レスリング選手とサッカー選手、血清脂質からみた健康レベルはサッカー選手に軍配
レスリング選手とサッカー選手の血清脂質プロファイルを比較検討した結果がトルコから報告された。中性脂肪(triglyceride;TG)は有意差がないが、その他の脂質値はサッカー選手のほうが良好だったという。著者らは、この差は食事とトレーニングの違いが関与している可能性があると述べている。
スポーツの種別によって血清脂質への影響か異なるか?
血清脂質と心血管疾患リスクとの関連は数々のエビデンスが存在し、公衆衛生や臨床において血清脂質値を管理することの意義は十分確立されている。また血清脂質管理における運動の有用性も豊富なエビデンスが存在する。
運動は総コレステロール(Total Cholesterol;TC)を下げ、高比重リポ蛋白コレステロール(High Density Lipoprotein-Cholesterol;HDL-C)を上げることが知られている。一方、低比重リポ蛋白コレステロール(Low Density Lipoprotein-Cholesterol;LDL-C)への影響は大きくない。
レスリングとサッカーはともに激しい身体活動を伴うスポーツだ。しかしながら、運動による脂質プロファイルの変化は、トレーニング内容、強度や頻度、継続時間などによって異なると考えられることから、本研究ではレスリング選手とサッカー選手の血清脂質プロファイルを比較し、心血管疾患リスクの異同を検討した。
レスリング選手17名とサッカー選手18名で検討
検討の対象は、レスリング選手17名と、サッカー選手18名。性別はいずれも男性のみで、前者は大学生と全国大会レベルの選手、後者は各種のリーグでプレーする大学生。
平均年齢は、レスリング選手23.72±1.87歳 vs サッカー選手が24.10±1.75歳(p=0.07)、経験年数は同順に11.5±5.4 vs 11.9±5.5年(p=0.29)、身長は174.43±6.72 vs 174.16±6.81cm(p=0.10)で、これらに群間の有意差はなかった。
体重は75.80±11.3 vs 69.49±9.6、BMIは25.04±3.64 vs 22.95±3.62で、有意差が存在した(いずれもp<0.05)。
血清脂質はTG以外に有意差
運動セッション開始前48時間に採血を行ったところ、以下のような検査値が得られた(いずれも、レスリング選手、サッカー選手の順)。
- TC:177.69±12.34 vs 163.34±12.60mg/dL(p<0.001)
- TG:96.65±14.95 vs 94.25±12.14mg/dL(p>0.05)
- HDL-C:54.72±3.82 vs 57.45±3.39mg/dL(p<0.05)
- LDL-C:132.63±15.43 vs 119.47±15.33mg/dL(p<0.05)
TGは群間に有意差がなかったが、その他の血清脂質値はすべて、サッカー選手のほうがレスリング選手より有意に良好だった。
L/H比は有意差はないが、TC/HDL-C比はレスリング選手が高い
続いて、HDL-Cを分母に、他の血清脂質値を分子に置いて、その比を検討した。血清脂質値の中で唯一、数値が高いほうが心血管疾患低リスクである"善玉コレステロール"であるHDL-Cを基準とした"比"をみることで、心血管疾患リスクがより明瞭になるとされる。
まず、LDL-C/HDL-C比(L/H比)は、レスリング選手2.42 vs サッカー選手2.08(p>0.05)で有意差はなかった。しかし、TC/HDL-C比は、3.25 vs 2.84(p<0.05)で、サッカー選手のほうが有意に良好だった。
この点について著者らは、「レスリングのトレーニングがサッカーのトレーニングよりも嫌気性であることに起因する可能性があり、嫌気性スポーツに分類されるレスリングのトレーニングは、健康に対し望ましくない影響をもたらすかもしれない」と考察している。ただし、血清脂質値そのものは問題なく、「レスリング選手とサッカー選手の血清脂質プロファイルは、彼らが心血管疾患のリスクがないことを示している」と述べている。
これらの結果から著者らは、「サッカー選手の血清脂質値はレスリング選手よりも良好だった。この差は、食事とトレーニング内容の違いが招いたものである可能性がある」とまとめ、心血管疾患リスクの観点から、「レスリング選手は日常の定期的なトレーニングに、ジョギングや有酸素トレーニングを追加することを勧める」と付け加えている。
文献情報
原題のタイトルは、「Comparison of Lipid and Lipoprotein Values of Wrestlers and Soccer Players」。〔Turk J Pharm Sci. 2020 Apr;17(2):172-176〕
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