日本人向け「プレシジョン栄養」の実践に重要な遺伝子多型を発見 東京大学などの研究グループ
各個人の状態に最適な栄養を提案し実行する「プレシジョン栄養」の実践に重要な手がかりが報告された。東アジア人特有の遺伝子多型が多様な食行動と体格との関連を修飾することや、遺伝子多型のタイプ別に体格に影響しやすい食行動が推察できるという。東京大学などの研究グループの研究によるもので、詳細が「Nutrients」に論文掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースとして掲載された。著者らは、「これらの成果は、日本人のプレシジョン栄養の知識基盤となることが期待される」と述べている。
発表の概要：日本人のプレシジョン栄養の推進へ
「プレシジョン栄養」とは、各個人の最適な栄養を提案し実行することを示す、近年世界的に注目されている学問領域で、「テーラーメイド栄養」や「オーダーメイド栄養」、「パーソナライズド栄養」などと同義。
東京大学生命科学研究科と、日本初の消費者向け大規模遺伝子解析会社である株式会社ジーンクエストとの共同研究によって、日本人約1万2,000人の遺伝子情報を解析し、お酒の代謝に関わる一塩基多型（SNP）※1が、多様な食行動と体格の関連を修飾することが明らかになった。さらに、このSNPの遺伝タイプ別に、体格に関連する食行動が示された。
※1 一塩基多型（SNP）：集団の中で1%以上の頻度で特定の塩基配列が異なる場所のこと。
本研究から、このSNPがお酒に対する体質だけでなく、さまざまな食行動を介して体格に影響している可能性が推測された。これらの成果は、日本人のプレシジョン栄養の知識基盤となることが期待される。
発表の内容：SNPが食行動とBMIの関連を修飾している
プレシジョン栄養は、「年齢、ライフステージ、性別、ゲノム、エピゲノム、腸内細菌、睡眠（休息）、運動や活動度、体格や体組成、血液などにおけるバイオマーカー、病歴、ストレスや精神状態、食事履歴、嗜好、季節や時刻を含むさまざまな因子を統合して導き出される栄養であり、各個人のそのときの状態において最適な栄養を提案し実行すること」と著者らは定義している。この研究分野は、米国国立衛生研究所（NIH）が2020年5月に発表した10年間の戦略プランとして揚げられており、世界的にもその重要性が認識されている。
ゲノムの中のSNPは、遺伝的な体質に影響することが知られている。とくに東アジア人に特有のアルデヒド脱水素酵素（ALDH2）遺伝子上のSNPであるrs671多型は、飲酒への感受性に強く影響する。rs671多型の遺伝型がGG型である人の場合はお酒に強く、GA型の場合はお酒に弱く、AA型では下戸となる。
研究グループではこれまで、このrs671多型が飲酒行動だけでなく、魚摂取頻度やコーヒーおよび紅茶の摂取量、さらに甘味嗜好性に関連することを報告してきた。また、このSNPはいくつかのがんや肥満などの発症リスクとなるほか、血圧や体格指数（BMI）※2などの健康指標とも関連することが報告されてきている。しかし、これまでrs671多型と食行動およびBMIの3者の関連性は不明だった。
※2 体格指数（BMI）：体重（Kg）/身長（m）2で算出される肥満度を表す指数。標準値は22であり、この数値が統計的に最も病気になりにくい体重とされている。
研究グループでは、日本人約1万2,000人のゲノム情報およびWebアンケート情報を基に、rs671多型・食行動・BMIの3者間の関連性を解析した。なお、本研究での解析はすべて男女別に行った。
まず、56種類の食行動とBMIとの関連を検討したところ、男性で18、女性で21の食行動が有意にBMIと関連することが観察された。次に、解析群を飲酒者および非飲酒者に分けた後、食行動とBMIとの関連にrs671多型の遺伝型との交互作用※3があるかを解析したところ、飲酒習慣にかかわらず、すべての群で交互作用が認められた。この結果は、rs671多型が食行動とBMIの関連を修飾していることを示唆している。
※3 交互作用：「二つの因子の組み合わせによって生じる相乗効果」と定義されている。この解析の場合は、rs671多型の遺伝型間で食行動とBMIの関連性に違いがあるかを解析している。
さらに、ステップワイズ回帰解析という手法を用いて、rs671多型の遺伝型および飲酒習慣ごとに、BMIと関連のある食行動を観察した。
その結果、性、飲酒習慣、rs671多型の遺伝型ごとに異なる食行動とBMIの関連が観察された。結果のうち、特徴的な関連を図1に示す。
図1 rs671の遺伝型、性別、飲酒習慣毎に特徴的な食行動とBMIとの関連
飲酒習慣のあるGG型およびGA型対象者では、男女に共通して飲酒量と揚げ物摂取がBMIと正の関連を、飲酒頻度がBMIと負の関連を示した。飲酒習慣のない対象者では、男性でソフトドリンク摂取とBMIとの正の関連が、女性で納豆・豆腐摂取とBMIとの負の関連が認められた。また、AA型では男女で共通して乳酸菌飲料摂取とBMIが正に関連していた。
この研究から、rs671多型は遺伝的に食行動とBMIの関連を修飾している可能性が見いだされ、3者の関係性が初めて示された。また、rs671多型の遺伝型や性、飲酒習慣によって、BMIに影響する食行動が異なることが示唆された。
本研究の成果は、個人の遺伝的体質や飲酒習慣によって体格に影響しやすい食行動が存在する可能性を示した。この結果は、日本人のプレシジョン栄養の発展に、貢献することが期待される。
関連情報
日本人のプレシジョン栄養に重要な遺伝子多型を発見（東京大学）
文献情報
原題のタイトルは、「Association between Dietary Behaviors and BMI Stratified by Sex and the ALDH2 rs671 Polymorphism in Japanese Adults」。〔Nutrients. 2022 Dec 1;14(23):5116〕
原文はこちら（MDPI）
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