カフェインとパフォーマンスとの関係について、国際スポーツ栄養学会(ISSN)の見解
アスリートのカフェイン摂取に関する国際スポーツ栄養学会(ISSN)の見解が、同学会学会誌「J Int Soc Sports Nutr」に掲載された。カフィンの歴史から摂取源、スポーツにおける合法性、体内動態、作用機序、パフォーマンスへの影響、パフォーマンスへの影響を規定する因子、持久系・筋力系での相違、高地環境・暑熱環境での適用、作用発現と遺伝との関係、副作用・有害事象、摂取タイミング、摂取経路(チューインガム、マウスリンス、パウダー、点鼻、カフェインバー)、他の成分との併用(クレアチン、炭水化物)など、非常に広範な内容にわたってまとめられている。
ISSNによる11項目の見解
論文ではまず、カフェイン摂取に関するISSNの見解として、入手可能な文献の批判的評価の結論として11項目を掲げ、それに続いて詳細な解説を加えている。ISSNが提示した11項目の見解とは、以下のとおり。
- すべてではないが多くの研究において、カフェイン摂取は、スポーツパフォーマンスを高めることが示されている。カフェインのメリットは、持久力、スピード、筋力、ジャンプ、投球を含め、幅広い有酸素および無酸素運動でみられる。
- カフェイン摂取による有酸素持久力への効果は、個人によって異なる。
- カフェインは3~6mg/kgの用量で摂取すると、スポーツパフォーマンスを改善することが一貫して示されている。カフェインの最小有効量は不明だが、2mg/kgと低値のこともある。その反対に非常に高用量のカフェイン(例えば9mg/kg)は、副作用の発生率が高く、エルゴジェニック効果を引き出すために必要とは思われない。
- カフェイン補給の最も一般的に使用されるタイミングは、スポーツ開始の60分前。ただしその最適なタイミングは、カフェインの供給源に依存する可能性がある。例えばカフェインカプセルと比較して、カフェインチューインガムは摂取からスポーツセッション開始までの待機すべき時間が短い場合がある。
- カフェインは、トレーニングを行っている人と行っていない人の双方のパフォーマンスを改善すると考えられる。
- スポーツパフォーマンスへの影響の個人差、およびカフェイン摂取後の睡眠や不安感といった悪影響は、カフェイン代謝に関連する遺伝的変異、および身体的および心理的反応に起因する可能性がある。また、習慣的なカフェイン摂取などの他の要因も、これらの反応に影響を与える可能性がある。
- カフェインは、ほとんどの人において、注意や警戒を含む認知機能に対してエルゴジェニックとして作用することが示されている。
- カフェインは、睡眠不足の条件下で、一部の人の認知および身体パフォーマンスを改善する可能性がある。
- 暑熱環境や高地環境での持久力スポーツにおけるカフェインの使用は、投与量が各々3~6mg/kg、4~6mg/kgの範囲の場合に支持される。
- カフェイン入りチューインガム、含嗽(うがい薬。マウスリンス)、エネルギージェルなどの代替供給源は、主に有酸素運動でパフォーマンスを改善することが示されている。
- カフェインを含むエナジードリンクとプレワークアウトサプリメント(トレーニング前に摂取するサプリ)は、無酸素と有酸素双方のパフォーマンスを向上させることが実証されている。
本論文は以上が結論と言えるが、これに引き続きカフェインに関する詳細な解説が加えられている。それらから一部を抜粋して紹介する。
アスリートとカフェイン
カフェインはココア、茶など、数十種類の植物に自然に含まれており、コーヒー、ソフトドリンク、緑茶などの飲料形態で頻繁に摂取されている。欧米諸国では成人の約90%が約200mg/日を摂取していて、カフェインを利用した飲食物としては、サプリメント、チューインガム、エネルギージェル、エアロゾルなどがある。カフェイン含有製品はミルクチョコレートの1mgから一部の栄養補助食品の300mgと幅がある。
国際オリンピック委員会(International Olympic Committee;IOC)や 世界アンチドーピング機関(World Anti-Doping Agency;WADA)は以前、カフェインを禁止物質としていたが、2004年に禁止リストから削除した。2015年時点でアスリートの76%がカフェインを使用している。アスリートの尿中カフェイン濃度の高い競技種目は、サイクリング、陸上、ボートなど。
競技前や競技中の不安は、パフォーマンスだけでなく怪我のリスク増加を招く可能性がある。不安になりやすいアスリートは、カフェイン使用によって不安のリスクを増大させ得る。
カフェインとクレアチン
クレアチンとカフェインのサプリメントの双方に、スポーツパフォーマンスに対するエルゴジェニックなメリットを支持するエビデンスがある。両者の同時摂取は多くのアスリートが強い関心を寄せている。
高用量のカフェイン(9mg/kg)とクレアチンの同時摂取は、双方の作用メカニズムを打ち消すように働くことを示唆するデータがあり、慎重に使用すべきとの見解がある。今後のより詳細な検討結果が得られるまで、カフェインとクレアチンは別々に摂取するか、またはクレアチンを使用する場合はカフェインの大量摂取を避けることが賢明かもしれない。
カフェインと炭水化物
カフェインと炭水化物の同時摂取の影響は、矛盾した結果が報告されている。これは、実験プロトコルの不均一性が原因である可能性がある。ただしシステマティックレビューとメタ解析の結果は、炭水化物とカフェインの同時摂取は炭水化物単独と比較した場合、持久力パフォーマンスを大幅に改善すると結論付けている。その一方、カフェインによるパフォーマンス上の利点は、炭水化物に追加した場合において、カフェイン単独摂取をプラセボと比較した場合よりも小さい。
多くのアスリートが競技前および競技中にカフェインを摂取することを選択する。それに加え、運動後の筋肉グリコーゲン再合成に対するカフェインの影響への関心も高まっている。運動後に炭水化物のみ(4g/kg)を摂取する場合と比較して、カフェイン(8mg/kg)と炭水化物(4g/kg)を同時摂取した場合、グリコーゲン再合成が速いことが報告されている。さらに、運動後のカフェインと炭水化物の同時摂取は、炭水化物のみの摂取と比較して、高強度インターバルランニング能力を改善するというエビデンスが存在する。この効果は、運動後の筋肉グリコーゲン再合成率が高いことが原因と考えられる。
ただし、運動後の炭水化物摂取量が十分な場合には、カフェインはグリコーゲン再合成の上乗せ効果は得られないかもしれない。また、運動から就寝までの時間が短い場合には、就寝前にカフェインを摂取することになり、睡眠障害を引き起こす可能性があることを考慮せねばならない。
本論文はこれらのほか、冒頭に記したように、カフェインの効果を多角的に分析している。まとめとしては、カフェインは大多数の研究によってスポーツパフォーマンス上の有用性が支持されていること、一方で睡眠障害などの副作用に留意すべきであり、副作用は用量依存的に増強することなどが述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「International society of sports nutrition position stand: caffeine and exercise performance」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2021 Jan 2;18(1):1〕
原文はこちら(Springer Nature)