蜂蜜で甘くした飲み物が女性ボディービルダーの運動後の筋肉痛とパフォーマンスの回復を促進
蜂蜜で甘くした飲料が、運動誘発性筋損傷による筋肉痛を軽減し、パフォーマンスの回復を促すことを示唆するデータが報告された。ヨルダンとイランの研究者による、女性ボディービルダー対象二重盲検試験によるもの。
蜂蜜 vs プラセボ(ステビア)の二重盲検クロスオーバー試験
運動誘発性筋損傷(exercise-induced muscle damage;EIMD)は一時的なパフォーマンスの低下につながり、EIMDからの迅速な回復がアスリートのトレーニングや試合時のコンディションに影響する。また遅発性筋肉痛(delayed-onset muscle soreness;DOMS)はその発生メカニズムに不明点があるものの、EIMDの一症状と位置づけられ、やはりトレーニング制限につながる。
一方、スポーツパフォーマンスの維持・向上を意図して利用されているサプリメントの一部に、EIMDやDOMSを軽減するように働くとされるものがあり、それらは通常、抗炎症作用、抗酸化作用を有している。蜂蜜はフラボノイドやフェノール酸を含有し、基礎実験からは腫瘍壊死因子α(tumor necrosis factor-alpha;TNF-α)やインターロイキン6(interleukin-6;IL-6)、IL-1βなどの炎症性サイトカイン抑制作用を持つことが報告されており、またヒト対象研究でもスポーツ活動における生理学的適応を向上させる可能性が示されている。
女性ボディービルダー16人を対象に、DOMSやパフォーマンス指標を比較
この研究は、平均5年の経験を持つ女性ボディービルダー16人を対象に行われた。試験デザインは、研究参加者および研究実施に関与する研究者が試験条件を知らずに試験を行い、結果判定はデータを示された別の研究者が行う、プラセボ対照二重盲検クロスオーバーデザイン。研究参加者の特徴は、年齢が27±4歳、BMIは21±2であり、喫煙・飲酒習慣、および蜂蜜アレルギーがなかった。また、月経の影響を回避するため、月経周期質問票を用いて、研究の全期間が卵胞期に該当する被験者が選ばれていた。
蜂蜜条件では、70gの蜂蜜を250mLの水に添加。プラセボ条件では同量の人工甘味料(ステビア)を添加。8人は蜂蜜条件を先に行い1週間後にプラセボ条件、別の8人は反対の順序で試行した。両条件の試行には1週間のウォッシュアウト期間が設けられた。
各条件の飲料摂取の90分後に、体重の10%に相当する重さのベストを着用し、200回の垂直跳びをすることでEIMDを誘発した。パフォーマンステストはその48時間後に行い、ベースラインとの比較、および条件間での比較を行った。また、運動負荷直後、12、24、48時間後に、ビジュアルアナログスケール(visual analog scale;VAS)により、DOMSの程度を評価した。パフォーマンステストの実施を48時間後とした理由は、通常EIMDによるDOMSは運動負荷の8~24時間後に発生し、48時間後にピークに達するとする報告が多いため。
パフォーマンステストでは、レッグプレスによる1RM(1回のみ施行可能な最大負荷量〈repetition maximum〉)、自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)などの複数の指標を評価した。用いられた蜂蜜の成分は、生化学検査の結果、果糖、ショ糖、ブドウ糖、ビタミンE、ビタミンC、ビタミンA、カルシウム、セレン、銅、クロム、鉄、コバルト、亜鉛、グルタチオン還元酵素などで構成されていた。
蜂蜜条件ではDOMSの程度が軽く、パフォーマンスの回復が速い
VASによるDOMSの評価の推移
遅発性筋肉痛(DOMS)の程度は、運動誘発性筋損傷(EIMD)誘発直後から48時間後にかけて、両条件ともにベースラインより有意に上昇しており、かつ、プラセボ条件のほうがすべての時点で高値だった。
具体的には、100mmのVASでプラセボ条件ではベースライン時が5.2±0.6mm、EIMD誘発直後は62.5±4.2mm、12時間後は36.87±2.9mm、24時間後は50±3.3mm、48時間後は55±3.3mmで、蜂蜜条件は同順に5±0.6mm、46.5±2.9mm、25.3±2.1mm、35.6±2.7mm、37.8±2.6mmであって、条件間の差はベースライン時がp=0.383で非有意、その他の時点はすべてp=0.001で有意。
EIMD誘発48時間後のパフォーマンス指標
EIMD誘発48時間後に行ったパフォーマンステストでは、壁座りテスト、1RM、および自覚的運動強度(RPE)に有意差が認められ、これらはすべて蜂蜜条件において回復が促進されていたことを示唆していた。それに対して、垂直跳び、V字座位体前屈テスト、および、大腿骨中間点に対するカフによる刺激で計測した圧迫痛覚閾値には、有意差を認めなかった。
有意差のみられた壁座りテストは、ベースライン時が74.31±57.76秒、48時間後のプラセボ条件は46.56±6.48秒、蜂蜜条件は85.31±6.67秒、1RMは同順に110.93±30.17kg、108.43±27.18kg、114.99±27.14kgだった。またRPEはプラセボ条件が16.5±1.5に対して蜂蜜条件は14.8±1だった。
著者らは、本研究にはEIMDに関連する客観的なバイオマーカーを測定していないことなどの限界点があることを述べたうえで、「日ごろ筋力トレーニングを行っている女性が蜂蜜を加えた甘味飲料を摂取することは、EIMD後の筋力、持久力、筋肉痛などの回復を促進する有用な戦略になり得ることが示唆された」と結論づけている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effect of a honey-sweetened beverage on muscle soreness and recovery of performance after exercise-induced muscle damage in strength-trained females」。〔Front Physiol. 2024 Sep 17:15:1426872〕
原文はこちら(Frontiers Media)