試合前のタンパク質摂取量を増やすと疲労を抑え回復が促進される 女子ジュニアバスケ選手での検討
1日のタンパク質摂取量は変えず、試合前の摂取量を増やし、その他の食事では減らすようにアレンジすると、試合後の筋疲労が抑制され回復が促進されることを示唆する研究結果を紹介する。エジプトで行われた、ジュニア期の女子バスケットボール選手対象の研究の報告。
試合前のタンパク質摂取による筋肉疲労抑制や回復促進作用を探る研究
多くのアスリートが筋肉量の増大や筋力アップを意図してタンパク質を多く摂取している。ただしタンパク質には筋肉疲労を抑えたり回復を促進したりする作用も知られている。しかしそのような視点でタンパク質食品を積極的に摂取しようとするアスリートは、前者の理由で摂取するアスリートに比べて少ないようであり、また研究も比較的少ない。こうした中、今回紹介する論文の研究では、タンパク質の総摂取量は変えずに試合前のタンパク質摂取量を増やすことで、試合後の筋疲労や回復に差が出るかが検討された。
研究の対象と方法
この研究は、エジプトのバスケットボールアカデミーに所属する20人の女子ジュニア選手(16.65±0.47歳、165.42±3.09cm、59.68±3.63kg、トレーニング歴2.44±0.56年)を対象に行われた。試合前の食事を高タンパク食(higher protein intake before the pre-event;HPP)とする群、および、タンパク質摂取量を均等(normal protein intake before the pre-event;NPP)とする群、各群10人に割り付け6週間介入。筋疲労や回復の変化を比較した。ベースライン時点において両群間に、年齢、トレーニング歴、およびすべての生理学的パラメータに有意差はなかった。
タンパク質の総摂取量は両群ともに1.2g/kg/日としたうえで、HPP群は朝食と夕食は0.24g/kgとし、試合の2時間前にあたる昼食のみ0.72g/kg(1日の摂取量の60%)とした。一方、NPP群は3食すべて0.4g/kg(同33%)とした。また、3食の食事の時間帯は固定した。このプロトコルは週3回のペースで6週間継続し、計18回実施された(参加者が実際に行った回数は最低値が15回)。
評価項目は、ランニングベースの無酸素性スプリントテスト(running-based anaerobic sprint test;RAST)による疲労指数(fatigue index;FI)とピークパワー(PP)、無酸素性パワーステップテスト(anaerobic power step test)による無酸素性能力、およびバスケットボールの試合前、試合直後、試合終了3分後の心拍数の変化(changes in heart rate;HRC)に基づく回復の程度だった。これらのうちRASTは、10秒間のリカバリータイムを挟んで35mのスプリントを6回行い、パワーの最大値と最小値の差をスプリントの合計所要時間で除して「疲労指数(FI)」を算出した。また、無酸素性パワーステップテストでは、60秒間で踏み台を昇降できる回数から無酸素性能力を計算した。
両群ともに有意に改善するが、介入後はHPP群が有意に優れた値
6週間の介入で、両群ともに各評価指標の有意な改善が認められた。かつ、介入後の値はすべて、試合前の食事を高タンパク食としたHPP群のほうが、3食均等にタンパク質を摂取したNPP群よりも、有意に優れていた。詳細は以下のとおり。
まず、HPP群では介入前、介入後の順に、疲労指数(FI)は9.87、7.39W/秒と有意に低下、ピークパワーは654.34、735.24Wと有意に上昇、無酸素性能力は3,348.09、3,790.73kg·m/秒と有意に上昇していた。また心拍数についても、評価した3時点のすべてで有意に低値となっていた。
続いてNPP群では、FIは9.73、8.31W/秒と有意に低下、ピークパワーは649.32、670.04Wと有意に上昇、無酸素性能力は3,276.91、3,485.69kg·m/秒と有意に上昇していた。また心拍数についても、評価した3時点のすべてで有意に低値となっていた。
そして介入後の値の両群の比較では、FI、ピークパワー、無酸素性能力はすべてHPP群のほうが有意に優れており、心拍数については、試合直後と試合終了3分後との差を比較すると、HPP群は-40.40±5.73bpm、NPP群は-22.20±5.55bpmであり、前者のほうが有意に大きく低下していた。
これらの変化を全体的に比較すると、HPP群では介入前後で各パラメータが7~27%向上していた一方、NPP群では3~15%の向上にとどまっていた。なお、NPP群で認められた改善は、6週間のトレーニング自体の効果と考えられた。
今後の研究ではタンパク質の種類や質の違いの影響の評価が必要
以上の結果に基づき著者らは、「試合前のタンパク質摂取量が多いと、身体活動に伴う筋疲労が有意に低下し、また速やかに回復することが示された。このことは、試合前のタンパク質摂取量を増やすと、女性アスリートの筋肉パフォーマンスが向上し、疲労が軽減され、筋疲労に対する保護効果が発揮され、ひいては総合的なスポーツパフォーマンスの向上につながる可能性を示唆している」と述べている。
一方、本研究の限界点として、ジュニア期の女性のみを対象としていてサンプルサイズが小さく介入期間が短いことと、摂取されたタンパク質の種類の違いを評価していないことを挙げ、とくに後者については今後検討すべき重要なテーマだとしている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effect of increased protein intake before pre-event on muscle fatigue development and recovery in female athletes」。〔J Educ Health Promot. 2025 Jan 31:14:6〕
原文はこちら(Wolters Kluwer - Medknow)