スポーツ栄養WEB 栄養で元気になる!

SNDJ志保子塾2026 ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー
一般社団法人日本スポーツ栄養協会 SNDJ公式情報サイト
ニュース・トピックス

ハムストリング肉離れの再発に筋スティフネスの変化が関与か 国内陸上選手の横断的・縦断的研究の知見

ハムストリング筋損傷(肉離れ)はスプリント競技のアスリートに好発し、治癒後の再発も少なくないが、その再発には受傷に伴う「筋スティフネス(筋肉の伸びにくさ)」の上昇が長期間続いていることが一因ではないかとする論文が、「Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports」に掲載された。早稲田大学スポーツ科学学術院の宮本直和氏らの研究によるもので、超音波剪断波エラストグラフィーにより大腿二頭筋長頭のスティフネスを横断的および縦断的に解析した結果、明らかになった。

ハムストリング肉離れの再発に筋スティフネスの変化が関与か 国内陸上選手の横断的・縦断的研究の知見

ハムストリング肉離れはなぜ再発するのか? 受動的な筋スティフネスの検討

ハムストリングの肉離れ(hamstring strain injury;HSI)は、陸上競技、サッカー、ラグビーなどのスプリントが要求されるスポーツで好発し、とくに大腿二頭筋長頭(biceps femoris long head;BFlh)での発生が大半を占める。HSIは再発しやすく、再発の最も強固なリスク因子がHSIの既往であるとされている。初回のHSI時に筋肉の構造や力学的特性に永続的な変化が生じ、それが再発リスクにつながると捉えられている。例えば、組織学的な研究から、筋損傷後にはコラーゲンリモデリングや細胞外マトリックスの構造的な変化が起こることが報告されている。

一方、HSIの潜在的に修正可能なリスク因子として、「受動的な筋スティフネス」が注目されている。受傷後の瘢痕形成などの組織リモデリングが筋肉の受動的な筋スティフネスを増加させ、その変化が再発リスクを高める可能性が示唆されている。よって、受傷後の受動的な筋スティフネスの経過を詳細に把握することが、HSIの既往歴を「修正不可能なリスク因子」から「修正可能なリスク因子」へと変える治療・リハビリテーション戦略の開発につながる可能性が想定される。

とはいえ、筋肉のスティフネスを正確に評価することには技術的なハードルがあり、従来用いられてきた関節可動域や関節硬直テストなどは、筋肉に特異的な評価ではなく、腱や靭帯、筋膜なども含めた組織複合的な挙動を評価したものであり、検査時の疼痛も正確な測定を妨げていた。さらにHSIはBFlhに好発するにもかかわらず、これらの評価ではハムストリングを構成する個々の筋肉の状態を個別に把握することはできていなかった。

それに対して近年、超音波剪断波エラストグラフィー(ultrasound shear wave elastography;USWE)が、生体内の組織の硬さを定量的に評価する手法として、肝硬度の測定などに臨床応用されるようになった。宮本氏らはこのUSWEを用いてBFlhのスティフネスを受動的に評価。HSI後の筋スティフネスの横断的解析、およびHSI発生前から発生後の縦断的解析を行った。

この研究の参加者は全員が男性の陸上競技(短距離または跳躍)選手であり、競技レベルは地域・地方大会出場レベルまたは全国大会出場レベルだった。横断研究、縦断研究の順に紹介する。

横断研究:過去にハムストリング肉離れが発生した脚は、反対の脚より筋肉が硬い

横断研究の参加者は、大腿二頭筋長頭(BFlh)の肉離れの既往のある13人(20.4±1.6歳)。全員が過去12カ月以内にBFlhの肉離れを経験し、研究参加時点では無症状(競技中にも疼痛や違和感なし)だった。

過去に肉離れが生じた脚、および対照脚(肉離れの既往のない脚)のBFlhのスティフネスを超音波剪断波エラストグラフィー(USWE)で受動的に測定した結果、過去の肉離れが生じた脚の筋スティフネスのほうが有意に高いという結果が得られた(p=0.001、効果量〈Cohenのd〉=1.189)。

ただしこれは横断研究であるため因果関係は考察できず、筋スティフネスの差が肉離れにより生じたとは判断できない。そこで以下の縦断研究による検討を行った。

縦断研究:ハムストリングの肉離れが発生すると、筋肉が硬く変化する

縦断研究は、プレシーズンにUSWEによりBFlhの受動的なスティフネスが評価されており、シーズン中にBFlhの肉離れを経験した7人(19.9±1.2歳)を解析対象とした。既にBFlh肉離れの再発経験のある選手は除外されている。対象選手は受傷後、重症度にあわせて構造化されたリハビリテーションプログラムを受けていた。

USWEによる筋スティフネスの測定は、ベースライン(プレシーズン〈受傷以前〉)、急性期(測定に支障ない程度に疼痛が軽減した時点〈受傷1~3週間後〉)、リハビリテーション中(受傷の27.6±7.3日後)、競技復帰後(受傷の60.1±23.4日後以降)という4時点で、受傷脚および対照脚に対して行われた。

受傷脚はリハビリ期以降に、受傷前より筋スティフネスが高値になる

受傷していない対照脚では、急性期のBFlhのスティフネスが、ベースライン時やリハビリテーション中、および競技復帰後よりも有意に高いことが示された(急性期 vs ベースライン:p<0.001、d=5.165/急性期 vs リハビリ期:p=0.007、d=2.170/急性期 vs復帰後:p=0.001、d=3.214)。リハビリ期および競技復帰後の筋スティフネスは、ベースライン時と有意差がなかった。

一方、受傷脚では、リハビリ期のBFlhのスティフネスがベースライン時よりも有意に高かった(p=0.049、d=1.465)。また、競技復帰後の筋スティフネスはベースライン時と有意差がないものの高い傾向にあり、小さくない効果量が認められた(p=0.094、d=1.261)。

急性期までは筋スティフネスに左右差はなく、リハビリ期に有意傾向、復帰後には有意となる

次に左右の脚を比較したところ、ベースライン時および急性期には、受動的なBFlhのスティフネスに有意な左右差は認められなかった。しかし、リハビリ期には有意水準未満ながら、受傷脚のBFlhスティフネスが高い傾向にあった(p=0.057、d=0.890)。さらに競技復帰後には、受傷脚のスティフネスが有意に高くなっていた(p=0.017、d=1.231)。

著者らは本研究には、サンプルサイズが十分でないこと、対象者が男子陸上競技選手のみであり女子選手や他の競技の選手が含まれていないこと、対象者のBFlh肉離れの重症度にばらつきがあることなど、解釈の限界点があるとしている。

そのうえで、「肉離れによって、大腿二頭筋長頭の受動的な硬さが慢性的に高い状態が生じるという、横断的および縦断的なエビデンスが得られた。これらの知見は、肉離れによる生体力学的変化が競技復帰後にも持続し、筋機能に影響を及ぼす可能性を示唆している」と結論づけている。

文献情報

原題は、「Changes in Passive Muscle Stiffness Following Biceps Femoris Strain Injury in Track-and-Field Athletes: Cross-Sectional and Longitudinal Analyses」。〔Scand J Med Sci Sports. 2026 Mar;36(3):e70254〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

この記事のURLとタイトルをコピーする
志保子塾2026後期「ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー」

関連記事

スポーツ栄養Web編集部
facebook
Twitter
LINE
ニュース・トピックス
SNDJクラブ会員登録
SNDJクラブ会員登録

スポーツ栄養の情報を得たい方、関心のある方はどなたでも無料でご登録いただけます。下記よりご登録ください!

SNDJメンバー登録
SNDJメンバー登録

公認スポーツ栄養士・管理栄養士・栄養士向けのスキルアップセミナーや交流会の開催、専門情報の共有、お仕事相談などを行います。下記よりご登録ください!

元気”いなり”プロジェクト
元気”いなり”プロジェクト
おすすめ記事
スポーツ栄養・栄養サポート関連書籍のデータベース
セミナー・イベント情報
このページのトップへ