小学1年生の体力テストの結果と、健康的な食品の摂取量が相関――東京農大
都内の公立小学校1年生対象の調査の結果、健康的な食品からの摂取エネルギー量が多い子どもほど、運動能力が高いという関連のあることがわかった。東京農業大学応用生物科学部栄養科学科の多田由紀氏らの研究によるもので、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に論文が掲載された。
食習慣は、子どもの体力・運動能力に影響を及ぼし得るか?
これまでに、子どもの体力・運動能力は、小児期の心身の健康だけでなく、成長後の生活習慣病等のリスクとも関連していることが報告されている。ところが、日本の子どもの体力・運動能力は、文部科学省/スポーツ庁「体力・運動能力調査」によると、1985年度前後をピークに低下していることが示されており、将来的に成人期の身体活動量の低下や疾患リスク増大が懸念されている。
体力・運動能力の高さに関連する最も重要な因子はふだんの身体活動だが、食習慣の影響を示唆する報告も少なくない。例えば、朝食欠食のない子どもはそうでない子どもよりも心肺機能が高いという報告や、果物や野菜の摂取量が子どもの運動能力の規定因子の一つであるとする報告がある。ただし、それらの研究の大半は、単一または少数の食品群の摂取量を摂取頻度から定性的もしくは半定量的に評価しており、網羅的な検討がなされておらず、また国内で行われた研究は少ない。
これを背景として多田氏らは、日本の小学1年生の子どもを対象として、食事記録等から把握した食事摂取量や生活習慣と、体力・運動能力との関連を検討した。
小学1年生の親子、約900組を対象に調査
2013~2018年に、都内3カ所の公立小学校の1年生の児童とその保護者のペア1,982組に対して、家庭での食事などの生活習慣に関する質問票への回答協力を依頼し、1,082(51.4%)から回答を得た。回答に欠落のあるものを除外し、884組(51.2%が男児)の回答を解析対象とした。
質問票の内容は、朝食の頻度、テレビ視聴時間、ゲームプレーや漫画を読む時間、屋外で遊ぶ時間、勉強する時間、放課後に運動教室・学習塾・音楽教室で過ごす時間、および、平均的な1日の食事内容(料理名、食材の種類と重量)などの質問で構成されていた。この質問票による調査は、各年の5月下旬~6月上旬に行った。
健康的な食品と非健康的な食品の定義
栄養素等摂取量は前記の質問票の回答と、学校での給食での摂取量を加え、文部科学省「日本食品標準成分表」に基づき算出した。学校での給食については、管理栄養士または栄養士養成課程に在籍する学生が子どもたちの返却する食品トレイを見て、喫食率を、0%(全く手つかず)、25%、50%、75%、100%(完食)の5通りで判定した。
摂取された食品群は、農林水産省「食事バランスガイド」に基づき、6種類のカテゴリー(主食、主菜、副菜、果物、牛乳・乳製品、菓子・嗜好飲料)に分けて評価した。これらのうち、主食、主菜、副菜、果物、牛乳・乳製品を「健康的な食品」、菓子・嗜好飲料を「非健康的な食品」と定義した。
なお、アイスクリームは乳製品ではなく菓子、果汁100%でないフルーツジュースは嗜好飲料とした。
健康的な食品の摂取量が多いほど、体力・運動能力が高い
子どもたちの体力・運動能力は、各年の第1学期に行った、文部科学省/スポーツ庁「体力・運動能力調査」の8項目(握力、上体起こし、長座体前屈、反復横とび、20mシャトルラン、50m走、ソフトボール投げ)の合計点(NPFTスコア)で評価した。
男児・女児ごとに全体をNPFTスコアの五分位で5群に群分けすると、女児ではNPFTスコアが高い群ほどローレル指数が普通の範囲内ではあるが低い傾向であることがわかった(傾向性p=0.039)。男児では、NPFTスコアとローレル指数との間に有意な関連はみられなかった。
NPFTスコアと生活習慣や食事摂取量との関連
生活習慣の中でNPFTスコアと有意な関連が見られた項目は、男児・女児ともに放課後に運動教室で過ごす時間が挙げられ(傾向性p値が男児は<0.001、女児は0.01)、男児では屋外で遊ぶ時間も有意に関連し(傾向性p<0.001)、いずれもそれらの時間が長いほうがNPFTスコアが高かった。
食事摂取量との関連については、男児・女児ともに、1日の総摂取エネルギー量(kcal)、主菜の摂取量(サービング)、健康的な食品からの摂取エネルギー量、および給食での摂取エネルギー量が多いほうがNPFTスコアが高かった。また男児ではこのほかに、副菜摂取量が多いほどNPFTスコアが高いという関連がみられ、女児では朝食の摂取エネルギー量との有意な関連も認められた。
男児・女児とも、健康的な食品からの摂取エネルギー量がNPFTスコアに関連
次に、NPFTスコアを従属変数、屋外で遊ぶこと、放課後の運動教室への参加、健康的な食品からの摂取エネルギー量、非健康的な食品からの摂取エネルギー量を説明変数とする重回帰分析を施行。NPFTスコアに影響を及ぼし得る因子(ローレル指数、睡眠時間、学習時間、自宅での座位行動、放課後の学習塾または音楽教室への参加、朝食欠食)の影響を調整後、男児・女児ともに、放課後の運動教室への参加と健康的な食品からの摂取エネルギー量が、NPFTスコアとそれぞれ独立して関連することがわかった。また、男児では屋外で遊ぶことも独立した関連因子だった。一方、不健康な食品からの摂取エネルギー量は、男児・女児ともにNPFTスコアと関連がなかった。
それぞれの回帰係数は以下のとおり。男児の放課後の運動教室への参加はβ=0.133、p=0.005、健康的な食品からの摂取エネルギー量はβ=0.120、p=0.011、屋外で遊ぶことはβ=0.131、p=0.005。女児の放課後の運動教室への参加はβ=0.120、p=0.013、健康的な食品からの摂取エネルギー量はβ=0.140、p=0.004。
以上を基に論文の結論は、「子どもの体力や運動能力には、日常の身体活動とともに、健康的な食品からのエネルギー摂取が相関していることがわかった。この結果は、主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物などの摂取が、子どもの運動能力にとって重要であることを示唆している」とまとめられている。
なお、既報研究では、朝食の欠食や睡眠時間が短いことも、子どもの体力・運動能力と関連することが報告されている。本研究ではそれらが有意な関連因子でなかったことについて著者らは、「解析対象児童の朝食欠食率が低く(週に1日以上の欠食が約2%)、睡眠時間が十分長かったため(平均9.6時間)ではないか」との考察を述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Energy Intake from Healthy Foods Is Associated with Motor Fitness in Addition to Physical Activity: A Cross-Sectional Study of First-Grade Schoolchildren in Japan」。〔Int J Environ Res Public Health. 2022 Feb 5;19(3):1819〕
原文はこちら(MDPI)