスリートにはトレーニング等に必要とされるエネルギー量を食事で十分に補給できない相対的なエネルギー不足のリスクが付きまとう。数あるスポーツの中でもサイクリングは、ある程度までの軽量化がパフォーマンスに利する可能性があるため、意図せず、もしくは意図的に利用可能エネルギー不足に陥りやすい傾向がある。
しかし利用可能エネルギー不足がパフォーマンスを向上するとは限らないばかりでなく、かえって健康に支障をきたし選手寿命を短縮することも危惧される。特に利用可能エネルギーの不足は骨代謝に鋭敏に反映され、結果としてストレス骨折の原因となる。実際にサイクリストで報告される最も高頻度の運動関連障害は骨折だと言われている。
本研究は、このような危惧のあるサイクリスト(男性)に対し、栄養と骨格負荷運動に関する教育的介入を行うことの効果を臨床的に評価することを目的に行われた、英国からの報告。対象は50名の競技サイクリスト(英国ロードレースカテゴリー4段階のうち上位レベル2以上)。骨密度スコアを測定し2名のペアでマッチングしたうえで、無作為に各ペアの1名に対し教育介入を行った。
介入群に対する栄養摂取に関する教育は、十分なエネルギー利用を維持することを目的として臨床スポーツ栄養士が指導した。また骨格負荷運動は理学療法士のアドバイスから現実的なプランが組み立てられた。これらの介入は6カ月間継続され、オンラインによりテキストと実演動画により情報提供された。前期は週ごとに、後期には月ごとに、トレーニングの進捗状況が確認された。
軽量化よりも利用可能エネルギーを増やす方が実践的
登録された50人中、6カ月の試験期間を終了したのは45名だった。主な特徴は、年齢36.2±14.3歳、BMI22.5±1.5、自転車トレーニング時間11.22±4.0/週、60分間FTP(Function Threshold Power。疲労せずなし得る運動強度)327±48watts、レース成績(BCポイント。英国でのレース成績)194±239ポイント。
この45名を解析対象としたが、6カ月間にわたる介入群への栄養・運動教育入は十分に遵守されなかったことが明らかになったことから、統計解析は、利用可能エネルギー量を減少(n=11)、不変(n=22)、増加(n=12)の3群に、また骨格負荷運動量について減少(n=12)、不変(n=16)、増加(n=17)の3群に分け、両者の相関が検討された。
結果をみてみよう。
パフォーマンスの指標としてレース成績(BCポイント。前述)を採用し評価したところ、最も密接に関連した要因として、FTP(前述)とトレーニング量が抽出された。そしてFTPとBCポイントとの間に有意な正の相関が認められた。そして、トライアル参加者全員を散布図に表すと、利用可能エネルギー量が増加した群のほとんどは回帰直線の上にプロットされ、利用可能エネルギー量が減少した群のほとんどは回帰直線の下にプロットされた。これは、利用可能エネルギー量が多いことの方が、パフォーマンス向上に有効なケースが多いことを意味する。
軽量化戦略は骨代謝への悪影響も危惧
45名中9名のサイクリストが、利用可能エネルギー量と骨格負荷運動量の双方を減らしていた。インタビューにより、それらの行動は、両者を減らすことがパフォーマンスの改善につながるとの信念に基づくものであったことが明らかになった。そしてそれらのサイクリストは、疲労、怪我、疾病の罹患を報告していた。
さらに、利用可能エネルギー量と骨格負荷運動量の双方が減少していたこの9名の群では、腰椎骨密度が2.7%、有意に減少していた。このことから減量化戦略がパフォーマンス向上に有効とは言えないだけではなく、健康へマイナスの影響をもたらす危険性が示唆される。
反対に、利用可能エネルギー量と骨格負荷運動量の双方が増加していた11名の群では、幸福感が向上するという副次的効果も認められた。
この研究からは、サイクリストへの栄養的介入や骨格負荷運動による介入は、レースパフォーマンスと骨の健康、そして幸福感を向上させる可能性が示された。ただし、介入群の遵守率が低かったことから、「行動変容を支える心理的アプローチが必要かもしれない」と研究者らは述べている。
文 献
原題のタイトルは、「Clinical evaluation of education relating to nutrition and skeletal loading in competitive male road cyclists at risk of relative energy deficiency in sports (RED-S): 6-month randomised trial」。〔BMJ Open Sport Exerc Med. 2019 Mar 29;5(1):e000523〕