アスリートの「攻撃性」を科学的に分析 性別、競技、経験、レベルによる違いが明らかに
格闘技ではない競技も含めて、スポーツに参加しているアスリートを対象に、「攻撃性」の強さを評価して、性別、コンタクトスポーツか否か、競技レベル、経験年数などとの関連を横断的に検討した研究結果がイタリアから報告された。フルコンタクトスポーツ経験者は身体的攻撃性が強いこと、競技レベルで活動していた元アスリートはアマチュアレベルだった元アスリートよりも怒りの強さが低いことなどが示されている。
スポーツにおける攻撃性をさまざまな角度で比較
スポーツは、どんな競技でも攻撃性を有していて、選手自身に内在していることはもちろん、コーチやスタッフ、保護者、観客にも、観戦などを通して伝播し得る。特に格闘技は身体的な攻撃性の表現の競い合いという側面をもっている。
これまでにも、スポーツアスリートの攻撃性に関する研究は多く行われてきており、競技の種類(伝統的競技か新興競技か)、コーチの指導スタイル、社会的因子(養育時の家庭環境)などとの関連が示唆されてきている。ただし、これまでの研究の大半は武道家、格闘技選手を対象とするものであり、格闘技以外のアスリートを対象とする研究は少なく、また行っている競技間での比較も十分行われていない。
以上を背景として今回取り上げる論文の著者らは、多くのアスリートを対象とする横断研究により、スポーツと攻撃性との関連を比較検討した。
フィレンツェのスポーツ団体に登録されているアスリートにBPAQで調査
この研究は、イタリアのフィレンツェのスポーツ関連団体にアスリートとして登録されている、18~65歳の成人を対象に行われた。1992年にBussとPerryによって開発され、攻撃性の評価尺度として広く利用されている「Buss Perry Aggression Questionnaire(BPAQ)」を用いて攻撃性が評価された。
BPAQは29項目からなり、総合評価のほかに、身体的攻撃性、敵意、言語的攻撃性、怒りという四つの下位尺度も評価できる。この評価結果との関連性が、年齢、性別、現在行っている競技の種類、過去に行っていた競技の種類、参加レベル(競技レベル/アマチュアレベル)、トレーニング歴(4年未満/以上)との間で比較された。なお、競技の種類は、「非コンタクトスポーツ(体操や水泳など)」、「部分的なコンタクトスポーツ(ラグビーやサッカーなど)」、「フルコンタクトスポーツ(格闘技や武道)」の三つに分類した。
解析対象者の特徴
解析対象者は390人で、年齢30.19±9.70歳、男性54.4%。現在行っているスポーツに関しては75.6%、過去に行っていたスポーツに関しては95.6%が回答した。
BPAQの総合スコア(範囲29~145点)は67.12±15.97点、身体的攻撃性(同9~45点)は17.80±6.32点、敵意(8~40点)は19.78±6.29点、言語的攻撃性(5~25点)は14.13±3.43点、怒り(7~35点)は15.41±5.37点だった。
現在行っているスポーツと過去に行っていたスポーツの種類や、参加レベル、トレーニング歴は以下の通り。
現在行っているスポーツ
- 団体競技36.6%/個人競技63.4%
- 非コンタクトスポーツ40.7%/部分的コンタクトスポーツ35.3%/フルコンタクトスポーツ24.1%、競技レベル50.5%/アマチュアレベル49.5%
- トレーニング歴:4年未満31.5%/4年以上68.5%
過去に行っていたスポーツ
- 団体競技35.9%/個人競技64.1%
- 非コンタクトスポーツ57.2%/部分的コンタクトスポーツ28.3%/フルコンタクトスポーツ14.4%
- 競技レベル57.2%/アマチュアレベル42.8%
- トレーニング歴:4年未満34.5%/4年以上65.5%
年齢の高さや過去の競技レベルの高さなどは、攻撃性の低さと関連
上記の関連について、単変量解析と多変量解析が実施された。BPAQの総合スコアと有意な関連のある因子は、単変量解析においても特定されなかったが、BPAQの下位尺度については、単変量解析で複数の因子が有意な関連を示し、多変量解析でも性別や年齢、現在行っている競技の種類、過去の競技レベルが独立した有意な関連を示した。
単変量解析
単変量解析において、性別、現在行っている競技の種類、過去に行っていた競技の種類が、身体的攻撃性と関連していた。
具体的には、性別に関しては、女性の15.69±6.65点に対して男性は19.58±6.32点、現在行っている競技の種類は、非コンタクトスポーツ(17.19±6.64点)と部分的コンタクトスポーツ(17.89±5.86点)が17点台であるのに対してフルコンタクトスポーツは20点台(20.23±6.68点)であり、過去に行っていた競技の種類については同順に16.53±6.41点、19.63±6.54点、20.06±6.41点だった。
このほかにも、怒りについて、過去に行っていた競技の参加レベルとの関連などが認められた。具体的には、競技レベル(14.95±5.22点)だった元アスリートより、アマチュアレベル(16.05±5.54)だった元アスリートのほうが怒りのスコアが高値だった。
多変量解析
多変量解析の結果、年齢が高いほど、敵意(β=-0.16、p<0.001)、言語的攻撃性(β=-0.08、p=0.002)、怒り(β=-0.09、p=0.011)が低いという、独立した関連が認められた。また、女性は男性より身体的攻撃性が低かった(β=-3.4、p<0.001)。過去に行っていた競技の参加レベルが競技レベルであることも、怒りのスコアか低いことと独立して関連していた(β=-1.7、p=0.009)。
反対に、スコアの高さと独立した関連のある因子として、現在行っている競技がコンタクトスポーツであることが抽出され、身体的攻撃性の高さと関連していた(β=2.1、p=0.034)。
著者らは、本研究が横断研究のため因果関係の推論を行えないことなどを限界点として挙げたうえで、このような知見は「アスリートの教育的役割を担うコーチだけでなく、アスリート自身、および保護者や観客にとっても貴重なものとなり得る」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Aggression and sport: A cross-sectional study on behavioral tendencies of athletes」。〔J Bodyw Mov Ther. 2025 Jun:42:982-988〕
原文はこちら(Elsevier)