高脂肪食・高GI高炭水化物食・低GI高炭水化物食 持久系アスリートの代謝に及ぼす影響の比較
男性持久系アスリートを対象に、高脂肪食、高GI高炭水化物食、低GI高炭水化物食という3タイプの食事スタイルによる代謝への影響を比較検討した、パイロット研究の結果が報告された。結論は、「低GI高炭水化物食が最も脂質と炭水化物のフレキシブルな代謝につながるようだ」とまとめられている。
低GI食で適度な脂質利用を促しグリコーゲンを節約し得るか?
高炭水化物食が持久系スポーツのパフォーマンスに有利に働くことは広く知られている。ただし、体内の炭水化物貯蔵は肝臓と筋肉のグリコーゲンで約1,500~2,000kcal相当に限られている。一方、脂肪は無限に近く蓄えられており、運動持続時間や運動強度では脂質の酸化が重要なエネルギー源となる。しかし、高炭水化物食によってもたらされるインスリン分泌の増加は、脂質酸化を抑制するように働く。このことから、低炭水化物高脂肪の食事スタイルが持久系パフォーマンスに資する可能性も研究されている。
一方、高脂肪低炭水化物か低脂肪高炭水化物かという二律背反ではなく、炭水化物の質の違いの重要性も近年指摘されるようになった。より具体的にはグリセミック・インデックス(GI)の違いであり、高GI食に比較して低GI食は運動中の脂質酸化が増加するとする報告がある。それによって、肝および筋グリコーゲンの利用が節約され、競技後半のパフォーマンス低下抑制に有利に働く可能性が考えられる。ただし、これらの食事スタイルの違いによる代謝への影響は、まだ十分明らかとは言えない。
男性持久系アスリートを3群に分けて4週間介入
以上を背景として本論文の著者らは、高脂肪食、高GI高炭水化物食、低GI高炭水化物食という3タイプの食事スタイルによる代謝への影響を比較するという、パイロット研究を実施した。
研究対象者は、ドイツのフライブルク大学で募集された、18~50歳の健康な男性で、長距離、自転車、クロスカントリースキーなどの持久系競技のアスリート。週に3回以上のトレーニングを行っていることを適格条件とし、心血管代謝疾患や腎疾患の既往者、運動負荷に支障のある人を除外した。また、プロレベルのアスリート(トレーニング頻度が週に5回以上)も除外した。
事前の検出力分析から各群10名の被験者が必要と計算されたため、計30名を採用。乳酸閾値を測定しその値に基づき、ベースラインの群間差が最小になるように、以下の3群に割り付けた。
3タイプの食事介入の内容
- 低脂肪高GI食群(LF-HGI群)
- 炭水化物を摂取エネルギー比65%以上とし、摂取する炭水化物はGI70以上とする。
- 低脂肪低GI食群(LF-LGI群)
- 炭水化物を摂取エネルギー比65%以上とし、摂取する炭水化物はGI50未満とする。
- 高脂肪低炭水化物食群(HF-LC群)
- 脂質を摂取エネルギー比65%以上とし、炭水化物は1日に最大50gまでを摂取する。
介入前後で、安静時と運動負荷時の代謝関連指標の変化を比較
高脂肪食の開始に伴う代謝適応は2~4週間後に達成されることが既報研究で示されていることから、上記の介入前と介入から4週間後に、体組成や安静時および運動負荷時の代謝関連指標を比較した。
評価した代謝関連指標は、血糖値、乳酸値、呼吸交換比(respiratory exchange ratio;RER)で、このほかに運動中の消化器症状等のビジュアルアナログスケール(VAS)による主観的評価を加えた。
運動負荷には自転車エルゴメーターを用い、乳酸閾値を20W上回る最大下運動強度での10分間と、その終了10分後から、インクリメンタルテスト(増分テスト。100Wで3分から開始し3分後ごとに20W増加)を実施した。
運動負荷時の代謝関連指標に有意な群間差
LF-HGI群とHF-LC群は各1名脱落し、最終的な解析対象者数は28名だった。
各群の年齢は、LF-LG群24.2±2.30歳、HF-LC群24.8±4.21年で、LF-HGI群は50歳の被験者が1名含まれていたため27.2±9.00歳と他群より平均年齢がやや高いが、群間差は有意でなかった(p=0.489)。身長や体重、トレーニング量にも有意差はなかった。
介入期間中の栄養素摂取量はプロトコールどおりに変化しており、摂取エネルギー量に有意差はなかった。なお、2名の脱落者の理由は個人の意思によるもので、研究に伴う有害事象は認められなかった。
RERはHF-LC群で低値、乳酸値と血糖値双方のAUCがLF-LGI群でのみ低値に
では結果だが、まず、安静時の代謝関連パラメーターについては、乳酸値がHF-LC群とLF-LGI群で有意に低下していた。運動負荷時には、以下のよう有意な影響の違いが認められた。
最大下運動中の呼吸交換比(RER)は、HF-LC群では介入後に有意に低下した(-0.078±0.046,p=0.001)。一方、LF-HGI群とLF-LGI群は、介入前後で有意な変化がなかった。結果として、介入後のRERはHF-LC群が他の2群より有意に低値だった。このRERに対する影響はインクリメンタルテストからも同様に認められた。
インクリメンタルテストからは、LF-LG群の有意な変化も認められた。まず、乳酸値の曲線下面積(AUC)が、LF-LG群では介入後に有意に低下していた。この変化はHF-LC群でも認められた。ただし、LF-HGI群は乳酸値に有意な影響を与えていなかった。
また、血糖値のAUCは、LF-LG群でのみ、介入後に有意に低下していた。
主観的な評価はLF-LGI群でのみ改善
続いてビジュアルアナログスケール(VAS)による消化器症状等の主観的評価の結果をみると、LF-LGI群では4週間の介入後に有意に低下し、症状の改善が認められた。一方、他の2群は有意な変化がなかった。
低脂肪低GIの高炭水化物食が最も優れている可能性
以上一連の結果を基に著者は、以下のように考察と結論を述べている。
LF-LG食は安静時および最大下運動条件下での乳酸値の低下をもたらし、HF-LC食ではさらにRERの低下をもたらした。 ただし、LF-LGI食でRERに有意な変化がみられなかったことは、高強度運動時では炭水化物酸化を増やさずに脂肪酸化を増やすという、代謝の柔軟性を表している可能性がある。反対にHF-LC食では、高強度運動時に炭水化物の供給が不足して、運動パフォーマンスにマイナスの影響を与える可能性がある。加えて、脂肪含有量が高い場合、必須微量栄養素の摂取量が減少しがちであり、長期的な健康への悪影響が懸念される。
一方、検討したもう一つの食事スタイルであるLF-HGI食は、さまざまな運動強度において脂肪と炭水化物の効果的な利用能を低下させる可能性がある。
これらを総合的に考えると、LF-LGI食はHF-LC食またはLF-HGI食に比べて、4週間の介入により、よりフレキシブルな脂肪と炭水化物の代謝につながると言える。
文献情報
原題のタイトルは、「Effect of a High Fat Diet vs. High Carbohydrate Diets With Different Glycemic Indices on Metabolic Parameters in Male Endurance Athletes: A Pilot Trial」。〔Front Nutr. 2022 Apr 11;9:802374〕
原文はこちら(Frontiers Media)