女性アスリートの鉄欠乏と鉄補給が、パフォーマンスに及ぼす影響 システマティックレビュー
女性アスリートにおける鉄欠乏、およびそれを鉄補給で補正した場合のパフォーマンスへの影響を検討した研究を対象とする、システマティックレビュー論文が報告された。最大有酸素能力は鉄欠乏症の重症度と一致して低下すること、1日16~60mgの鉄を42~56日間摂取すると、諸々の指標が改善する可能性のあることなどが示されている。また著者らは、スポーツ栄養士等への相談を推奨するとともに、鉄補給の方法がアンチドーピングのガイドラインに準拠したものであるか否かを確認すべきとしている。
最大60%の女性アスリートが鉄欠乏を経験する可能性
女性アスリートにおける鉄欠乏の頻度は、報告により9~60%という広い範囲に分布しているが、いずれにしても高い頻度であることがわかっている。その原因は月経と適切でない食事であり、月経では最大10mgの鉄を失うこともある。鉄欠乏は酸素運搬脳の低下につながることから、スポーツパフォーマンスに悪影響が及ぶと容易に予想できる。しかし、本論文の著者らは、「鉄欠乏症が女性のスポーツパフォーマンスに与える影響は不明であり、鉄補給のメリットの程度も同様」と述べ、それを研究の背景としている。
本研究では、ハイレベルの競技を行っている女性アスリートのパフォーマンスに対する鉄欠乏症と鉄補充の影響を明らかにする目的で、このトピックに関する既報論文を対象とするシステマティックレビューが行われた。
ハイパフォーマンス女性アスリート対象研究に絞り込んだレビュー
文献検索は、Medline、SPORTDiscus、Web of Science、Scopus、CINAHLという五つの文献データベースを用いて、システマティックレビューとメタ解析のためのガイドライン(PRISMA)に則して、2023年7月に実施された。包括基準は、研究参加者がハイレベル(VO2maxが45mL/kg/分超、またはトレーニング時間が週5時間以上または月20時間以上)の女性アスリートであり、鉄欠乏症または鉄補充の影響を運動またはスポーツパフォーマンスによって評価している研究で、英語で報告されているもの。除外基準は、英語以外の論文、論説、レビュー、レター、エディトリアル、学会報告など。なお、研究参加者の血清フェリチン濃度が40μg/L未満の場合を鉄欠乏症と分類した。
一次検索で1,221件がヒットし重複削除後の664件を、2名の研究者が独立してタイトルと抄録に基づきスクリーニングを実施。採否の意見の不一致は討論および、必要に応じて3人目の研究者を含めた討論により解決した。282件が全文精査の対象となり、最終的に22件が適格と判断され、その参考文献から1件を追加し、23件の論文を解析対象とした。
抽出された研究の特徴
23件の研究参加者は669人で年齢は22±6歳、VO2maxは49.4±6.1mL/kg/分であり、1週間のトレーニング時間は6.4±2.8時間であって、競技レベルについては参加者全体の49%がTier 3だった。行っている競技は16種類にわたり、うち62%は有酸素運動が主体の競技だった。
7件の研究は鉄欠乏の影響を評価し、16件は鉄補充の影響を評価していた。前者の7件の研究の参加者数は合計267人(21±5歳、VO2max48.1±4.8mL/kg/分、1週間のトレーニング時間6.2±2.7時間)で、95%が有酸素運動主体の競技に参加していた。
一方、後者の16件の研究の参加者数は合計402人(23±7歳、VO2max49.7±6.3mL/kg/分、1週間のトレーニング時間7.0±3.1時間)で、50%が有酸素運動を主体とした競技に参加していた。鉄の総投与量は336~8,400mgの範囲で、1日(または隔日)の投与量は4~100mgの範囲だった。介入による何らかの症状発現率は約40%と高かったが、経過とともに減少し、対照群との間に差はみられず、研究期間中の消化器症状のために脱落したアスリートは1人のみだった。
スポーツ栄養士などへの相談とドーピングリスクのチェックを
レビューの結果、明らかになった主な事柄は以下のとおり。
女性アスリートの鉄欠乏症は、持久力に対して3~4%の悪影響を及ぼしていると考えられた。一方、鉄欠乏症の女性アスリートが1日100mgの鉄を最大56日間経口補給するか、または8~10日間にわたって1日2回非経口投与を受けると、持久力は2~20%向上すると予測された。
血清フェリチン値が低く体内鉄貯蔵が少ない鉄欠乏症の女性アスリートは、最大有酸素能力が低下しやすいものの、1日16~100mgの鉄を36~126日間摂取すると、最大有酸素能力は6~15%向上すると予想された。また鉄欠乏症の女性アスリートは、等速性筋力と無酸素性パワーパフォーマンスが低下する可能性が認められた(-23~+4%の範囲)。それに対して、1日100mgの鉄を42~56日間、または100mgの鉄を確実で8~10日間摂取(論文には記されていないが恐らく非経口投与)した場合、無酸素性パワーは大きく変化した(-5~+9%の範囲)。
なお、多くの研究(18件)は、グループサイズが20人以下であったため、有意差を検出する能力が限られていた。
これらの結果を基に著者らは、本レビューの要点を以下の4点に総括している。
- 重度の鉄欠乏症の女性アスリートは、持久力パフォーマンスに悪影響が現れる可能性がある。この悪影響は、毎日または隔日で鉄を100mg摂取することで対処できる。
- 最大有酸素能力の低下は、鉄欠乏症の重症度と一致するようである。
- 1日16~60mgの鉄を42~56日間摂取すると、エネルギー効率、速度、血中乳酸値などの点で、改善がみられる可能性がある。
- 鉄欠乏に該当する女性アスリートは、トレーニングや競技への影響を最小限に抑えるために、スポーツ医学の専門家やスポーツ栄養士に相談することが推奨される。また、鉄剤補給のプロトコルがアンチドーピングガイドラインに適合していることを確認する必要がある。
文献情報
原題のタイトルは、「Iron deficiency, supplementation, and sports performance in female athletes: A systematic review」。〔J Sport Health Sci. 2024 Nov 12:101009〕
原文はこちら(Elsevier)