若くして死亡したボディービルダーの心臓が語ること タンパク質同化ステロイドの影響か?
平均36歳という若さで死亡した、複数の男性ボディービルダーの剖検報告を解析した結果をまとめた論文が発表された。心臓の重量は一般男性より7割以上重く、100%の症例に左室肥大の所見がみられ、また67%はタンパク質同化ステロイドの使用歴が確認され、100%が何らかの薬物の所持が認められたという。
タンパク質同化ステロイドとは
タンパク質同化ステロイド(MSDマニュアル家庭版)ボディービルにおけるアンドロゲン同化ステロイド(AAS)の使用
アンドロゲン同化ステロイド(androgenic-anabolic steroids;AAS)などのパフォーマンス向上を意図する医薬品(performance-enhancement drugs;PED)の使用は当然禁止されており、アスリートのPED使用を検知するシステムが整備されていて、使用が発覚した場合は大会出場禁止などのペナルティーが発生する。ただ、ボディービルについては、大会参加者のPED使用検知システムが十分に機能していないことがあるとの指摘もある。例えば、PEDの使用を明確に禁止している「ナチュラル」と呼ばれる大会でも、2.4%がAASを含むPEDを使用していると回答したとする報告がある。
AASにはさまざまな副作用がある。なかでも心血管系に対しては、血圧上昇、LDL(悪玉)-コレステロール上昇、HDL(善玉)-コレステロール低下、左室肥大などが知られている。それらの結果、AASを用いているボディービルダーは、一般人口よりも心血管疾患の発症および早期死亡のリスクが高い可能性が想定される。
そこで本論文の著者らは、50歳未満で心血管イベントにより死亡したと考えられる男性ボディービルダーの剖検報告を分析。可能な限り、AAS使用との関連を検討することとした。
亡くなったボディービルダーの検死報告書を解析
2022年2月10日に「dead bodybuilders(死亡したボディービルダー)」という用語を用いてGoogle検索が実行。検索結果の最初の2ページに18のWebサイトが表示され、重複している情報とYouTube動画の情報を削除後、7件のサイトをさらなる情報検索の基準点として設定。各サイトに示されている情報を個別に確認していき、過去12年間に何らかの原因で死亡した50歳未満の男性ボディービルダー45人を特定した。
これらのうち、米国外で死亡したケースは剖検報告の入手が困難であることから除外し、14人を抽出。各Webサイトに示されていた死因は、心筋梗塞、心不全、肺塞栓症、心臓突然死、自然死、および原因不明などだった。
次に、検死官事務所に連絡をとり、この14人の検死報告書を要求。7人について報告書を入手し得た。うち1人は心疾患による死亡ではなかったために除外し、6人を解析対象とした。
67%がアンドロゲン同化ステロイド(AAS)を使用
6人は年齢が30~46歳の範囲で平均36±7.1歳、BMIは29.9~38の範囲で平均31.6±2.3だった。
心臓の重量は575±134.4gであり、これは一般成人男性の332gに比べて73.7%重かった。また左室壁厚は16.3±3.5mmであり、これは一般成人男性の平均より125%厚いという顕著な差が認められた。左室肥大は100%、心室拡張は33%に認められた。
80%がアテローム性動脈硬化症の所見が観察され、薬毒物検査が行われた5人のうち60%は、違法薬物の反応が陽性という結果だった。また、全体の67%でアンドロゲン同化ステロイド(AAS)の積極的な使用が確認され、全員に何らかの薬物の所持が認められた。
死因としては、心疾患、ステロイド誘発性心筋症、不整脈、左室肥大などが記されていた。
本研究のみでは因果関係は断定できないが、AAS乱用リスクの自覚を
これらの結果を基に論文では、以下のような考察が述べられている。
まず、決定的なエビデンスとはならないものの、長期間のアンドロゲン同化ステロイド(AAS)の乱用が、これらのボディービルダーで認められた心臓の異常の発生の一部に寄与していた可能性がある。長期間のAAS乱用が心血管イベントリスクを高めることについては複数の報告が存在する。例えば、AAS使用を報告した1,467人のアスリートを含む49件の研究のレビューでは、前述のように、AAS使用がLDL-Cや血圧の上昇とHDL-Cの低下、左室肥大と関連していたと報告されている。
また、AASを使用した31人の男性を対象とする研究からは、中央値16週間で左室駆出率の低下や左室質量の増加が認められたという。この研究ではAAS中止後約8カ月でベースラインレベルに回復したが、ボディービルダーがAASを使用する場合、この研究の16週間よりはるかに長期にわたって使用することが多いだろうことから、使用中止後にも有害事象が継続する可能性も考えられる。
論文の結論は、「本研究で解析対象としたボディービルダーには、左室肥大やアテローム性動脈硬化症などの所見が認められた。ボディービルダーの早期死亡リスクには複数の交絡因子があるため、観察された結果がAASの長期使用によるものとする結論を引き出すことはできず、さらなる研究が必要とされる。ただし、AASの乱用には潜在的な心血管イベントリスクがあることを念頭に置くべきだろう」。
文献情報
原題のタイトルは、「Dead Bodybuilders Speaking from the Heart: An Analysis of Autopsy Reports of Bodybuilders That Died Prematurely」。〔J Funct Morphol Kinesiol. 2022 Nov 24;7(4):105〕
原文はこちら(MDPI)