時間栄養学研究の食行動と肥満の関連は、調査法によって結果が異なる 東京大学
20~69歳の日本人1,047人を対象として、時間栄養学からみた食行動を幅広く調査した結果、時間栄養学的食行動と食事の質および肥満との関連は、時間栄養学的行動をどのような方法で調べるかによって大きく異なることが明らかにされた。東京大学の研究グループの研究によるもので、「Nutrition Journal」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにプレスリリースが掲載された。研究グループでは、「本研究は時間栄養学的行動と食事の質および肥満との関連を、異なる二つの調査法(質問票法と日記法)を用いて検討した世界で初めての研究であり、この成果は、世界で急速に進む時間栄養学分野において、調査方法を慎重に吟味することの必要性を強調する貴重な科学的根拠となることが期待される」としている。
研究の背景:時間栄養学研究の結果に一貫性がない原因は?
不健康な食生活と肥満は、世界的に主要な公衆衛生上の課題であり、これらに関連する要因をより良く理解することが必要となってきている。
近年、時間生物学と栄養学をつなぎ合わせた新しい学術分野として「時間栄養学(chrononutrition)」が注目を集めている。時間栄養学的な視点では、例えば摂取時刻や摂取頻度という観点から食事を考えることになる。これらは日常生活の中で比較的簡単に変更可能な因子であるため、食事の摂取時刻や摂取頻度が健康的な食事や肥満に関連するかどうかを検討する研究は急速に増えてきている。しかし、その結果は必ずしも一貫していない。一貫性のなさの要因として、時間栄養学的食行動の調査法の違いが考えられる。複数の食事調査法を用いて時間栄養学的食行動を調べ、そのうえで、食事の質あるいは肥満との関連を検討した研究は存在しないのが現状。
そこで本研究では、二つの異なる食事調査法(質問票法と日記法)を用いて時間栄養学的食行動を調査し、それらと食事の質および肥満との関連を検討することを目的とした(図1)。
図1 本研究のスケジュール
研究の内容:2種類の調査法で時間栄養学的食行動を評価して肥満等との関連を比較
本研究は、2023年2~4月に全国26都道府県で実施された「食の5Wスタディ」のデータを基にしている。研究参加者は、20~69歳の日本人男女1,047人。本研究で用いた調査法は表1のとおりの2種類。
表1 本研究で用いた調査法
Chrono-Nutrition Behavior Questionnaire(CNBQ)は、最近1カ月の生活について、「仕事や学校のある日」と「仕事や学校のない日」に分けたうえで、以下の時刻を尋ねるもの。
就寝時刻、起床時刻、朝食の開始時刻、午前の間食の開始時刻、昼食の開始時刻、午後の間食の開始時刻、夕食の開始時刻、夜間の間食の開始時刻。
本研究で検討した時間栄養学的行動は、1日あたりの三食(朝・昼・夕食)の頻度、間食の頻度、すべての食事(朝・昼・夕・間食)の頻度、最初の食事の開始時刻、最後の食事の開始時刻、摂食中央時刻および摂食時間の長さ(図2)。
図2 主な時間栄養学的変数
また、Meal-based Diet History Questionnaire(MDHQ)は、各食事場面(朝食、午前の間食、昼食、午後の間食、夕食、夜間の間食)ごとの食品・栄養素摂取量の推定を目的とした、妥当性が検証済みの簡易食習慣評価ツール。食事の質の評価には、健康食インデックス(表2)を用いた。
表2 健康食インデックス

表3に示したのは、質問票法を基にした、時間栄養学的食行動と食事の質、肥満および腹部肥満との関連の結果。食事の質が低いことと関連していたのは、間食頻度が多いこと、すべての食事の頻度が多いこと、最後の食事の開始時刻が遅いこと、摂食中央時刻が遅いことだった。また、肥満(BMI25以上)および腹部肥満(腹囲長が男性90㎝以上、女性80cm以上)と関連していたのは、間食頻度が多いこと、すべての食事の頻度が多いこと、摂食時間が長いことだった。さらに腹部肥満とは、三食の頻度が多いことと最初の食事の開始時刻が遅いことも関連していた。
ここで示したのは「仕事がある日」の結果だが、「仕事がない日」の結果もおおむね類似していた。
表3 質問票法を基にした、時間栄養学的食行動と食事の質、肥満・腹部肥満との関連a

a. 調整変数は、性、年齢、最終学歴、雇用形態、世帯収入、喫煙、身体活動、過去3カ月間におけるシフト勤務の有無、クロノタイプ(朝型か夜型かの指標)、睡眠時間、エネルギー摂取量の申告誤差。肥満と腹部肥満についてはさらに食事の質で調整。
b. 体格指数(BMI)25以上を肥満とした。
c. 腹囲長が、男性90㎝以上、女性80cm以上を腹部肥満とした。
表4に示したのは、日記法を基にした、時間栄養学的食行動と食事の質、肥満および腹部肥満との関連の結果。食事の質が低いことと関連していたのは、最後の食事の開始時刻が遅いこと、最後の食事の開始時刻が遅いこと、摂食中央時刻が遅いことだった。一方、肥満あるいは腹部肥満と関連している項目はなかった。
ここで示したのは「仕事がある日」における結果だが、「仕事がない日」においては、食事の質、肥満、腹部肥満と関連を示した項目はなかった。
表4 日記法を基にした、時間栄養学的食行動と食事の質、肥満・腹部肥満との関連a

a. 調整変数は、性、年齢、最終学歴、雇用形態、世帯収入、喫煙、身体活動、過去3カ月間におけるシフト勤務の有無、クロノタイプ(朝型か夜型かの指標)、睡眠時間、エネルギー摂取量の申告誤差。肥満と腹部肥満についてはさらに食事の質で調整。
b. 体格指数(BMI)25以上を肥満とした。
c. 腹囲長が、男性90㎝以上、女性80cm以上を腹部肥満とした。
今後の展望
本研究は、時間栄養学的行動と食事の質および肥満との関連を、異なる二つの調査法を用いて検討した世界で初めての研究。本研究の成果は、世界で急速に進む時間栄養学分野において、調査方法を慎重に吟味することの必要性を強調する貴重な科学的根拠となることが期待される。
プレスリリース
時間栄養学の視点からみた食行動――食事の質および肥満との関連――(東京大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Chrononutrition behaviors in relation to diet quality and obesity: do dietary assessment methods and energy intake misreporting matter?」。〔Nutr J. 2025 Apr 28;24(1):67〕
原文はこちら(Springer Nature)