β-アラニンの格闘技におけるパフォーマンス、体組成、生化学検査値などへの影響 システマティックレビュー
格闘技アスリートがβ-アラニンを摂取することによるパフォーマンスや体組成、生化学検査値などへの影響に関する、システマティックレビューの結果が報告された。体組成には有意な変化が認められず、筋力や格闘技特有のパラメーターについては有意な向上が示されたという。
β-アラニンは格闘技の成績向上に役立つか?
格闘技は、組み技、打撃、およびそれらの混合という三つのグループに分類できる。組み技が主体の競技としては柔道、レスリングなどが挙げられ、打撃ではボクシング、空手、ムエタイ、テコンドーなど、混合系としては総合格闘技が該当する。これらの競技はいずれも全身の高強度かつ瞬発的な動きを必要とし、数秒から数分程度の短時間に断続的にそのような運動が繰り返され勝敗が決まる。
β-アラニンは骨格筋におけるカルノシン合成の前駆体として作用し、格闘技などの高強度の運動において、筋肉の機能を向上する可能性があると考えられており、これまでにさまざまな研究結果が報告されてきている。本論文の著者らは、それら研究報告を対象とするシステマティックレビューにより、現時点のエビデンスの検証を行った。
文献データベースとハンドサーチにより7件の報告を特定
文献検索には、Scopus、Web of Science(WOS)、およびMedline(PubMed)という3種類のデータベースを使用。各データベースのスタートから2023年7月31日までに公開された研究報告を対象として、β-アラニン、格闘技、柔道、テコンドー、ボクシング、空手、レスリング、サプリメント、エルゴジェニックエイドなどのキーワードを用いた検索を実行。包括基準として、健康な成人の格闘技アスリートを対象にβ-アラニン単独摂取の有用性を対照群を設けて検討した研究であり、品質スコアやバイアスリスクスコアが一定水準を満たし、英語またはスペイン語で公開されている論文とした。なお、前記の3件の文献データベース以外に、ResearchGateなどを用いたハンドサーチも行った。
文献データベースでの検索で64報がヒットし、重複削除により31報となり、その他にハンドサーチによる10報を加え、計41報をタイトルと要約に基づくスクリーニングの対象とした。残った18報を2人の研究者が独立して採否を検討。意見の不一致は3人目の研究者の判断によった。最終的に7件の研究報告が解析対象として抽出された。なお、これらの検索工程は、PRISMAガイドラインに準拠して行われた。
解析対象研究の特徴
7件の研究の参加者は、合計138人(男性135人、女性3人)で、行っている競技はボクシングが54人、レスリング22人、柔道47人など。競技レベルはアマチュア対象が2件、競技会参加レベルが3件、エリートレベルが2件。
β-アラニンの投与は、すべての研究でカプセルによる経口摂取とされていた。用量は4~6.4g/日の範囲、または0.3g/kg/日(20~28g/日)であり、1日2~4回に分けて摂取されていた。用量が記されていない報告もあった。摂取タイミングについては、タイミングが記されているものは食後とされていたが、タイミングが記されていない報告も複数存在した。
介入期間は4週間が5件、8週間および10週間が各1件だった。では、評価項目ごとに結果をみていこう。なお、介入効果の判定に用いられていたパラメーターの不均一性により、メタ解析はなされていない。
複数のパフォーマンス指標に有意な影響
スポーツパフォーマンス
筋力・パワー
打撃強度を比較した研究では、β-アラニン摂取前後で強度が有意に向上し、かつコントロール(対照)群との間に有意差がみられたと報告されている。膝伸展力を評価した別の研究では、対照群との比較で有意水準未満の向上が、左膝でのみ観察されたという。ただしβ-アラニン摂取前後の比較では、膝伸展力の有意な向上が観察されていた。
下半身のピークパワーがβ-アラニン群が対照群に比し有意に高いというデータの報告があった。一方、ピークパワーは有意な変化が認められないが、負荷を継続した際のパワーの低下幅が有意に抑制されたとするデータも認められた。
総運動作業能力
上肢と下肢の合計の運動作業能力を評価した研究があり、β-アラニン群はプラセボ群と比較して、総運動作業能力が有意に増加していたという。
心拍数
心拍数への影響を評価した研究では、有意な変化は観察されなかった。
垂直とび
垂直とびの成績も、β-アラニン群と対照群との比較では有意差がないと報告されていた。ただし、β-アラニン群においては、介入前に比べて介入後に有意な上昇が観察されたという。
格闘技固有の指標
投げ技の回数への影響を検討した研究が2件存在していた。それらのうち1件では、介入後の投げ技の回数が対照群より有意に増加していたと報告されていた。また、ストロークの回数の有意な上昇を報告した研究が1件存在していた。
体組成および生化学検査値
除脂肪量・脂肪量
レスリング選手を対象に除脂肪量と脂肪量への影響を検討した報告があり、その研究ではβ-アラニン群での介入前後での比較、および対照群との比較において、除脂肪量の有意な増加や脂肪量の有意な減少は認められていない。
カルノシン
血中カルノシンへの影響が1件の研究で検討され、対照群に比し有意な上昇が報告されている。
乳酸
解析対象としたすべての研究で乳酸レベルが測定されていた。結果は全体として不均一であり、一貫性がみられなかった。
有害事象
2件の研究で、β-アラニン摂取による軽度の感覚異常の事例が報告されていた。
これらの報告の総括として、論文の末尾は以下のように結ばれている。
「4~6g/日のβ-アラニンを4週間以上摂取すると、60~240秒程度続く高強度運動のパフォーマンスを向上させることができる。β-アラニンは格闘技アスリートにとって、適切な栄養エルゴジェニックエイド(nutritional ergogenic aids;NEAs)の可能性がある。ただし、これらの知見を確認するために、さらに多くのエビデンスが必要とされる」。
文献情報
原題のタイトルは、「β-Alanine Supplementation in Combat Sports: Evaluation of Sports Performance, Perception, and Anthropometric Parameters and Biochemical Markers—A Systematic Review of Clinical Trials」。〔Br J Sports Med. 2023 Sep;57(17):1109-1118〕
原文はこちら(MDPI)