過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、胃食道逆流症のあるランナーの食事パターン
過敏性腸症候群や炎症性腸疾患、胃食道逆流症などのために、断続的に続く消化器症状とともに暮らしている人は少なくない。言うまでもなく、アスリートにも一般人口におけるそれら疾患の有病率と同程度に罹患者が存在する。それだけでなく、運動誘発性ストレスや競技会参加の緊張などのために、消化器症状はより起こりやすくなる。
そのような消化器症状のコントロールに、栄養摂取や食事パターンの管理は極めて重要。では、これらの疾患のあるアスリートは、実際にどのような工夫を行っているのだろうか。カナダの持久系アスリートを対象とするアンケート調査の結果が報告された。
過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、胃食道逆流症について
調査結果をみる前に前記の3疾患について簡単に触れる。
まず、過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome;IBS)は、反復性の腹痛と下痢、便秘という慢性の下部消化管症状を特徴とする機能性消化管障害。アスリートの過敏性腸症候群の有病率は、診断基準に則した調査では10%、簡易的な診断では23%に上るという報告がみられる。
一方、炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)は再発性の炎症性疾患で、具体的な疾患として潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UC) とクローン病(Crohn’s disease;CD)が該当し、前者の病変は主として大腸に限局するが、後者では消化管のあらゆる領域に影響が現れ得る。国内では、双方ともに難病対策事業の対象疾患に指定されている。
胃食道逆流症(gastro esophageal reflux disease;GERD)は、胃酸分泌の増加、胃内容排出の障害、食道クリアランスの低下、下部食道括約筋の弛緩などにより、胸やけ、喉の不快感、胃液が口のほうに上がってくるといった症状を繰り返す。有病率は10~20%とされている。
アンケート参加者の特徴:年齢は40代が多く、IBD/IBS群は女性が大半を占める
さて、今回報告されたアンケートの対象は、カナダで開催された陸上競技大会に参加した、18歳以上の持久系アスリート530名。このうち炎症性腸疾患または過敏性腸症候群(IBD/IBS群)が53名、胃食道逆流症(GERD群)が37名で、375名は症状のない対照群。疾患の診断は、約9割は医師によるもので、他の1割は自己診断または医師以外の医療従事者による診断だった。
各群の年齢と性別は、IBD/IBS群が42±13歳で女性が96%、GERD群は40±11歳で女性69%、対照群は42±13歳で女性55%だった。
主なアンケート結果
アンケートの調査項目は、自発的な食物制限、大会前の食品選択、症状発現につながる食品を摂取した場合の消化器症状など。質問項目別に回答の傾向を以下に紹介する。
一般的に許容度の低い食品
ランニングすることとは関係なく、症状を引き起こす食品を尋ねた質問の回答は、対照群に比較しIBS/IBD群は、穀類、豆類、野菜、コーヒー/紅茶、ヨーグルト、卵、チーズ、牛乳など、選択肢にあげられたすべてにおいて、有意に高かった。
GERD群では、穀物、乳製品、コーヒー/紅茶が、対照群より有意に多く選択された。
競技前に回避する食品
競技に参加する4時間前以降に摂取を避ける食品を尋ねた質問の回答は、IBS/IBD群では対照群に比し、豆類、豆乳、ホットシリアル、およびグルテンを含む穀物を避けるとの回答が有意に多かった。
GERD群は対照群と有意差がなかった。
運動による誘発される消化器症状
長距離走レースに参加するランナーが経験する症状について、「レースをする前に、通常は避ける食品(前記の質問で回答した食品)を食べた場合、レース中にどのような症状が発生する可能性があるか」と質問した。
その結果、IBS/IBD群では対照群に比し、胃痛/痙攣(77 vs 43%,p<0.001)、胸痛/胸部不快感(58 vs 23%,p<0.001)、膨満感(52 vs 20%,p<0.001)、下痢(58 vs 18%,p<0.001)、放屁(35 vs 16%,p=0.003)、嘔気/嘔吐(29 vs 10%,p=0.001)が有意に多かった。
一方、GERD群では対照群に比し、膨満感(25 vs 20%,p<0.001)、下痢(39 vs 18%,p=0.007)、放屁(31 vs 16%,p=0.039)、嘔気/嘔吐(31 vs 10%,p=0.002)、逆流/胸やけ(42 vs 7%,p<0.001)が有意に多かった。
栄養情報の入手手段はインターネットが主流
栄養に関する情報の入手法の上位5位は、IBS/IBD群ではインターネット(49%)、雑誌(40%)、家族/友人(38%)、所属チーム以外のアスリート(32%)、栄養士(30%)だった。GERD群では、インターネット(58%)、雑誌(39%)、所属チーム以外のアスリート(39%)、栄養士(33%)、チームメート(31%)だった。
なお、両群の36%が、過去に栄養ワークショップに参加したことがあると回答していた。
著者らは本アンケートの結果の解釈に際し、IBSとIBDが区別されていないこと、疾患の寛解状態にあるのか活動期なのかが把握されていないことなど、注意すべき点があると述べている。そのうえで、結論を「過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、胃食道逆流症のランナーは、それらの疾患やアレルギーのないランナーより、運動誘発性の消化器症状が発症しやすい。運動前の食事の選択をアレンジすることが、運動誘発性の消化器症状を抑制するための戦略の一つとなり得る」とまとめている。
また、今後の研究の方向性として、「現在、高繊維または高蛋白食品の摂取に注意が向けられているが、いずれも重要な栄養素であり、パフォーマンスに影響を及ぼさずにそれらの食品を摂取するタイミングや、代替となる摂取源をどう確保すべきかという点に、関心を向ける必要がある」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Dietary Patterns in Runners with Gastrointestinal Disorders」。〔Nutrients. 2021 Jan 29;13(2):448〕
原文はこちら(MDPI)