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レスリング選手に適したサプリメント戦略 システマティックレビューが示すエビデンス

レスリング選手のためのサプリメント摂取戦略を、システマティックレビューによりエビデンスに基づき総括した論文が報告された。体重や体組成、パフォーマンス、回復などに影響を与え得るサプリが示されている。ただ、各研究の効果量は小さいものが多く、結果の一貫性も十分でない傾向があるという。

レスリング選手に適したサプリメント戦略 システマティックレビューが示すエビデンス

レスリング選手を対象とした研究のみを抽出して定性的に分析

レスリングは起源が古代ギリシャやエジプトに遡り、最古のスポーツの一つであって、現在も世界中に競技者が広がっている人気の格闘技。他の多くの格闘技と同様に体重別階級が設けられていることから、試合のたびに減量を繰り返しつつ、筋力や持久力の維持が求められる。そのため、サプリメントを利用しているレスリング選手は少なくない。

これまでに、格闘技アスリート全般のサプリ摂取戦略の実態や有効性を調査した研究は報告されているが、著者らは「レスラーにおけるサプリ戦略の有効性の体系的な評価はいまだなされていない」とし、本システマティックレビューを実施した。

文献検索について

文献検索は、システマティックレビューとメタ解析のガイドライン(PRISMA)に準拠し、PubMed、Web of Science、Cochrane Library、Scopusなど5件の文献データベースを利用して実施。レスリング選手の体組成や酸化ストレス・炎症マーカー、内分泌反応、運動パフォーマンス、筋損傷、回復等に対するサプリ摂取の効果を、ヒトを対象に対照群を置いて検討した研究の報告を、2024年1月21日に検索し、2025年1月6日に追加の有無を確認した。

観察研究、基礎研究、未成年対象研究、レクリング選手以外のアスリートも含めた研究、英語以外の論文、学会発表の抄録、全文を入手できないものなどは除外した。一次検索で267報がヒットし重複削除後の183報から除外基準に基づき120報を除外。63報を対象に、タイトルと要約に基づくスクリーニングを2名の研究者が独立して実施。25報を全文精査し1報は研究の質が不十分と判断して、最終的に24件の研究報告を解析対象とした。

抽出された研究の特徴

24件の研究のうち、非無作為化二重盲検プラセボ対照試験試験は1件で、他の23件は無作為化されており、13件はプラセボ対照並行群間比較試験(5件は二重盲検、8件は単盲検)、10件はプラセボ対照クロスオーバー試験だった。

研究参加者は健康な若年成人(18~29歳)であり、サンプルサイズは5~40人だった。16件は男性のみ、1件は女性のみ、1件は男女双方が参加。6件は性別に言及していなかった。参加者数の合計は415人で、男性274人、女性28人であり、113名は性別の情報がなかった。

サプリの摂取期間は、試験の30分前の単回摂取による急性効果をみたものから、14週間連続摂取し慢性効果を検討したものまであった。摂取回数は1日1~4回だった。

体組成への影響を検討した研究が9件であり、17件の研究では運動パフォーマンスや筋肉のダメージへの影響を評価、11件では内分泌や代謝マーカーへの影響が検討されていた。

体組成やパフォーマンス、回復に影響を与え得るサプリメント

本研究ではメタ解析は行われず、ナラティブシンセシス(システマティックレビュー後の定量的解析が困難な場合の定性的検討)が実施された。抽出された研究報告に基づき、エビデンスのあるレスリング選手のサプリ摂取に関する情報として、論文の結論は以下の13項目にまとめられている。

エビデンスのある13項目のサプリ情報

  1. クエン酸ナトリウムは急速な減量後の体重の回復にプラスの影響を与える。
  2. ピコリン酸クロムは、体組成、筋肉のダメージ、運動パフォーマンス、内分泌代謝マーカー等に、有意な影響を及ぼさない。
  3. クレアチン一水和物は総じて運動パフォーマンスを改善するが、体重増加に関してはさまざまな反応を示す。
  4. アルギニンは一酸化窒素と肝細胞増殖因子のレベルを有意に上昇させる。運動パフォーマンスに関してはさまざまな反応を示す。
  5. 分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acid;BCAA)は、血糖値とインスリン値に関してはさまざまな反応を示すが、体重と脂肪量の減少に有意な影響を及ぼす。運動パフォーマンスには総じて有意な影響はみられない。
  6. ビート根ジュースは総じて運動パフォーマンスを向上させる。
  7. β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(β-Hydroxy-β-methylbutyrate;HMB-FA)に関しては、研究報告のバイアスリスクが高いため、さらなる研究が必要。
  8. スピルリナは、体重、体脂肪率などを低下させる。
  9. に関しては結果の一貫性がない。1件の研究ではVO2maxが上昇したと報告されているのに対し、他の1件では低下したとされている。興味深いことに、重炭酸ナトリウムの補給と同様に、鉄分の補給は性別に依存する可能性が示唆される。
  10. タイム茶は総抗酸化能の有意な上昇と、マロンジアルデヒドの低下を示す。
  11. 緑茶とウーロン茶のエキスは体重減少につながる。
  12. ホエイプロテインは一般的に、運動パフォーマンスに有意な影響を与えない。
  13. カフェインは運動パフォーマンスを向上させる。

ポイント

体組成への影響

クエン酸ナトリウム、クレアチン一水和物、スピルリナなどのサプリは、レスリング選手の体重回復、脂肪減少、筋肉組成の改善に有効。しかし、ピコリン酸クロムなどについては、効果の一貫性が十分でない。

パフォーマンスと筋肉の回復への影響

クレアチン一水和物やHMB-FAなどのサプリメントは、模擬試合などの激しい運動後の運動パフォーマンスを向上させ、筋損傷のバイオマーカーを低下させることが示されている。ビート根ジュースは、バランス感覚と筋力を向上させ、BCAAは筋損傷とパフォーマンスにさまざまな反応をもたらす。

代謝内分泌への影響

クエン酸ナトリウム、スピルリナ、鉄は、pHや乳酸値などの重要な代謝マーカーに影響を与え、激しい運動後の回復を促進し、疲労を軽減する可能性がある。興味深いことに、これらの反応の一部には性差が見られ、とくに鉄に関しては男性でより大きな効果がみられる。

これらの結果は、特定のサプリメントがレスリング選手の体組成の最適化、パフォーマンスの向上、回復のサポートに役立つ可能性があることを示唆しているが、その効果はサプリメントの種類や個人の反応によって異なる。

文献情報

原題のタイトルは、「Evidence-Based Supplementation Strategies for Wrestlers: A Systematic Review」。〔Curr Nutr Rep. 2025 Jun 25;14(1):86〕
原文はこちら(Springer Nature)

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