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持久系競技を行う子どもに対するプライマリケアの留意事項 成長と発達のための十分な栄養摂取が必要

今回は、持久系競技に参加している子どもに医療従事者が接する際の留意事項をまとめた、米国の小児整形外科医らによるレビュー論文を取り上げる。内容は、心血管リスク、メンタルヘルス、睡眠、栄養、内分泌、オーバーユースと広い範囲にわたっており、栄養の項を中心としながら全体の要旨を紹介する。

持久系競技を行う子どもに対するプライマリケアの留意事項 成長と発達のための十分な栄養摂取が必要

イントロダクション

全米州立高校協会(National Federation of State High Schools Associations;NFHS)の2021~22年の調査によると、陸上競技は女子で最も人気の高いスポーツであり、男子では2番目の人気となっている。より詳細にみると、クロスカントリーは女子で5番目、男子で4番目に人気があり、水泳は女子で9位、男子で10位であって、米国では年間170万人を超える高校生が持久力スポーツを行っている。

若年の持久系競技アスリートのケアには、彼らに特有の要求に関する知識が必要とされ、また成長と発達の変化に関する知識が不可欠である。それにもかかわらず、現状では小児持久力スポーツ選手に特化した文献は限られている。

心血管に関する考慮事項

心臓突然死(sudden cardiac death;SCD)は、競技アスリートにおけるスポーツ関連死の主要な原因である。若年持久力アスリートではSCDはまれであるが、SCDを来し得る基礎疾患の発見とその管理がその子どもの命を救う可能性がある。

若年アスリートに見られることの多い異常は、肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy;HCM)、冠動脈異常、不整脈などであり、小児持久力アスリートに接する医療従事者は、HCMのスクリーニング法を理解しておくことが欠かせない。また、運動誘発性の胸痛または失神を呈する小児アスリートでは、冠動脈病変の可能性を除外する必要がある。さらに、緊急行動計画や自動体外除細動器(AED)の設置場所の認識も不可欠と言える。

メンタルヘルスに関する考慮事項

小児持久力アスリートは、スポーツと学校のバランス、過酷なトレーニング、パフォーマンス向上の要求などのために、肉体的・精神的な疲労に直面していることがあり、その影響が不安や抑うつの症状として現れることがある。これらのメンタルヘルス上の懸念は、思春期に増幅される可能性があるため、さらなる進行を防ぐために早期に介入を開始することが重要となる。

また、オーバートレーニング症候群(overtraining syndrome;OTS)によって、性格/気分の変化、疲労、学業成績の低下、熱意の欠如が生じることがある。ただしOTS自体は除外診断によって診断される病態であり、喘息、貧血、甲状腺機能低下症、免疫不全、うつ病などとの鑑別が求められる。

睡眠に関する考慮事項

持久系スポーツのトレーニングには一般的にかなりの時間をかける必要があり、そのために睡眠に関する推奨事項を満たせなくなることがある。非成人の場合、学業やアルバイトを含む社会的な義務とのバランスをとる必要も生じる。

米国小児科学会は、6~12歳の子どもには1日に9~12時間、13~18歳では8~10時間の睡眠をとることを推奨しているが、複数の研究から若年アスリートの多くがこの推奨を満たしていないことが報告されている。アスリートにとって睡眠は、怪我の予防、回復、パフォーマンスに不可欠であるとの認識を高めなければならない。

栄養に関する考慮事項

未成年持久力アスリートのケアでは、栄養は考慮すべき重要な部分を占めている。成長と発達に必要な十分なエネルギーを供給し、適切な炭水化物、タンパク質、脂肪の摂取を維持することに焦点を当てるべきであり、必須ビタミンとミネラルの摂取にも留意が欠かせない。しかし残念ながら、多くの若年アスリートはそれらのニーズを満たしておらず、それが怪我やパフォーマンスの低下のリスクにつながっていることが報告されている。小児アスリートのエネルギー必要量を正確に知ることは困難だが、利用可能エネルギー量(energy availability;EA)が低い疑いのある小児アスリートに接した場合、栄養士を紹介し個別のケアにつなげなければならない。

アスリートの主要なエネルギー源は炭水化物であり、4~18歳のアスリートの場合、総摂取エネルギー量の45~65%を炭水化物とし、タンパク質は25~30%、脂質は10~30%とすることが提案されている。なお、成人では大会の数日前に炭水化物を多く摂取する「カーボローディング」によって持久系競技のパフォーマンスが向上するが、成長期にあるアスリートではこの方法の重要性は高くないと考えられている。

エネルギー産生栄養素以外に注目すべき栄養素として、鉄とビタミンDが挙げられる。鉄は組織への酸素供給に不可欠であり、持久力アスリートは尿や便、汗からの喪失と、下肢への衝撃の反復による溶血、女子では月経血による喪失といった経路で失われやすい。またビタミンDは、カルシウムとリンの吸収と代謝を調節し、骨の健康に重要な役割を果たす。紫外線暴露により皮膚で産生されるため、屋内でトレーニングする機会が多い場合には、食事により注意すべき。

また、運動後の水分補給も回復には不可欠であり、電解質ドリンクは持久力競技中の発汗によって失われたナトリウムの補給にも役立つ。

内分泌に関する考慮事項

持久力スポーツなどの激しい身体活動中に摂取エネルギー量と消費エネルギー量のバランスが崩れることで、全身の諸機能に影響が生じる病態を「スポーツにおける相対的エネルギー不足(relative energy deficiency in sport;RED-S)といい、成長/発達、免疫、心血管、タンパク質合成、メンタルヘルス、内分泌などの問題を引き起こす。女子の場合、エネルギー不足によるエストロゲン分泌低下、無月経、骨密度低下、疲労骨折のリスクが増大する。また男子においても、性ホルモン分泌の低下と骨密度の低下が見られる。

一方、コーチ、医師、アスレティックトレーナーのRED-Sに対する認識は必ずしも高くないという実態が報告されている。若年持久力アスリートのRED-Sという問題には、栄養士、心理学の専門家などを含む学際的なチームアプローチが必要とされる。

文献情報

原題のタイトルは、「Primary Care Considerations for the Pediatric Endurance Athlete」。〔Curr Rev Musculoskelet Med. 2024 Mar;17(3):76-82〕
原文はこちら(Springer Nature)

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