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宇宙マウス研究から健康長寿のヒントを発見 JAXA・東北大などのグループが報告

東北大学と宇宙航空研究開発機構(JAXA)、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)の研究グループは、遺伝子ノックアウトマウスの宇宙滞在生存帰還実験に世界で初めて成功したと発表した。この研究によって、宇宙長期滞在により加齢変化が加速すること、宇宙ストレスによって転写因子「Nrf2」が活性化し、宇宙環境ストレスによる加齢変化加速を食い止め、健康を維持するために働くことなどがわかったという。研究成果が「Communications Biology」に掲載されるとともに、東北大、JAXA、ToMMoのサイトにニュースリリースが掲載された。

宇宙マウス研究から健康長寿のヒントを発見 JAXA・東北大などのグループが報告

国際宇宙ステーション「きぼう」で、「Nrf2」の効果を調べる

人類が宇宙進出を果たすには、宇宙放射線や微小重力環境などの宇宙環境ストレスによる健康リスクを克服することが必要。転写因子「Nrf2」※1は一群の生体防御遺伝子を活性化し、地上におけるさまざまなストレスに対して保護的に働くことが知られており、宇宙ストレスの防御にも有効ではないかと考えられる。

※1 転写因子「Nrf2」:転写因子とは、DNAに結合して遺伝子の発現を制御する蛋白質の総称。Nrf2(nuclear 1 factor〈erythroid-derived 2〉-related factor 2)は、体内のストレス防御反応の中心的な役割を担うとされ、現在、腎疾患の治療薬としてNrf2活性化薬の開発が進められている。既存の腎疾患治療薬はすべて「腎機能低下抑制作用」しかもたないが、Nrf2活性化薬には「腎機能改善作用」が期待されている。

研究グループでは、その可能性を検討・実証するため、本研究を行った。JAXAが公募した国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」利用フィジビリティスタディに採択され、Nrf2遺伝子ノックアウトマウス※2のISS長期滞在実験が進められた。

※2 遺伝子ノックアウトマウス:特定の遺伝子が無効化された遺伝子組換えマウス。遺伝子産物の機能を調べるために重要なモデル動物。

世界で初めて宇宙滞在し生存帰還した遺伝子ノックアウトマウス

2018年4月、野生型マウス、およびNrf2遺伝子ノックアウトマウスの雄、それぞれ6匹、合計12匹を乗せた宇宙船がケネディー宇宙センターから打ち上げられ、ISSの「きぼう」に到着。「きぼう」日本実験棟で飼育され約30日間の軌道上滞在を終えた後、12匹すべてが生存し帰還した。遺伝子ノックアウトマウスの宇宙滞在後の生存帰還は世界初。

帰還したマウスの詳細な解析を行った結果、宇宙滞在によってさまざまな臓器でNrf2が活性化していることがわかった。また、宇宙滞在マウスでは各臓器における遺伝子発現や血中代謝物の変化が確認され、その一部は東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)が有するコホートデータで観察されているヒトの加齢性変化と同じ変化であることがわかった。

さらに、加齢変化でもみられる白色脂肪細胞サイズの肥大化が、宇宙滞在マウスで観察された。宇宙に滞在すると筋肉量の低下など加齢に似た現象が起きることは知られていたが、遺伝子発現や血中代謝物の加齢変化が確認されたのは初めて。加えて、これらの宇宙滞在による加齢変化が、Nrf2遺伝子ノックアウトマウスにおいて加速していることがわかった。

このことから、宇宙ストレスはさまざまな加齢変化を早回しで引き起こすこと、そしてNrf2はその加齢変化に対抗して食い止める役割があることがわかった。

Nrf2 遺伝子は宇宙ストレスによる加齢変化を食い止める

Nrf2 遺伝子は宇宙ストレスによる加齢変化を食い止める

(出典:東北大学)

国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟において、Nrf2遺伝子ノックアウトマウスの飼育を行った。微小重力や宇宙放射線などによる宇宙ストレスは、遺伝子発現、血中代謝物、白色脂肪細胞サイズなどの加齢変化を引き起こす。それに対してNrf2は、宇宙ストレスに応答し活性化し、これらの加齢変化を食い止める。

今後の展望:宇宙実験のロールモデルに

本研究では世界初の遺伝子ノックアウトマウスの宇宙滞在生存帰還実験に成功し、これは今後の病態モデルマウスを用いた宇宙実験のロールモデルになると期待される。これまでにNrf2発現量の低いヒト遺伝子多型が知られており、本研究の成果から、この多型をもつ人は宇宙滞在における健康リスクが高いことが示唆される。月や火星への長期滞在が可能となったとき、ヒトNrf2遺伝子多型を調べることで健康リスクの高い個人を事前に予想できる可能性がある。

また、地球上では何年もかかるような加齢の実証実験を、宇宙で行えば短期間に再現できることが明らかになった。今後、この手法のさまざまな実験への応用が考えられる。

さらに、Nrf2を活性化する薬剤が宇宙滞在時の健康リスクを克服するために有効であることも示された。これまでにNrf2活性化薬は、糖尿病やアルツハイマー病など加齢性疾患の予防や治療への有効性が報告されており、多くの製薬企業によりNrf2活性化薬の開発が進められている。本研究領域の発展により、Nrf2活性化薬が宇宙滞在時のみならず、地上における多くの高齢者や患者の健康を維持・改善する薬の開発につかながることが期待される。

JAXA-ToMMo連携イメージにおける、宇宙と地上をつなげるデータセットの有用性を示した本論文の成果の位置づけ

JAXA-ToMMo連携イメージにおける、宇宙と地上をつなげるデータセットの有用性を示した本論文の成果の位置づけ

(出典:JAXA)

プレスリリース

宇宙マウス研究から健康長寿のヒントを発見―宇宙環境で加速する加齢変化を食い止める遺伝子―(宇宙航空研究開発機構(JAXA))
宇宙マウス研究から健康長寿のヒントを発見〜宇宙環境で加速する加齢変化を食い止める遺伝子〜(東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo))

文献情報

原題のタイトルは、「Nrf2 contributes to the weight gain of mice during space travel」。〔Commun Biol. 2020 Sep 8;3(1):496〕
原文はこちら(Springer Nature)

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