女性は最大酸素摂取量(VO2max)で肝機能異常を予測できる? 肝機能検査と体力の関連を横断研究
肝機能検査の結果と体力との関連を横断的に解析した研究結果が中国から報告された。男性では、年齢や喫煙、併存疾患などの影響を受けて明確な関連がみられないが、女性ではそれらの影響が少なく、最大酸素摂取量(VO2max)などの成績や体脂肪率などが肝機能障害の予測因子となり得るのではないかという。
“沈黙の臓器”の機能と体力との関連を探る研究
体力と疾患リスクとの関連は、主として心血管代謝疾患について多くの研究がなされている。その際に検討される臓器機能は、心臓や膵臓または全身の血管機能や糖代謝などが多い。一方、肝臓も脂質・糖代謝における重要な臓器ではあるが、肝機能の検査として行われる評価指標、例えばALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)やAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、ビリルビンなどの値と体力との関連は、関心の的として取り上げられることが少ない。肝臓は“沈黙の臓器”と呼ばれ、その機能低下は症状に現れることなく進行するため、仮に体力とそれら肝機能の指標との間に関連があるとしたら、公衆衛生対策上の新たな施策確立につながる可能性もある。
今回紹介する論文の研究では、中国の大学教員を対象に、体力と肝機能検査値との関連が検討された。著者によると、大学教員は一般に座位行動時間が長くて身体活動量が少なく、健康関連の問題を抱えていることが多いという。また、大学教員では健診において肝機能検査の異常所見が34.5%にみられ、これは一般労働者で報告されている9.12%より高いとのことだ。
女性では健康体力(HPF)の指標が肝機能検査値と関連
研究対象は330人で、女性が60.0%。性別にみた主な特徴は以下のとおり。男性は年齢43.59±10.17歳、BMI24.84±2.51、喫煙者15.9%、高血圧15.2%、糖尿病2.3%。女性は40.24±9.17歳、BMI22.10±2.84、喫煙者0%、高血圧3.3%、糖尿病1.3%。
体力は、中国スポーツ総局の体格判定基準マニュアルに即して、肺活量、VO2max、腕立て伏せ(男性)、腹筋(女性)、握力、垂直跳び、シットアンドリーチ(柔軟性)などと、骨格筋量、体脂肪率などを加えて「健康体力」(health-related physical fitness;HPF)として評価した。肝機能は8~12時間絶食後の採血により、ALT、AST、直接・間接ビリルビン、アルブミン/グロブリン比などを評価した。
健康体力(HPF)と肝機能検査値との相関
まず、健康体力(HPF)と肝機能検査値との相関を性別にみると、男性・女性ともに垂直跳びがグロブリンと有意に相関していることと、男性では肺活量などとアルブミンの有意な相関、女性ではVO2maxと間接ビリルビン、体脂肪率と直接ビリルビンとの有意な相関が認められた。相関係数の詳細は以下のとおり。
男性の健康体力(HPF)と肝機能の相関
男性では、肺活量とアルブミンがr=0.243であり、垂直跳びはグロブリンとr=0.291、アルブミン/グロブリン比とはr=-0.260という有意な相関があった。このほか、骨格筋量、体脂肪率、VO2max、腕立て伏せ、握力、シットアンドリーチは、いずれの肝機能検査値とも有意な相関が観察されなかった。
女性の健康体力(HPF)と肝機能の相関
女性では、体脂肪率と直接ビリルビンがr=-0.347、VO2maxと間接ビリルビンはr=0.212であった。垂直跳びはグロブリンとr=-0.189、アルブミン/グロブリン比とはr=0.200という、それぞれ男性とは逆に有意な負の相関があった。このほか、骨格筋量、腹筋、握力、シットアンドリーチは、いずれの肝機能検査値とも有意な相関が観察されなかった。
肝機能検査値を従属変数とする多変量解析
次に、それぞれの肝機能検査値を従属変数、健康体力(HPF)と人口統計学的因子(年齢、喫煙習慣、高血圧・糖尿病)を独立変数とした多変量解析を施行し、肝機能検査値に独立した関連のある因子を抽出した。その結果、女性ではHPFがいくつかの肝機能検査値に対して、有意な独立した関連のあることが示されたが、男性で有意な関連のあるHPF因子は特定されなかった。
男性の肝機能に独立した関連のある因子
男性のALTに関しては高血圧が有意な正の関連因子であり(β=0.232)、年齢や喫煙、糖尿病、体脂肪量などは独立した関連がなかった。アルブミンに関しては、年齢のみが負の関連因子だった(β=-0.434)。グロブリンやアルブミン/グロブリン比に独立して関連する因子は特定されなかった。
女性の肝機能に独立した関連のある因子
女性の直接ビリルビンに関しては体脂肪率が有意な負の関連因子であり(β=-0.431)、年齢や喫煙、糖尿病、高血圧、腹筋などは独立した関連がなかった。間接ビリルビンに関しては、HPFのVO2maxのみが正の関連因子として抽出され(β=0.238)、年齢や糖尿病、高血圧などは有意な関連がなかった。グロブリンやアルブミン/グロブリン比は年齢のみが有意な関連因子であり、ALTやASTに独立して関連する因子は特定されなかった。
これらの結果から論文の結論は、「HPFは、とくに女性教員の肝機能スクリーニングにおいて重要な役割を果たす可能性がある」と述べられている。なお、上記のほかに、研究参加者のうち、85人(女性55.2%)を対象に、2018~2019年にかけて追跡研究が実施され、時間的関係を検討するクロスラグ分析が行われ、体脂肪率は直接ビリルビンの有意な予測因子であることが示された(β=-0.055)。
文献情報
原題のタイトルは、「Association of liver function with health-related physical fitness: a cross-sectional study」。〔BMC Public Health. 2023 Sep 15;23(1):1797〕
原文はこちら(Springer Nature)